京都の劇団「ヨーロッパ企画 」が生み出し、演劇のメッカ・下北沢の劇場で上演された「サマータイムマシン・ブルース2003」から全てが始まったのです。
この公演は“オモシロすぎ!!”と多くの観客が殺到し話題を呼んだ作品で、もともと芝居好きで『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』『交渉人 真下正義』等、数々の大ヒット作品を世に送り出している本広監督が、本作にも出演している佐々木蔵之介さんに勧められ観に行った作品でもあります。そこで本広監督は、“素晴らしい!こんなにも素晴らしい芝居があったのか。”と驚愕し、自ら初プロデュースを買って出るほどの気合の入りようで一気に映画化への道を駆け抜けました。
タイムマシンを巡って、昨日と今日を行ったり来たり。思わず頭を抱え混乱してしまうかもしれませんが、最後には全ての????が解決されるのです。

「冒頭の10分間はたるいかもしれないけど、その後の展開を観たら絶対もう1回冒頭の10分が観たくなる!」
その言葉通りパズルのピースがうまくはめ込まれた時のあの爽快感と言ったら…!

そんな2005年、この夏の話題作が映画『サマータイムマシン・ブルース』なのです。

9月3日(土)の公開に先駆けて、本作で初プロデュースに挑戦した本広克行監督にお話を伺ってきました!
本広監督は初プロデュースをしてみての感想や、本作が完成するまでの経緯、出演者全員で合宿をした時の話などとても気さくに語って下さいました!

『サマータイムマシン・ブルース』は、2005年9月3日(土)、渋谷アミューズCQN、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー!!



—-本作が初プロデュース作品ということですが、監督とプロデューサーの違いや、初プロデュースしてみての感想をお聞かせください。
違いは、僕がやっているプロデューサーって現場レベルなので、キャスティングとかスタッフィングとかそういうものに口出しするプロデューサーなんですよ。でも、本来プロデューサーってもっと大きな資金を集めてきたりとか、色々な宣伝をしたりするのが主な仕事だと思うんですが、僕がやっているプロデューサーってほとんどディレクターみたいな感じなんです。だから初プロデュースと言われても、あまり実感がなくて。今までやってきたことと変わりはないですね。

—-では、大変だったことは?
そうですね。1番大変だったのはキャスティングですかね?すごく悩みました。何故かと言うと、そこそこ知名度のある人だとやっぱりスケジュールが合わないんですよね。でもこの作品は集団劇なので、お互いスケジュールを合わせて合宿生活をしたり芝居の稽古したり…そうやって皆で作り上げていきたいと思っていたので。そこで知名度を取るかどうするかで葛藤はありましたね。知名度がある人だと皆で作り上げていくことは出来ないし、知名度がない人だと宣伝の時にしんどいし…ディレクターの僕は“スケジュール空いてる人を全部連れて来て!”って言うんですけど、プロデューサーの僕は“宣伝を考えると知名度がある人を!”って考えてしまうし。かなりの戦いが繰り広げられました!(笑)

—-キャストについて。主演に瑛太さん、ヒロインに上野樹里さんをキャスティングした理由と、今回芸人の方や舞台で活躍している人など、バラバラなジャンルからキャスティングされていますがどのような理由からでしょうか?(野良犬のケチャも含め)。
この映画は1年前に撮影したんですよ。樹里ちゃんにしても『スウィングガールズ』がまだ世の中に出てくる前で、知ってる人は知ってる位の感じだった。瑛太も『ウォーターボーイズ』が終わった後という感じで。でもきっと1年後彼らは知名度も上がり、人気があって粋のいい俳優さんになっているんだろうなぁ、と考えてキャスティングをしました。あと、いつもTV番組ばかりやっている人を集めてもお芝居が薄いので、本作はコメディだからお笑いの人がいてもいいし、小劇場でやっていてお笑いの上手い人とか、結構センスが良いのに運がなくて隠れてしまった人とか、そういった人たちをピックアップして全員呼んで面接を行いました。ちなみにケチャはまだ子犬だったから、まずしつける所から始めました。リモコン噛ませたり、穴掘る練習させたり。もう大変でしたねぇ。ケチャだけで1カ月かかりましたから。だからよく見ると少し成長しちゃってるんですよ。段々大きくなって、最後はお兄さんの顔になってて!かわいいですよね(笑)

