『岸和田少年愚連隊』『ゲロッパ!』などエンターテイメント性と緻密な人間ドラマで魅せる井筒和幸監督。2年ぶりの最新作となる『パッチギ!』がついに1月22日(土)より公開される。
 舞台は、1968年の京都。日本と在日朝鮮の高校生たちが、不条理な社会の荒波に振り回されながら懸命に生きていく様を、笑いあり、喧嘩あり、涙ありの3拍子で軽快に描く。激動の時代を生きていく若者たちのリアルな姿は、“1968年”を知らない人をも惹きつける強烈なパワーを持っている。観た後しばらくは、彼らの姿が目に焼きついて離れないはずだ。
 井筒監督単独インタビューでは、こちらがハラハラするほど鋭い“井筒節”が何度も炸裂した。「今こそ見せるべき映画やと思った」——。作品に込められた監督の思いは、非常に熱い。

$orange ☆『パッチギ!』は、2005年1月22日(土)よりシネカノン有楽町ほかにて全国ロードショー! $



——まずは『パッチギ!』を作ることになった経緯を教えてください。
 2年ほど前『ゲロッパ!』の脚本をやっていた時に、李鳳宇プロデューサーから「少年Mのイムジン河」っていう本を渡されたんです。「面白いから読んでみて」と。イムジン河は朝鮮半島を分断してる38度線を流れていて、それをモチーフに南北分断の哀しみを歌うフォークソング「イムジン河」が出来た。それを作詞家の松山猛さんが日本語訳を作ってシングル盤を発売しようとしたんだけども、政治的な理由で直前に発売中止になったんです。Aランクの要注意歌謡曲Aランクにも指定されて。「少年Mのイムジン河」は、松山さんがどんな風に聴き、訳し、ザ・フォーク・クルセダーズに歌わせたのか、この曲の想い出を本にしたものなんです。本の表紙を見ただけで「これや!」って感じたけど、まずは『ゲロッパ!』やらなと(笑)。

——原作「少年Mのイムジン河」に惹かれた理由は?
 今こそ見せるべき映画やと思ったからですよ。今こそこの「イムジン河」を自由に歌える、映像と物語にできると思ったんです。映画を作ることは衝動ですから。こういうものを手掛けなければならないのかなと。

——先日東京大学で行われたhttp://www.cinematopics.com/cinema/c_report/output.php?number=1198” target=”_top”>対談で、「若者に期待している」と仰られていました。『パッチギ!』は特に若い人たちに見せたいとお考えですか?
 全世代に見せたいよ。今こそ見せたい物語ですから。もちろん若い人たちにも期待したいし、今の大人にも見せたい。見せなきゃならない。日本の中にもイムジン河が流れているんですよ。在日の人たちを擁護している人、擁護してない人がいるみたいに。けど、共存してるんだから。日本に住んでるんだから、みんな日本人なんやと。

——『パッチギ!』の1968年の若者と比べて、現代の若者はあそこまで社会に対して熱くぶつかる機会が少なくなっているように感じます。
 今の若者は、情報がシャットダウンされとんねん。情報過多で、自分の知りたいことをすぐに知ることができる環境があるけど、実は情報は加工されてるから。それに、情報を選び切れないで、人の意見を聞いて決める。自分の価値観として捉えきれてない。学校で習うことも知識として入ってないねん。知識ちゃうねん、そんなんは。スポンジのような頭を素通りするだけで。でも、子供がおかしくなってるんじゃなくて、大人や企業がそういうものしか与えられてへんねん。無知というのはつらいよ。知らないのは罪。若い頃、僕は色んなことに疑問を持って、それを知りたいと思ってた。今も知りたい気持ちを忘れてないよ。でも、今は無知でもこれから知っていけばいいことだから。青春とは知っていくことやと思うしね。だからこの映画を作ってよかったと思ってますよ。
(次のページへ続く)



—— 確かに『パッチギ!』を観て初めて知ったことがたくさんありました。より細かく、リアルに時代を描いている証拠だと思うのですが、驚いたのは作中に登場する密入国者にはモデルがいるとか…。
 キム・イル(大木金太郎)っていうプロレスラーでね。当時は誰もが豊かになれない時だったから、キムは力道山を頼って日本に密入国するんです。当時、密入国した人が日本でプロレスやってるなんて知らんかったんですが、作中の密入国者は彼にオマージュを捧げました。ちなみにキムの得意技はパッチギ(頭突き)のみ(笑)。

——なるほど(笑)。続いてキャストについてお聞きします。若手俳優、女優などフレッシュな面々を揃えていますが、これは感情移入のしやすさを狙ったのですか?
 そう、物語に溶け込んでいく子でないと。物語を邪魔する子が多いもん。『パッチギ!』のような物語を邪魔されたら堪らんですよ。その辺のアイドルやタレントもどきにやれるわけがない。一生懸命やるやらないのレベルじゃなくて、(キャラクターを)飲み込んで、力強く演じていかなあかんから。

——キャストの方々をかなり鍛えられたそうですね。
 相当鍛えられてますよ。俺が担当したわけじゃないんですが、鬼軍曹と呼ばれるうちの演出部がみんなで鍛えました。

——海外の映画祭で、キャストは在日韓国人の俳優だと思われていたとか。
 釜山国際映画祭の時にね、釜山日報のベテラン記者に聞かれたんです。日本でいえば、大阪の朝日新聞記者みたいなもんやね。ソウルに対して釜山、東京に対して大阪やから。「彼らは日本人だ」って言ったら、言葉が自然だとかなり驚いてました。大阪とかにも来ている記者で国際的に活躍する人やったからね。

—— 一方で、オダギリジョーさんやハウンドドッグの大友康平さんなど意表をつくキャスティングもありました。彼らを選んだ理由というのは?
 作中の役柄の通り、背中を押してくれそうな感じがするから。若い人たちにとって彼らは“いい兄貴”でしょ?キャラクターがね。ほら、いかがわしい兄貴ってのもいるじゃない。でも、オダギリくんや大友さんやったら言うこと信じるよって思うでしょ。だから選んだんですよ。

—— 最後に次回作にやりたいテーマはありますか?気の早い話だとは思うのですが…。
 次回はない!今はもう(『パッチギ!』で)いっぱいいっぱいや。まあ、映画になるテーマやネタっていうのは、ある日突然ふっとわくこともあるし、今までずっと考えていたことが急に具体的になることもあるし。映画は僕一人でつくるもんじゃないしね。プロデューサーと遊びに行ったりなんやしてる時に出てきたりするから。『ゲロッパ!』も京都で飲んでいる時に生まれたんやし。今何が一番グッとくることなのか、何を作って若者にメッセージを伝えたらいいのか、何をもって大人に挑戦していくのか。遊んでいてもそういうこと考えてますよ。いつも真面目に議論しているわけじゃないけど、こういう仕事をしてるんですからね。

執筆者

山本絵美

関連記事&リンク

作品紹介