4つのピュアなLOVEストーリー『恋文日和』。累計20万部を超えたジョージ朝倉の人気ベストセラーコミックを原作に、それぞれバックグラウンドの異なる4人の新進監督が腕を競って映像化。
2000年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映された『ブリスター!』は、同時に映画祭で上映されたピクサーの『トイ・ストーリー2』を抜いて観客賞を獲得、話題に。今、4年ぶりに須賀大観が挑んだ恋愛映画。監督に注目!

この想い、ケータイやメールじゃ伝えられない…。
せつない胸の痛みを手紙に託した、
4つのLOVEストーリー。

2004年12月4日より渋谷・アミューズCQNにてロードショー




−−−監督することになった経緯は?
プロデューサーから話があって、原作本を読んでみたら、あまりも繊細すぎる内容で、原作の完成度が高すぎるので、作る上でかなり手ごわいなと感じました。監督として挑戦してみようと思いました。

−−−原作を読んでみての感想は?
感想は、主人公の少女の“痛み”が読んでいくうちに自分の心の中に入り込んでくるんえすよ。自分だったら受け止めきれないなぁとまで感じてきました。本当に痛く伝わってくるので、最後まで読みきれなかったくらい痛かったです。
これでは映画は撮れないなぁと思ったのですが、この映画は、少女の“痛み”を描く映画じゃなくって“痛み”を受け止める温かい気持ちを表す作品なんだと。ということで、ポジティブな気持ちに焦点を合わせて作ってみました。

−−−映画を作るうえで難しかった点は?
『ブリスター!』の時と違って、恋愛映画は、恋愛とは何か?とか人を愛するとは何か?とかを始終考える作業なんです。自分の内臓を抉り出すような感じなんです。自分も精神的にも、こういう女性がいて興味をもったらどうするだろうかなどを考えてたりしました。主人公と自分が同化してしまったりして、いい経験には、なりましたね。

−−−雪の撮影シーンの苦労は?
吹雪のシーンが一番大変でした。ラストシーンなんですが、通常でも大変なのに、“ハリケーン”という巨大な扇風機を持ち込んで雪を役者にぶつけるんですが、役者のほうも大変で、役者の声が録音部さんから聞こえてくるんですが、死にそうな声でしたよ。それで撮影を中止しようかと思ったくらいで、私も泣きそうでした。

−−−こだわった点は?
カメラマンに僕は「本作はヨーロッパ映画の基調で撮りたい、ラース・フォン・トリアー監督の風合にしたい」と話をしていました。恋愛の痛み、誰かを思う気持ち、そういったものを「空気」で伝えたかったので、ファンタジック、あるいはロマンティックに誇張するアプローチを避け、カラフルにもしませんでした。色味も偏ったものにし、彩度を下げました。撮影も手持ちを基本としました。もっと荒々しい手持ちアングルでも良かったと思っています。手持ちは2次元的でなく、映画を3次元的に感じさせる撮影方法ですから。それらは全て、映画をリアルに感じさせるために取られた方法でした。恋愛をリアルに感じさせるための方法でした。
ところが、リアル指向の撮り方と、ファンタジー的な要素がゴッチャになってしまった、というのが、作品の結果に対する僕の評価です。雪がCGで花びらの様に散るシーンが特に、異質な感じがして。
僕にとっては、あの描写は、過剰なファンタジーでした。ああいう大仰なロマンチズムやファンタジーは、今回の狙いにそぐわなかったと思うのです。
まぁ、原作や脚本や、CG技術の限界など、いろんな制約があってああなったわけですが…。

−−−お気に入りのシーンは?
気に入っているシーンはいっぱいあるんですが、田中圭くん演じる陽司が2回目に手紙を書くシーンなんですが、恋愛に普遍的で必要な相手を思いやるシーンは想像力なんです。これは『ブリスター!』とも共感するシーンで、想像力は人間の証なんですね。彼女の“痛み”、もしかして彼女は素敵なんじゃないかと想像を広げてみて思いやる気持ち、何か書いてやろうとする気持ち、ちょっと彼が変わるシーンなんです。
あと、僕自身が好きなのは、チンピラと一緒にいる千雪を陽司たちが発見するシーンと、風呂場のシーンです。
さりげないシーンにリアリティを感じさせる、それが今回の狙いだったし、その狙いが比較的に成功しているシーンだったので。

−−−この映画を通じて伝いたいことは?
僕が伝えたかったのは「人に対して見方を変える」ということの大切さと、「人に対して想像する」ということの大切さでした。
それが「愛」だと。
学校内では、奇妙がられ、疎まれている千雪を、「もしかしたら、彼女はそんな奇妙な存在ではなく、愛すべき存在なのではないだろうか」と陽司が発想を好意的に転換し、彼女の見えない部分に対して想像する。
そんな優しさについての物語だと、僕は思うのです。
人の見えない部分を想像する、それが「愛」だと思うのです。
世界は、人を表面的に決定する。
そんな社会だから、千雪は表面的に奇妙に思われ、それ以上、誰も何も想像してくれない。
そんな千雪に対し、陽司は想像するのです。
「彼女も、普通と変わらない、愛おしい一人の少女なのではないか?」と。そう思うと、彼女が俄然、魅力的に感じてくる。感じ方を変えれば、見方を変えれば、魅力的に見えてくる部分はあるのだ、と。
つまり、物事や人を、表面的に決定してしまうこの世界に対するアンチテーゼなわけですが…。
それがどこまで表現できたかは分かりませんが、僕があの短い恋愛物語で伝えたかったことの本質は、そこでした。

−−−次回作は?
いま、大変な状態で『最終兵器彼女』の準備にかかっています。ほか、あと2本くらいお話を頂いています。自分の企画も考えています。『最終兵器彼女』に関してはかなり大変な撮影になると思います。これも恋愛に関してはかなり奥深く描いているので、人生をかけた戦いになるなぁと感じています。

2000年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映された『ブリスター!』は、同時に上映されたピクサーの『トイ・ストーリー2』を抜いて観客賞を獲得、映画祭で話題に。監督の原点を見てから『恋文日和』を見るのもいいと思うので、男の子を描いた『ブリスター!』も必見である。
須賀監督は、新作が多数控えており、今後注目したい人です。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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作品紹介『恋文日和』
作品紹介『ブリスター!』