—-このストーリーは下北沢の劇場で上演された「ヨーロッパ企画」の「サマータイムマシン・ブルース2003」を監督が観て、映画化を思い付いたという事ですが、詳細を教えてください。
佐々木蔵之介さんと演劇好きの役者さんたち皆で飲んだ時に、どこの劇団が1番面白いかを報告しあったんですよ。そこで蔵之介さんが「ヨーロッパ企画」を教えてくれました。アタリ・ハズレがあると聞きましたが、とにかく観に行ってみようと思い、すぐ「サマータイムマシン・ブルース2003 再演」というものを観に行ったんです。それがもう本当に素晴らしくて!今夏にまた再演やってもらいますが、こんな面白い芝居あるんだぁって。これは映像にしても絶対面白くなると確信し、主催の上田くんに一緒にやってみないかと声をかけたんです。でも彼らも最初は“なんで突然そんな大きい話が!?僕らを騙そうとしてるの?”ってビックリしていましたね(笑)だから僕は積極的に皆の所へ遊びに行ったりして段々と仲良くなり、やっと形になっていったのです。それからはうちのスタッフと劇団の子たちで和気あいあいと楽しく作っていった感じです。

—-「ヨーロッパ企画」の上田さんは舞台の脚本はもちろん、本作の脚本も手掛けていますね。そういった若い人が出てきて活躍している事についてはどう思いますか?
この映画は「play x movie」(プレイ バイ ムービー)というサイトを立ち上げて、要は演劇と映画がコラボレーションしたものを必ず作っていこう!というシリーズ企画なんです。HPとかも1つが終わったら次のジオラマみたいなものをどんどん作って横に繋げて行こう!という壮大なプロジェクトなんですけど一体何年かかるんだろう?(笑)なので、助監督・カメラマン・Webサイトを制作する人、全てに若い才能を集結させて作って行こうという考えなのです。かたや「交渉人〜」とか大きな映画の場合は、新人の中で活躍している人を一軍に投入するというか。そうやって皆に活躍の場を与える、そんな映画作りをしようと思ってるんです。

—-撮影前に、SF研とカメラクラブ合同の合宿生活をされたそうですね。その中で「ワークショップの兄貴」として升毅さんが参加されたという事ですが、なぜ彼を“兄貴”として選んだのでしょう?そしてその合宿では主にどのような事をしたのでしょうか?
升さんは元々舞台出身で関西では「MOTHER」という劇団に所属してブイブイ言わせてたんですよ(笑)よく彼とは芝居やキャスティングの話をプライベートでするんです。升さんも忙しいのに“出られるポイントで出るよ〜”なんて仰ってくれたので、じゃあ若者たちに升さんの演技理論を伝えてやってください!ということで。1日目はそうでしたが、2日目は「ヨーロッパ企画」の子たちが京都から来てワークショップを開いたりだとか。そうやって皆に色々な役者さんからのアプローチを受けてもらった感じですね。そこから色々なことを吸収して欲しいと思いまして。升さんはプレスの役名の箇所に??????とありますが、実は色々な所に少しずつ出てるんです。“神様”って役なんですけど(笑)、最後カメラクラブの女の子が“これは運命かもしれない。そんなに足掻いても全て運命だったのかもしれない。”という台詞がありますが、それは誰が見ているのか?っていうことで神様と言っているんですが、本当に神様は彼らが変わらないようにチェックしているという役回りなんです。2回目観た時に多分気付くキャラクターです。升さんは5役とか6役とかそれ位あちこちで出てます。もう冒頭から監視してますから(笑)





