「この作品を見て何かポジティブなものを持ち帰ってもらえれば。日本で暮らす外国人について考えたり、彼らと心を通わせようというきっかけになれば嬉しいですね」、ヴァディム・パールマン監督は言う。『砂と霧の家』は同監督のデビュー作ながら脚本賞、主演男優賞(ベン・キングスレー)、助演女優賞(ショーレー・アグダシュル)とアカデミー賞3部門にノミネート。政府の手違いから我が家をなくした女性(ジェニファー・コネリー)と、競売でその家を手に入れた訳ありの移民一家(ベン・キングスレーら)との闘争とつかの間の平穏と理解、そして、悲劇を描いた本編は文字通り、号泣必至の人間ドラマである。既に口コミでも絶賛の声が広がっている同作だが、既に見た方も、そして、これから見る予定の方も監督直々の撮影秘話をいかがでしょう?続きは下記をクリック。

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ーー原作は映画化オファーが殺到したアンドレ・デビュース三世の小説です。作者本人も映画にカメオ出演してるそうですが。
 そうだね。あれはアンドレの提案、というか、映画化する交換条件だったんだよ(笑)。「映画化権は君にやる。その代わり、俺に役をくれ」ってね。そんな経緯があって、セリフはあるけどできるだけ映画に関わりのない、重要でない役を与えたんだ。ベン・キングスレーが警察署に文句を言いに行くと、彼にフォルダーを渡す警官がいるだろう?あれがアンドレだ。ちょっとやりすぎなんだよね。彼の演技力は最悪だって言ってやったよ(笑)。

 ーーというより、監督とよっぽど気が合ったのだとお見受けします(笑)。彼は脚本にも協力を?
 執筆最中は彼との会話が役に立ったよ。エンディングは原作と違うんだけど僕のやりたいことに対し、敬意を払ってくれた。映画の出来も非常に気に入ってくれたみたいだね。実は、映画の公開前に彼の家族とその友人ばかり250人を集めた披露試写会をやったんだ。正直、ものすごいプレッシャーだった。観客全員が原作者の友達、つまり、彼や彼の小説を大切に思っている人ばかりなんだからね。けれど、映画が終わった後、僕はものすごい拍手に包まれた。あの瞬間の喜びはオスカーにも負けないと思うよ。

 ーーオスカーといえば、ベン・キングスレーとショーレ・アグダシュルーはそれぞれ主演男優賞、助演女優賞にノミネートされました。デビュー作にして監督の力量をも感じさせるニュースです。
 いやいや、それは彼らの実力だよ。腕のいいミュージシャンに指揮者はいらない。僕はただ、そのリズムをキープできるように配慮しただけだ。

 ーーともあれ、彼らの演技に感動することも度々あったのでは?
 いつもだったね。映画のポスターにもなっている2人の後ろ姿、ラスト近くのシーンなんだけど、この時、僕は彼らの隣にいてね。(ポスターを指差しながら)ちょうどこの右端にいて、膝にモニターを抱えていた。彼らの表情に涙がこぼれるくらい、感動していた。その最中にあの夕日だ。当初、夕日は予定していなかった。というか、ロスでこんな雲は滅多に見られない。今、思い出しても感動的な撮影だったね。

 ーー家もこの映画の主役ですよね。ジェニファー・コネリー演じるキャシーが暮らしていた家、移民のベラーニ一家が暮らす家、当然、内装にもそれぞれ気を遣ったと思いますが。
 かなり意識的にやったよ。特にベラーニ一家はこの屋敷に住む以前、もっと大きな家に住んでいたことがあったはずだ。荷物も多いし、家具や調度品のサイズも家にいまいち合っていない、元お金持ち的な成金趣味も随所にある。敢えて、そういう内装にしたんだ。

 ーーちなみにあの家は今?
 撮影後は元あった緑色の外壁に戻したよ。というのも、実は・・・あの家は持ち主がいたんだ。老婦人だったんだけど、彼女には撮影中、劇中のキャシーさながらホテル暮らしをお願いした……。いや、でもね、用意したのは劇中に出てくるようなモーテルじゃなく、すごく素敵なホテルだからね(笑)。

執筆者

寺島万里子

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作品紹介『砂と霧の家』