『イルマ・ヴェップ』のオリヴィエ・アサイヤス監督が、2004年カンヌ映画祭で主演女優賞を獲得した『クリーン』の前に題材として挑んだのは、インターネットで繰り広げられるアンダーグラウンドな世界。ポルノ・アニメーションを手掛ける日本企業の買収劇を中心に、様々な人間関係が交錯し裏切りにつぐ裏切りを見せる『DEMONLOVER』は、細やかな心理描写と現代社会の象徴的な描き方に定評のあるアサイヤス監督の新境地といっていいだろう。
 またキャストに関しても注目すべき点は多く、『グラディエーター』のコニー・ニールセン、『ブラウン・バニー』のクロエ・セヴィニーという競演も、日本人代表として大森南朋、山崎直子が出演していることも見逃せない。
 監督自身は、インタビュー中にチョコレートを勧めてくれるなどとても柔和な方。けれど、作品について語るその言葉には現代社会への鋭い警告が内包されていた。

$navy ☆『DEMONLOVER』は3月12日(土)よりシアター・イメージフォーラム他にて公開!$



——今回なぜ日本を舞台の一つにしたのでしょうか?
 社会が変貌を遂げ、進化しているなかで、アジア、特に日本は無視できない存在です。経済に大きな流れがあるといえば、アメリカ、日本を含めたアジア、ヨーロッパという流れがあります。その大きな本流の中で、今回企業社会というものを描くのに自然に日本というのは避けて通ることのできない舞台だなと感じました。

——数ある日本文化の中で、題材にアニメーションを選んだのは?
 日本を舞台にしようとした時になって、ようやく日本のアニメを知りました。ですのでアニメがまずありきではないです。僕が日本のアニメに寄せる関心というのは一般の人の好奇心程度でしたし。でも、日本のアニメがこれほど世界において、しかもティーンエイジャーの文化においてこんなに浸透している、中心的な存在として君臨しているという現象自体が面白いなと思ったわけです。現代社会というのは画一化されていて、どこに行っても同じ文化がインターネットで流されています。そこで今回、日本のアニメを一つの兆候、現象、症状という意味合いで、そして現代社会の文化における日本の重要な役割を表す一例として挙げたわけです。 

——社会の中で生じる矛盾や現代社会の闇を描くのが監督の作風ですが、今回アニメやインターネットを題材にした狙いを詳しく教えていただけますか?
 インターネットというのは、瞬時に世界を結びつける、情報を同時に入手させる、文化を同時に経験させる、変化を画一化させる道具と言えます。リアルタイムで常に増殖している図書館でもある。いうなれば人間の脳のような役割をしているんですね。人間の脳とは人にとって無意識領域で、かつ闇の部分といえると思います。そこで僕がいつも現代社会の闇を描いているということとの共通性が生まれてくると思うんですが。インターネットを通してそういう暗い部分にあるのが、実はポルノグラフィティーであったり、暴力的なサイトであったり。インターネット産業におけるポルノやバイオレンスは、非常に大きなシェアを占めているんです。今までもセックスや暴力への人間の関心はあったでしょうが、これまでは隠れていたし、イマージナルな形でしかなかった。それがインターネットという誰でもアクセスできる媒体に登場してしまった。こういうことが現代社会の一つの現象として非常に困惑させられるような、これでいいのかと不安にさせられるような様子を呈していますね。

——監督自身チャットなどはやらないとお聞きしていますが、インターネットに危機感を持つきっかけが?
 困惑することはありましたが、別に危機感というほどではないですね。ポルノなどもインターネットでは簡単にアクセスはできますが、だからといって本屋さんのものとたいして変わりがなかったりしますし。僕自身、情報収集のためにネットを使っています。ただ問題なのが子ども、未成年に与える影響ですね。大人よりも未成年の方がインターネットを消費しているという事実もありますから。今、僕には子どもはいませんが、もし子どもができた時にこういう状況でいいのだろうかという疑問が浮かぶと思うんです。作中に拷問サイトを見る少年のシーンが登場しますが、それは彼がサイトそのものを見ているという事実というよりも、そのサイトを見ていて別にショックを感じていない、無関心だということに問題があると思っています。今までバーチャルなものを見すぎていて、現実であるにも関わらずそう受け取っていない。人間の心理というものをキャッチできていないということを、そのシーンで描きたかったんです。

——確かに少年の場面は衝撃的でした。続いてキャストについて伺いたいのですが、コニー・ニールセン、クロエ・セヴィニーの競演というのも本作の見所ですよね。
 僕は、いつも直感でキャスティングをするタイプですね。人気があるからとか、演技力があるからとかそういうものは二の次で、一番大事なのは会ってみて、話してみて、何か通じるものがあるかどうか。そして何かその人がパーソナリティーをちゃんと持っているかどうかが大事であって、単に役者が一つの役柄に安易な形でなりきるということにあまり興味がないんです。役をより豊かに成長させていく個性やキャラクターを持っている女優に興味を惹かれます。僕の作った役柄を演じるだけでなく、クリエイティブなことをしていく“対話”の相手として存在してほしい。僕はそういう意図でキャスティングをしています。

——日本人の出演者とは“対話”はできましたか?日本の女優さんでは山崎直子さんが参加していますが。
 言語の問題があるので、確かに日本人の女優さんとなるとフランスの女優さんとは違って難しいものがありますね。もちろん彼女は英語を話せましたが完璧なコミュニケーションとはなかなかいきませんでした。ただ彼女の深い内面性というものを感じたので、そういう意味では人間的な魅力に惹かれたといえます。彼女の役は台詞が少なく、存在感だけで役柄の重要性を表さないといけなかったのでとてもやりにくい役だったとは思いますが、彼女は内面から匂いたつもの、ポエティックなもの、保守的でない何かユニークなものを醸し出していると感じました。ですので彼女は適役だったと僕は満足しています。

執筆者

yamamoto

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