—-色々とタイムマシンを巡って、過去と今日を行ったり来たりする設定ですが、とても複雑で頭の中であれこれパズルを組み合わせるように観てしまいますね。監督は撮影中、複雑に絡み合った構成に頭を抱え込んだりしませんでしたか?
僕を含めスタッフ全員が混乱してました。でもすごく混乱しても、そこで分からないままにしないで皆で話し合って分かりやすくするにはどうしたらいいのだろう?ということで時間軸の表を作ったりしてやってましたよ。混乱しながら観ていても、ある時全てが繋がっていく感覚があるんですよ。例えばミステリーを観ていて、犯人が分かった時、あの時こうしていたとか思い出すともう1回観たくなったりするじゃないですか。これは人を殺したりする映画ではないけど、そういうサスペンス要素として話の構造をこねくり回して、2回3回観ても面白くなるように作ったんです。好きな映画は何度でも観に行きますからね!ちなみに僕の場合は「スターウォーズ」シリーズですね!

—-もし本当にタイムマシンがあったら何をしますか?
そうだなぁ。毎回こういった取材で聞かれるからネタがなくなってきた(笑)。今日の気分では、例えば自分の産まれてくる所を見てみたいですね。血だらけになって母親から出てくるのを見ればもっと親に対して優しくなれるのかなぁって(笑)。自分にはそういった写真や映像はないけど、今の子の場合はムービーも回せるし。言ってみればその時のシーンに帰れる訳ですもんね!うちの子にしても、彼が出てくる所をカメラで収めているんですよ。映像はタイムマシンではないけど、それを観れば当時に帰れるんだろうな、どうなっていくのかな?この世代の子たちはなんて考えながら、すごく楽しみで毎日ほんの少しずつでもカメラ回したりしてるんですよ(笑)。」

—-テンポ良くスピード感もある会話を繰り広げる為に、どのような点で工夫や注意をしましたか?
とにかく彼らを一緒にいさせることが大テーマというか…。微妙に年代も3つの層があって、28歳の層と25〜26歳の層と、樹里ちゃんたち20歳位の層とで。それが微妙にバランスを取れるようにキャスティングしました。言い方は悪いけど少し素行の悪い人、すぐに欲望に持っていこうとする人や、モラルの高い人たちですね。そういった人をキャスティングしたっていうのもあるし。でもみんなすごくいい子たちなんですよ。いじめたりとか、女の子をいやらしい目で見たりとかは全くなくてすごく健全な感じ。それがこの映画には必要だったので。普通だったら恋愛感情が生まれてきてもおかしくありませんが、“それがないから!君たちには!”って最初に言ってから始めたんです。合宿でも男子全員を同じテントに寝かせたりしました。そうすると微妙に自分の場所のスペースが出来てくるんですよ。それで少しずつ力関係を作っていったりだとか(笑)。“常にみんなで一緒にいなさい!”ということで、撮影現場でも横にテント立ててゲームとかで遊べるようにしたり。そうやってコミュニケーションが取りやすい環境を作ったのです。

—-SF研の部室や商店街の下町っぽい風景がとても印象的でした。撮影場所は本広監督の故郷・香川県という事ですが、特に銭湯「オアシス」や、薬局「くすりのまつい」、名画座は古いながらもレトロ感があっていい雰囲気でした。あれは全て実際にある建物ですか?
大体あるものですね。銭湯「オアシス」とか、名画座は美術さんが作ったんですが、モデルとなった建物が近くにあったりしました。懐かしくて変わらない町という設定だったので。

—-本広監督は今後脚本を手掛ける予定はないのでしょうか?
僕は当分ないですねぇ。脚本があってそれを演出した方が面白いし、冷静に作品を見ることができるんです。自分で脚本書くと多分コントロールできないんじゃないかな?想いが強すぎて。ここはこうじゃないんだ、とか書いている時に多分そういったシーンを思い浮かべながらやると、映像にしていく時に妥協の連続ですからね。多分それがすごく辛いと思うんですよね。人が書いたものを更に面白くします!とアレンジをすることが演出なので、脚本家の人たちも喜んでくれるんじゃないかと思うんです。反省するところもあるでしょうけど(笑)。」

