今年1月に全国130館以上で公開された『パッチギ!』は、大ヒット&ロングランを記録。日本全国を感動で包み込んだ本作が、DVDとして7月29日(金)に発売される。
 激動の時代に生きる高校生の青春を描いた『パッチギ!』の魅力は語りつくせない。泣きや笑いがふんだんに盛り込まれ、在日問題という社会性をも融合させたストーリー、挿入歌として登場する伝説のフォークソング「イムジン河」の美しい音色、そして井筒和幸監督の演出によってその魅力が際立ったキャストたち…。
 その中の1人、物語を盛り上げるキャラクター・朝高生アンソンを演じた高岡蒼佑は、話題作『バトル・ロワイヤル』『青い春』『鉄人28号』などその作品ごとに印象的な演技を披露してきた期待の若手俳優。「僕は康介とか日本側に魅力を感じなかったんです。朝鮮側の人間を日本人が演じるというので、ぜひやってみたいと思いました」と語った彼は、もちろん本作『パッチギ!』でも素晴らしい演技を見せている。

$orange ☆『パッチギ!プレミアム・エディション』(税込5,985円)/『パッチギ!スタンダード・エディション』(税込3,990円)は、ハピネット・ピクチャーズより7月29日(金)発売!$




——井筒和幸監督の作品の話が来た時、どう感じました?
「え、あの井筒監督?やだよー無理無理」って(笑)。「虎の門」とか見てて、この人に僕は何を言われてしまうんだろうと怖かったんです(笑)。僕、打たれ弱いんですよ。ほめられて伸びるタイプなので、井筒さんに会うのは本当に嫌だって思ってました。でも実際はすごく優しくて。「ちょっと待てよ、おかしいぞ」ってくらい(笑)、普通に話してくれました。

——ちなみにどんな話をされたんですか?
 その時、僕は髪を染めてたんです。「何で染めてるんだ」って監督に聞かれたので、「免許の更新だったからちょっと気合いれました」とか言ったら、「おー。そうかそうか」って。「あれ、突っ込まないの?」って拍子抜けでしたね(笑)。クランクインは朝高生3人のシーンだったんですけど、それも一発オッケーで。その後、旅館に帰った皆と「ちょっとおかしくね?」「井筒監督優しくね?」とかいって(笑)。でも日がたっていく内に、1人、また1人と厳しい指導のターゲットにされて…(笑)。そのうちの1人とか、「もう俺死にたい」とか言い出すし(笑)。確かに撮影が進むにつれて厳しくなったけど、でも常に愛情を持って接してくれていましたね。

——アンソン役に選ばれた理由は聞いていますか?
 特に聞いてないですね。初めて会った時、とてもフランクな方だったんで、「ケンカがしたいです」って監督に言ったんですよ。それをかなりアピールしました。台本を読んだ限りでは、僕は康介とか日本側に魅力を感じなかったんです。朝鮮側というのはやっぱり何かを持っているし、しかもそれを日本人が演じるというので、やってみたいと思いました。

——役作りについて言われたことは?DVDの特典映像を見る限りでは、監督はキャストになかなか厳しい指導をしているようでしたが。
 監督からは「思い切って演じてくれ」ぐらいでしたね。あまり強く言われることはなかったです。多分、監督は俺が打たれ弱いのを知ってたんだと思います(笑)。
 井筒監督は、演技指導してくれる時、実際に自分で演じてみせてくれるんです。普通の映画やテレビの監督さんだとやって見せても役者さんみたいに上手にはやれないものなんですが、井筒監督はパーフェクトにやっちゃう。「もう監督が代わりにやってよ」って思うくらい(笑)。それくらい上手でしたね。僕らがやるよりおもしろく見せるし、笑いも取れるし。すごいですよ。
 あと、在日の知り合いはわりといたんで、そのお母さんに歴史のこととか聞いたり。撮影前にしたのはそれくらいで、特に僕は役作りをしていないですね。あとは、関西弁を話せるようになることと、動けるようにしておくことぐらいかな。関西弁は何回テープを聞いてもどこが間違っているのかわからない時もあって。これはもう無理だと思ったので、ずっとプライベートでも関西弁で話すようにしてました。関東の言葉を話すと、すぐそっちに戻っちゃうから。だからマネージャーが連絡してくる時も、東京の友達から電話が来る時も関西弁。なので「お前ちょっと気持ち悪いんだけど」って言われました(笑)。
(次のページへ続く)




