ベストセラー小説、待望の映画化!! 『血と骨』崔洋一監督インタビュー
「クセというものが濃密に出ている映画だと思います。いろんな視点から見ることのできるものだと思う。長生きする映画に育って欲しいですね」(崔洋一監督)。血は母より、骨は父より受け継ぐーー。梁石日原作のベストセラー小説『血と骨』が遂に映画化なる!凶暴で強欲な父・金俊平にビートたけし、動乱の時代を凛として生きるその妻に鈴木京香、そのほか新井浩文、田畑智子、オダギリジョー、松重豊らが集結。暴力とエクスタシーにまみれた壮絶な生を描く本作は監督・崔洋一の集大成ともいえる。当初の脚本は7時間半もの長さに及び、完成の暁までに6年もの歳月を経た。「だけど、思うのは映画って一番いい時期に完成するもんだなと。今回も結局、6年間かけろってことだったんだろうって解釈してますよ」、そう語る崔監督に撮影秘話を教えてもらった。
※11月6日 丸の内プラゼールほか 全国松竹・東急系にて公開
ーー原作小説を巡り、映画化権の争奪戦があったとか。監督が本作に携わった経緯を教えてください。
個人的なことになっちゃうんですけど、95年から96年にかけて韓国に留学したんです。で、その経験を「本にしろ!」と言われ、まぁ、安請け合いしちゃったんですよね(笑)。結局、書けなくて書けなくて軽井沢にカンヅメになったんですけど、その時によせばいいのに梁石日さんの『血と骨』を持っていってしまった。自分の本どころじゃなくなって、一気に読み進みましたね(笑)。
それから半年近く経ち、映画化を申し出ていた人がことごとく落ちていったんです。企画としての難しさに気づいたんでしょうね。で、僕は遅まきながらチャレンジしてみようと名乗りを挙げたわけです。
ーー主人公・金俊平を演じたビートたけしさんは鬼気迫るものがありますね。
たけしさんは偉大な映画監督でコメディアンでもあり、多数の才能を持っている方ですがそのなかでも一番未知の部分は役者としてのたけしさんだと思います。僕のデビュー作にも出てもらっていますし、共演したことすらありますけど、こういう形で組むのは初めてですね。
ーーかなり早い段階、つまり6年前から、決めていたんですか?
この役はたけしさんだなと最初から思ってましたね。醸し出す空気感、色っていうのが俊平に近い気がした。たけしさんも『崔さんがやるなら出るよ』って言ってくれて。
でも、よく6年間も待ってくれたなと思います。鈴木京香さんにしても「女の一生を演じたかったから」と、毎年スケジュールを空けてくれてね。
ーー脚本は当初、7時間半あったそうですが。
MOに一枚半くらいの量でしたね(笑)。俊平が大阪に来てから戦中に至るまでの、彼の暴力性を表すエピソード、原作にかなり近い流れもありました。一方で、原作にはない少年時代の話も最初の脚本には盛り込みました。
ーーたけしさんと鈴木京香さんとのファーストシーンはいきなりレイプで始まります。そこに行き着く下りも?
ありました。クランクインの一年ほど前の脚本には俊平の一方的な恋愛模様が描かれてたんです。まぁ、滑稽というか、それこそストーカー以下だろうという行為をするんですけど。ある意味、おかしい、それはお客さんが喜ぶようなシーンではあったんですがそれこそ描こうとすると3、4時間になっちゃうんで(笑)。
ーー劇中、ウジの湧いた生肉を金俊平は好んで食べますね。あれは一体・・・?
釜山の映画祭でも同じことを聞かれましたよ。「あれは日本食なのか、韓国食なのか?」って。その答えは日本食でもなく、韓国食でもなく、俊平食です。原作では他に、犬を捕まえてきてその骨をスープで煮込んで食べるシーンも出てきます。要は俊平流の偏食なんですよ。そういうディティールを書き込んでいっちゃうと七時間半バージョンになってしまいます。でも、いつの日か、あなたがお金持ちになったら出資してください(笑)。そのバージョンを撮りますから。
ーーお金持ちになったら是非お願いしたいです。ともあれ、食関連にはお金がかなり掛かったそうですね。
美術スタッフが優秀でね、それだけにゼニがかかりました。劇中のキムチだけで100万円かかってますから。というのも、漬物って日本でも地域によって違いますよね。発酵を促す食材が何かってことなんですけど、まぁ、本とは顕微鏡で見ない限り、その微妙な違いはわからないし、カメラには映らない。映らないんだけど…今回のキムチも大阪式とか、済州島式とか事細かにこだわりました。
ーーラストシーンのロケ地について教えてください。
あの場所は韓国で一番寒いところです。38度線まで1時間って場所。家そのものは農家の倉庫代わりに使われていたみたいですね。でも、ああいう場所でも道はみんなアスファルトなんですよ。ラストに絶対、必要だった雪も当時は積もっていない。韓国の美術スタッフは3日かけて道を直して、なおかつ雪を用意してね。丁寧な仕事をしてくれました。ちなみに、あの場所を見たのはロケハンの一番最後でした。一番いいところは最後に見せるって、日本も韓国も同じなんだなって思いましたね(笑)。
執筆者
寺島万里子