今年七年目を迎えた
<シネマコリア 2005>
(7月30日〜8月27日に名古屋、札幌、東京、大阪各地で開催)日本初公開&未配給作品が上映されているこの映画祭の、今年の4作品のうち1作品である『黄山ヶ原』は、三国時代に新羅と百済の間で繰り広げられた「黄山ヶ原の戦い」にまつわる悲喜劇を笑いと涙で描いた異色の歴史コメディ。韓国では270万人を動員するメガヒット作であり、かつ映画評論家協会の2003年公開映画ベスト10にも選ばれ、大衆からも評論家からも支持された作品である。この『黄山ヶ原』の制作・企画・共同脚本を担当したチョ・チョリョン氏に作品について語ってもらった。



— 韓国において、テレビでの時代劇というのは多いですが、映画において時代劇というのはどのようなポジションなのでしょうか。  

「韓国では植民地時代以降の50年代、60年代に韓国映画の全盛期というのがありました。その時期には多くの時代劇が、映画になりました。しかし、70年代80年代になって時代劇は衰退、2000年以降再び増えました。その為、時代劇では若いスタッフがおらず、年配のスタッフを用意する必要がありました。韓国ではそのように時代劇の伝統は途切れていたので、時代劇の様式を再構築する必要がありました。様式化するにあたって日本映画はとても優れており、溝口監督などはかなり参考になりました。そのような事情で今回の映画制作には3年程の年月がかかることとなりました。制作費は、カン・ウソクさんが全て負担してくれましたが、彼がいなければ、この映画は制作きなかったでしょう」

— 現在でも出身地が生活する上で影響をあたえているという韓国ですが、キャスティングする際に、俳優の出身地は考慮したのでしょうか。

「主人公級や、助演やエキストラの人の配役は、出身に配慮しました。プリプロダクション、リハーサル、撮影現場は常に新羅か百済かということで、相手側には絶対に負けないといったライバル心が自然に培われていました。2つを戦わせるという全体的構想は作家が決めましたが、具体的な部分は現場でできました。なので、この映画はスタッフ・キャストが作ったと言っても過言ではありません。階伯の妻を演じた、キム・ソナは標準語しか話せませんが、非常になまりの強いおばさんの方言を録音し、熱心に勉強していました」

— 映画の新羅と百済が戦うシーンで、サッカーのサポーターを真似るような、笑えるシーンが多くありますが、それは誰のアイディアですか。

「韓国には三国時代に関する歴史書がありますが、それには、黄山ヶ原の戦いの記録が、”一日に4回合戦があって、そのすべてが百済が勝った”と2行しか記載されていません。実際の戦いはとても悲しく、惨劇であり、それを映画にすることも意味のあることだとは思いますが、社会的に辛い時期である現在の韓国社会において、悲劇を描くのはどうかと思い、韓国社会に元気を与えるられる、お祭り的な明るいものにしたいと思いました。製作したのが2002年でW杯で盛り上がっていたということもあり、サッカーの応援のシーンになりました」



— 出身の異なるスタッフ、俳優達の意見のバランスは、どのようにとっていたのでしょうか。

「実は映画のラストは、撮影の最後の最後まで決まっていませんでした。出身地のことなど複雑な事情もありました。監督が考えたラストは曖昧な感じで、私はあまり賛成できるものではなく、いろいろ二人で話しました。私が考えたのラストは観客にショックを与えてしまうものでした。そこで、私達はラストを書くことから離れて、俳優やスタッフに任せる形になりました。シナリオを書き終わって、監督をしてくれる人を探しましたが、すべて断られてしまい、仕方なくイ・ジュニクが監督を務めることとなりました。彼は10年振り、しかも映画に関する正規の授業を受けていないということで、映画を撮影する前にスタッフを皆を集めて、意見があるものは言おう、という参加型の映画となりました。撮影中は真夏で35度のなか鎧を着るという状況でしたが、皆で仲良く撮影することができました」

— カン・ウソクさんの名前がでましたが、 『シルミド』 『ブラザーフッド』 という大作が苦戦しているようですが、韓国では大作は苦戦しているのでしょうか。

「『シルミド』は興行的には成功しましたが、私から考えると実験的な部分があったと思う。『シルミド』以前の大作とそれ以降の作品は変わってきていると思います。それまでは韓国映画は大作でも技術な部分で未熟なものがありました。しかし、試行錯誤していくうちに、失敗することが少なくなってきています。過去の蓄積したノウハウのお陰で、現在は予算に合った規模の作品を作れるようになってきていると思います。これからは、アジアの市場が世界に広がっていくかと思います。もう一つは韓国では映画は国内向けに作られていましたが、これからは中国、香港、韓国、日本といった、アジア地域を全体にを念頭において制作されることが増えてくるのではないかと思います。国内のみに向けて、莫大な予算をかけて製作して失敗すると大変なことになるが、アジア全体に向けて製作できたら、それほど大きな賭けではなくなるのではないでしょうか。これからは、ハリウッドに依存することなく、自分達ですべてファイナンスできるようになる日が来ると言われています。アジア各国は、今までのような文化交流のみでなく、事業も含めて交流が盛んになると思います」

執筆者

t.suzuki

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