「グラスは悲しい人だと思う。当初は自分と余りに違いすぎ、しっくり来なくて気持ちが重い時期もあったんだよ」、『ニュースの天才』の主演男優、ヘイデン・クリステンセンは言う。今回、彼が演じたのは捏造記事でアメリカを騒がせた実在のジャーナリスト、スティーブン・グラス。人々の興味を集めたい、すごい記者だと思われたい、行き過ぎた純粋さゆえに起こってしまった事件だった。「リアルに、リアルに演じたかった」というクリステンセンだけに劇中の彼は冒頭から嘘くさい笑顔を振りまき、信用がならず、そして、時に痛々しい。役者として確かな成長を感じる彼だが、素顔はマジメでちょっと照れ屋なところのある23歳の男の子だった。

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——実在の人物を演じたわけですが、役作りで気を使ったことは?
残念ながら、グラス本人には会えなかったんだ。でも、読める記事は全て読んだし、雑誌社で研修をして、全体の雰囲気をつかむ努力はしたよ。僕としてはこの人物をリアルに、リアルに見せたかった。彼の行為そのものがセンセーショナルだからさ、その部分ばかりが強調されて現実感のない人間になるのだけは避けたかったんだ。

——グラスに共感を覚えることは難しくはなかった?
 キャラクターを演じるときに自分の経験や判断力を入れてしまうと、時に難しくなってしまう。スティーブン・グラスという人はすごく悲しい人だと思う。なんとなくしっくり来ない、気分が重いということは最初の頃にはあったね。でも、演じるってことは一種の自己探索なんだと思う。探索するうち、彼の心の機微に触れることができたし、ジャーナリストという職業の厳しさ、真実を伝えていくことがいかに難しいかも理解できた。まぁ、それは今回に限らないけど、俳優というのはいろんな職業の実際を垣間見ることが出来る。それが魅力のひとつだね。

——劇中、グラスと前任編集長といい、あなたの出演する映画には師匠と弟子的な構図が多いですよね。
 そうだね、確かに。『海辺の家』でのケビン・クラインは実際に父親のような存在だったし、『スターウォーズ エピソード2』ではジョージ・ルーカスがいた。今回もトム・クルーズが製作に関わっていていろんな話を聞かせてもらったな。雑談中、次のプロジェクトも一緒に組もうと話をしたんだよ。

 ——あなた自身の、今までで最大のハッタリを教えてください。
 自分で言うのも何なんだけど正直な人間なんで、紹介できるような面白いエピソードもそうはない。ただ、役者というのはオーディションの時にできなくても、「できます!」って言うものなんだ(笑)。僕もあるオーディションで「スノーボードはできるか」と聞かれ、できないのに「できます!」と答えた。そして、その役が僕のところに来た。あれは困ったね(笑)。

 ——逆にハリウッドスターである以上、デッチあげ記事は周囲に溢れているはずですね。何か言いたいことは?
 誰とデートしたとかね、確かにゴシップは多いし、記事だけ読んでると僕はなんて起伏の激しい人生を送ってるんだろうっておかしくなることもある。でも、実際にはもっとシンプルなものだよ。まぁ、いろいろ書かれることに関しては正直、仕方がないとも思っている。そういう商売だからね。

 ——撮影のない時、普段は何をしていますか?
たまの休みにはカナダにある実家に帰ってテニスをしたり、ホッケーをしたりもする。とはいえ、脚本を読んだり、映画人に会ったりしてるから、時間はあまりないんだけど(笑)。それでもつらいとは思わないね。この仕事をしてなかったら、こんなに早く東京に来ることもできなかっただろうし。

——ちなみに日本での観光は?
京都には前に行った。美しい場所だと思う。実は、すごく長い“日本で訪れるべきリスト”をもらったんだけど半分も行けてなくて(笑)。都内でも雰囲気のいい場所はたくさんあるらしいから、散策して帰りたいんだけどね。
 

執筆者

寺島万里子

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