「ここに描かれていることは全て事実で本物。劇中の喧嘩も本物なら、キャストも実際にその職についている人を選びました」——。南米コロンビアで“エメラルド王”の異名を持つ日本人といえば、早田英志のこと。いくつもの鉱山を持ち、同国でも最も成功した輸出会社を経営する彼は70年代、ゴールド・ラッシュならぬエメラルド・ラッシュを夢見、同地に足を踏み入れた。人種差別や(日常的な!?)強奪や脅し、はたまたテロの恐怖に屈せず、一代で財を築いた怒涛の半生。それを描いたものが映画『エメラルド・カウボーイ』だ。再現フィルムを交えた本ドキュメンタリーは冒頭、早田氏のコメントにあるように徹底したリアルを追求。その甲斐あってか、本国コロンビアで大ヒット、全米公開もされるまでに。そして、次に上陸するのが日本である。

※『エメラルド・カウボーイ』は2月5日、シネセゾン渋谷にてロードショー決定!!






——半生を映画化しようと思ったきっかけは?
5年ぐらい前にある報道番組が僕のことを特集してくれたんだけどそれを見たアメリカの製作者が接近してきたんです。だけど、やる気になったところで、その話が流れてしまった。せっかく、「作ろう!」って意志が固まって来たところだったのにね。じゃあって言ってビバリーヒルズの自宅を5億円で売ってね、それを資金に回したんです。

——本作公開後はコロンビアで一躍有名人になったそうですが。
この映画のことが連日、テレビの7、8局のニュースで流れましてね。コロンビアでの公開は3、4ヶ月ほど前のことなんですけど、同時期に公開された『ターミナル』とか『エイリアンVSプレデター』は3週間で打ち切りになったのに、この映画は2ヶ月近くのロングランになりました。

——そして、全米公開にも。ここまで受けいられた理由は何だと思いますか?
全部、事実だからでしょうね。劇中の殴り合いは本物、フェイクのガンはなし、弾も実弾、話はもちろん、全て実際にあったこと。キャスティングにしても準主役(早田氏の青年期を演じる役者)以外、すべて経験者にやってもらっています。村人役は本当に村人だし、警官もそう、ゲリラにしてもね。というのも、コロンビアにはゲリラ経験者は何人もいるから。うちの鉱山にいる人に「ゲリラ、やったことのある人!」って、手を挙げさせたの(笑)。こういうリアルさが良かったんだと思いますね。なにせ、有名俳優もいなければ、監督も無名、60%がスペイン語の日本人の映画なんてアメリカ人は見たがらない。日本人はまだまだマイノリティーなんですよ。

——早田さんの青年期も演じるのは現地の俳優。マイノリティーにならないよう、意識したせいですか?
最初は日系アメリカ人の俳優が演じるはずだったんです。でも、コロンビア入りして危険な状況に恐れをなして帰国しちゃった。それで、急遽、現地で探して彼が見つかったわけだけど、当初、スタッフは猛反対してたね。でも、僕は日系じゃないほうが却っていいような気がしてた。インターナショナルな作品として考えた時、日系の俳優だとチャイニーズ・ムービーの扱いになっちゃう。結果的にその読みは当たり。現地の俳優を使ったのも多くの人に受け入れられた理由のひとつだと思います。

——現在の早田さんをご自身で演じています。お芝居はもちろん、初体験ですよね。
そうです。これも俳優の降板で急遽決まったんです。でも、演技っていっても自分の役ですからね(笑)。抵抗はなかったですけど。僕が出る場面を先に撮って、その間に若手の役者を探した。同時進行です。撮影スケジュールが延びることなく、予定通りにクランクアップしましたけど。

——そして、監督も(笑)。
そう。最初はエドワード・ノートンが出てた『アメリカン・ヒストリーX』のプロデューサーがやるはずだったんですよ。だけど、「お前がやった方がいいよ」って逆に説得されて自分で撮ることになりました。アメリカ人の監督にしても現地で誘拐事件も多発してますから、身の危険を感じたんでしょうね。

——実際、トラブルは尽きなかったとか。
もうトラブル続きですよ。撮影中もボディガードをつけてましたが、移動していると、知らないうちに危険地帯に入ってしまうこともあるんですね。僕と敵対している一派から邪魔が入ることもあったし、撮影機材を車ごと盗まれるなんてこともありました。

——何にせよ、怪我人が出なくてなによりです。この作品を見る日本の観客にメッセージをお願いします。
 総括すると日本は苦境にあるじゃないですか。リストラされたお父さんも少なくないでしょうし、自殺者の数を考えてもちょっとしたことでメソメソする人たちは多いんじゃないかなと思います。僕は日本人ですから、そういう人たちにこそ、南国のラララっとした楽しい明るさ、そして、エメラルドの美しさに触れてもらえればなと思っています。

——どうもありがとうございました。

執筆者

寺島万里子

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