——作中ではすごい蹴りを何度も披露してましたね。でも、校庭を走ってドロップキックをするシーンで怪我をされたとか…。
 そうなんです。肉離れみたいになってしまいました。しかも病院に行ったら、1〜2ヶ月歩けないって言われて。そしたら「アンソンは骨折したっていう設定にするか」とか監督が本気で話しているんですよ。それを聞いて本当にやばいと。その時、在日のお世話になっていた方が中国整体のゴッドハンドを知ってるって連れていってくれたんです。そこで足を全く動かせなかったのが1日目で動くようになって、2日目はちゃんと歩けるようになって、3日目には走れるようになってました。でもその治療がすっごい痛いんですよ。先生は「痛いだろ痛いだろ」って喜んでた(笑)。治療中、いい思いもしましたけどね。普段は古い旅館に泊まってたんですが、治療中はキレイなホテルだった(笑)。だからしばらくは「まだ痛い」って言いたかったな(笑)。
 
——キャストは同世代の方が多いですね。現場では励ましあったりとかも?
 ありますあります。一緒の部屋だったヤツがずっと「死にたい死にたい」って言っていたんで(笑)。「いや、大丈夫だって。監督はそういうつもりで言ってるんじゃないんだって」とか「本当は愛を持って言ってるんだって」とか励まして。それでも「いや、監督は僕がもう死ねばいいと思ってるんだ」って浮き上がってこない(笑)。本気で落ち込んでて、しかもどんどんやせ細っちゃって…(笑)。どうしようと思いながら、「そんなことないよ」とかずーっと言ってましたね。でも終盤になってきて、また監督が優しくなってきたんですよ。そしたら「楽しくなってきた」って回復してましたけど(笑)。キャスト同士の交流は今もあります。こないだ違う映画で奈良に行ってたんで、一日空いたから京都に寄りたいなと思って行ってきたんですけど。チェドキ(尾上寛之)にたまたま電話したら俺も京都いるっていうんで、一緒に鴨川を歩いたりしました。

——鴨川って…デートコースとして有名ですよね。
そうです(笑)。ちょっと気持ち悪いんですけど(笑)。やっぱり京都は懐かしいなーって気分で歩いてました。

——高岡さんは深作欣二監督、豊田利晃監督、富樫森監督、最新出演作『春の雪』では行定勲監督などいろいろな監督とお仕事をされていますが、一番影響を受けていると思う方はいますか?
 そうですね、皆さん印象的なんですけど…。でも井筒さんかもしれない。多分、出演した人は皆そう答えると思います。演出方法とか天才的ですから。感情を込めるシーンとかも、こうやれば悲しく見えるやろ、というのを的確にズバズバ注文して、しかも自分でも演じる。すごくわかりやすいんですよね。実際に会う前は怖いというイメージしかなかったですけど、今は本当にプロの演出家だなと。皆プロの演出家なんですけど、役者のいいところを引き出すのが絶対にうまいと思う。あと、自分が一番寝ていなくて疲れているはずなのに、そういう表情を見せない。そこも圧倒されたし、そっちがその気ならこっちも!みたいな気にさせてくれる監督ですね。

——『パッチギ!』以後、自分のここが変わったなと思うところは?
まったく妥協をしなくなりました。井筒監督が妥協をしない人なんで。

——ところで、アンソン、チェドキ、バンホーの3人は現役朝高生に人気と聞きましたが…。
そういうのってとても嬉しいですね。朝高生には自信を持ってもらいたかったから。絶対に後ろ向きにならないでほしかったし、そういう気持ちを持って演じていたかもしれないですね。差別で苦しんだ人とかもいっぱいいますから。

——最後に、これからDVDを観られる方にメッセージをお願いします
これを観て、前に進んでほしいです。絶対に後ろ向きにならない作品ですから!

執筆者

yamamoto

関連記事&リンク

作品紹介
公式サイト