ソウル市内だけで90万人を動員した大ヒット作品『オー!ブラザーズ』が、シネマコリア2004において日本初上陸した。本作は、韓国が誇るトップスター、イ・ジョンジェと近年メキメキと頭角を現している個性派イ・ボムスという最強の二人がタッグを組んで贈る「兄弟愛」がテーマのヒューマン・コメディだ。昨年のシネマコリア2003において上映された『太陽はない』で共演していた二人がダブル主演するということで首を長くして待っていたファンも多かったはずのこの作品。チンピラの兄(イ・ジョンジェ)と早老病という難病におかされながらも真っ直ぐに生きる弟(イ・ボムス)の二人の兄弟が繰り広げるドタバタ劇を、コメディなのにちょっと切ない極上の家族ドラマとして描いている。
 軽やかな中にも深い人間性を提示して見せた本作で華麗に長編デビューしたキム・ヨンファ監督に話を聞いた。







Q:作品のテーマである「家族愛」「兄弟愛」はどこからきたアイデアなのでしょう?
キム監督「私自身の生き様を描いたのです。大学の卒業作品でも同様のテーマを扱いました。小学生のころ母が病気でいつ死んでもおかしくないような状態でした。その時の体験が根にあります。また、自分には異母兄弟たちがいるのですが、作品を観て、実在の彼らも涙を流して泣いていました。」

Q:イ・ジョンジェとイ・ボムスという異色の取り合わせです。

キム監督「全く受け入れない二人についての映画であり、その二人が時間が経つにつれて似たものになっていく様を意図したんです。
キャスティングをする時は、シナリオを書いている途中から彼しかいないと考えていたので、学校の先輩でもあるイ・ボムスに初稿を持って行ったところ、快く受けてくれた。そしてその次にイ・ジョンジェのところに行った。
本来であれば、大スターのイ・ジョンジェに先に持っていかなかければいけなかったんだけど、それでもオファーをして、どうしてもやってもらいたいと思い、返事を待って、遂にOKがもらえた。実は撮影後、イ・ボムスが結婚式を挙げるとき、イ・ジョンジェはその司会をやるまでに仲良くなっていたんだ。」

Q:それで実際に演じた二人(イ・ジョンジェ、イ・ボムス)の演技についてはどうでしたか?

キム監督「まずイ・ボムスは、内面は子供という難しい役柄の中、普段は自意識で抑制されて外に出てこない部分を自由な演技で出来る俳優で、本当にうまかった。
例えばハン・ソッキュやソン・ガンホがもうあまり冒険しないだろう。彼はまだ何も持っていないというところで本当にこの難しい役どころを演じることが出来たんだと思う。
でも、個人的にはイ・ジョンジェが最高だったね。」

Q:コメディというまな板の上でシリアスな劇を演じた理由は?

キム監督「難しい話を簡単に、拒否感を起こさせないように描くのは難しい。本作では、難しい素材を簡単に受け入れやすく描いたつもりです。
ユーモアの中に真摯さが存在し、真摯さの中にユーモアが存在しているのだと考えているんだ。」

 実は、当初本編が2時間45分あったという作品を、1時間50分にまで短く編集したとのことで、作中では登場人物たちが交錯するエピソードが多くカットされているのだという。
なので、登場人物の人間関係やエピソードに関して、表出している部分以上に意味やエピソードが込められているとのことであった。語弊を恐れずに言わせてもらえれば、ただ笑えるコメディを作ろうという気はこの監督に関していえば毛頭ないのであろう。自身の幼少時代の経験や思いに基づいた確固たる信念を持ってなお、これだけ軽やかにその思いを笑いの中にしたためる手腕。
本作を観たほとんどの観客は、これがデビュー作とは信じがたいという感想を抱いたはずである。恐るべき監督がデビューした。

執筆者

YUKO OZAWA

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公式サイト:シネマコリア2004
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