「斬るのが畏れ多かった共演者ですか?そういう気後れがあると映像に出ちゃいますから、考えないようにしましたよ、相手がボブ・サップであろうが、誰であろうが(笑)」(中山一也)。ボブ・サップが、ビートたけしが、内田裕也が、松方弘樹が、緒形拳が、次々と斬り倒される!!女子供も容赦なく、200人以上の人間を抹殺するは現代に蘇った岡田以蔵ことIZOの哀しき怨念。三池崇史監督×武知鎮典脚本コンビの最高傑作との呼び声高い「IZO」でタイトルロールを演じるのはこれが20年ぶりの主演作となる中山一也である。実年齢よりも20も下の役どころを何の違和感もなく(どころか、当たり前のように)、鬼気迫るオーラで演じきった中山。「この20年間、勝つことより負けることの方が多かったと思います。でも、そういう生き様すべてを役に入れ込みたかった」と語る。
 
※「IZO」は8月21日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムにてロードショー!!

 #——劇中では200人斬り。まさに朝から晩まで斬って斬って斬りまくる、そんな現場だったはず。このテンションを撮影中、維持するのはいかにもハードな気がしますが。
中山 いや、大変でしたね。さすがに撮影後は放心状態でしたよ。終わってから、しばらくは使い物にならないというか・・・(笑)。まぁ、撮影途中でもプロデューサーに「死にそうだよ」って訴えたくらいでしたし(笑)。というのも、僕、もう48なんですけど「やっぱり年には勝てないよ」って。走って立ち回っているうちに関節がギーギー鳴ってくるんですよ(笑)。
まぁ、そうはいっても命かけてこそプロですからね。以前、『冷血』という映画の時、爆発のシーンがありまして生命の危険を伴うものでしたけどだからといってやめようとは思いませんでしたしね。今回は足がツッちゃって動かなくなったりもしたんですけど、それでもなんとか走りました。だけど、それを見た三池さんが可哀想に思ったのか、「走らなくてもいいですよ」って言ってきましたけど(笑)。

——錚々たるメンバーを斬り倒していきますが、恐れ多いと感じた相手は?
中山 それはなかったですね(笑)。ボブ・サップであろうと誰であろうと。最初に「いいんですね、ほんとにこの人たち斬っちゃっていいんですね」ってプロデューサーには念を押してましたし(笑)。撮影はその場限りの一発勝負みたいなものだったんですよ。斬り倒すのが僕ごときもので恐縮ではありますけれど、そういう気後れがあると逆に映像に出ちゃいますからね。

——脚本家・武知鎮典さんが中山さんのために書いた本だそうですが。
中山 ありがたいことですね。主演は20年ぶりになるんですが、6、7年前、武知さんに「もう一回、主演やりたいんですよ」って言ったことがあるんです。その時、武知さんは「運がよけりゃァ、なぁ」なんて笑ってたんですけどね。

——武知さんの脚本は一風変わっていて、役者泣かせとも。
中山 そうですね(笑)。武知さんのホンは哲学的な描写にまで踏み込んでくるんですよ。今回であれば以蔵の悲しい生き様、生涯を通しての無念さですとか、武市半平太に操られ、犬同然に扱われた男の悲しさを人間の歴史や社会的矛盾を織り交ぜて語っていく。僕なんかも頭がいいほうじゃないですから難しいといえば難しいですし、桃井かおりさんも当初は「なんだかよくわからない」って言ってましたっけ(笑)。でも、哲学的な世界観に感銘を受けた人も多いと思いますよ。
 
——悲しき天謀の剣、以蔵への感情移入はた易かった?
中山 人を斬るということのリアリティはよくわからなかったんですよ。けれど、原田龍二さんとのシーンで思うところがありましたね。原田さんとはプライベートでも親しくさせてもらっていて、奥さんやお子さんたちもよく知っているんです。彼を殺める撮影の前に「斬ってしまってスミマセン」って思ったんですけど、瞬間に奥さんや子供さんの顔がぱぁっーと浮かんで・・・。ああ、こいつを斬るってことはそういうことなんだなって。その時にリアリティが湧いてきましたね。 

——スクリーンの中山さんは鬼気迫るオーラがあります。以蔵は28歳という設定ですがちょうど20歳の年齢差もまったく気にかかりません。
中山 ありがとうございます(笑)。そう言われるとすごく嬉しいですね。27で『冷血』に出て、それ以降は「なんでこんなことしなきゃいけないよ」ってことばかりだったんです。勝つことよりも負けることの方が多かった。だけど、今となってはそうした経験を含めて、IZOに反映させることが出来たんじゃないかと。








——撮影中はどんな作品になるか、想像はつきましたか?
中山 敢えてそれは考えないようにしてましたね。IZOは異空間を飛びますからね。次はこうなるっていう確信を持たない方がいいんじゃないかと。

——今回、三池監督からのアドバイスは?
中山 最後になってひとつだけ。「怪我しないようにしましょう」って(笑)。あまりにも撮影がスムーズに運びすぎるから逆に不安だったみたいで。

——怪我などのトラブルは?
中山 怪我といいますか、撮影中に熱が出て点滴を打ちながらの撮影はありました。近くの病院に血糊の飛んだIZOのコスチュームを着たまま行ったら、他の患者さんがみんなびっくりしてました。遠目に見て、道を空けるんですよ(笑)。当然のことながら、医者も看護婦も妙な目で見てましたけど。

——さて、三池作品にはこれまでも度々顔を出してきました。監督と知り合ったのは10年以上前のことだそうですが。
中山 三池監督のことは当時からすごい人だと思っていましたよ。僕は本能的な人間で直感で生きているようなところがあるんです。周囲の人間にも「すごい監督がいる。日本で3本の指に入る。将来の黒澤明や小津になりえる監督だ」って言ってましたからね。

——先見ですね。三池さん以外で気になっている監督は?
中山 石井克人さんですね。『鮫肌男と桃尻娘』を見たときはものすごいショックを受けまして、知り合いでもなんでもなかったんですけど「石井さんはいますか?僕は俳優の中山といいますけど」って製作会社に電話したこともありましたよ(笑)。結局、その時はお話できなかったんですけど。

——ジャック・ニコルソンにも会いに行ったこともあるそうですが。
中山 ニコルソンが大好きなんですね。だけど、ニコルソンの家の隣ってマーロン・ブランドの家なんですよ(笑)。間違ってインターフォンを押して、ニコルソンさんはいますかって言ったら切られましたっけ。結局、本人には会えず、手紙だけ置いてきたんです。「僕は日本の俳優で今度『IZO』って映画に出ます。良かったら見てください」って。でも、いつかきっと会えると信じています。というのも、いつもそうなんです。インスピレーションに従って、実現させよう、実現させようと思っていれば98%はそうなります。これは本当にそうですよ。

——なるほど。励まされる言葉ですね。重複するかもしれませんが、観客の皆さんへ、メッセージを。
中山 憤りを感じてください。男も女の人ももっと怒るべきなんです。自分の弱さに対しても憤りを感じるべき。何がしかに虐げられていると思ったら、もっともっと暴れてください。不条理に対してもっともっと怒るべきだと思います。

執筆者

寺島万里子

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作品紹介『IZO』