—-本広監督は、今までに「踊る大捜査線」はじめ、本作もそうですが数々の大ヒット作品を生み出してきましたね。大ヒット作品を生み出すコツがあれば教えてください?
僕はやっていること自体は、ヒットしている作品もそうではない作品も全部一緒なんですよね。お客さんに楽しんでもらうというか、映画館に来てくれてる人たちに苦痛な想いはさせないということを大前提にして。こんなにも同じ映像が長々続くと飽きてしまうだろうか?とかすごく考えてしまうんですよ。だから娯楽の精神に則って、笑わせて・泣かせて・最後何か残る感動を!という3つの3原則で作るんです。映画館出る時にはお話しながら出て行きたいじゃないですか!良い映画って出口が賑やかなんですよ。声がいっぱい聞こえてきて。でも逆に悪い映画はみんな何も喋らないんです。エレベーターでもし〜んとしちゃって(笑)。僕はね、自分の映画を観に行ったら必ずトイレへ行くんですけど、トイレの話が1番リアル!あそこはどうだったよね、とか話してたり泣き崩れて必死に涙を乾かそうとしている人がいたりね(笑)。面白いですよ、映画館のトイレって。そういった精神なので僕もなるべく楽しませようと努力しています。それに僕には優秀なプロデューサーの方たちが沢山いるので、彼らが戦略作って一生懸命売ってくれるんです。それがただ上手くいってるにすぎないなぁと思っています。映画は監督1人が作るものではないので。でも“俺が映画だ!”って人沢山いるのかもしれないけど、それはそれでその人が生み出している文化を観に行くような感じで(笑)。僕はそうではなく、週刊誌というか漫画を見るような感じで気軽に楽しめるものを!っていうのを目指しています。

—-最近観た舞台の中で面白かったものがあれば教えてください。また舞台で観て面白そうなものがあれば映画化を考えますか?
いっぱいありすぎて!すごい観てますねぇ、舞台は。小劇場って素晴らしい才能が集まっているんですよ。それをみんなTVや映画の人が知らないだけで。相当面白い人たちがいますよ。だから特に“これ”とは言えないんです。どこまでも行きますよ、僕は。面白そうなものがあれば。
映画化は…そうですね。本作は先ほども話した「play x movie」と言って演劇と映画のコラボレーションでやっています。これが10本続けばいいなと思っているんです。だから次の劇団、次の劇団と声をかけて一緒に映像の脚本にしていこう!というプロジェクトなんですよ。今回は主演が瑛太くんでしたが、次はまた新しい若い演技者をどんどんピックアップしていこうかと思っています。地道に演劇展開している劇団の子たちも必ず映画が公開する時には、演劇も再演する!ということをやっていこうと。続けばいいんですけどね!(笑)

—-では、最後に本作をこれから観る方へメッセージを!!
本作は1回目観た人は多分みんな混乱します。1回目で面白いと感じたらかなり知能指数の高い人です!映画を見慣れている人が観るととても面白いと感じてくれると思いますが。色々インターネットや本とかで出てくると思うんですけど、それを見てもう1、2回観てもらえればすごい傑作だと思います。3回目観たときに映画に組み込まれた遊びに気が付くんですけどね(笑)。だから同じ作品を何度も何度も観て味わってもらいたい、そんな想いで作った作品なので色々な楽しみ方があります。冒頭の10分は見所です。でも初めて観る人は冒頭の10分はたるいんですよね、きっと。なんでこんな映画観にきちゃったんだろう?ってみんな後悔するらしくて(笑)。でも、その後の展開で冒頭の10分をもう1回観たい!となるんですよ。“あそこであんな芝居してた”、とか“これはこういった意味があったんだ”とか。よく注意して観てもらえるとパズルムービーとしてはとても面白いですね!

執筆者

Naomi Kanno

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