「非日常な出来事のなかで浮き彫りになる、人間の欲望や本音の部分を感じ取ってもらえたらと思います」。TVCMや雑誌の人気モデルとして活躍中の竹内ゆう紀さんが横井健司監督『ヒッチハイク 溺れる箱舟』で映画主演デビューを果たした。北海道を舞台にした本作はサスペンスと人間ドラマとが絡み合う、ロードムービーの傑作だ。竹内さんが演じるのは、狂気のヒッチハイカーに夫とともに車中に監禁されるヒロイン。寺島進さん、小沢和義さんの大ベテランを相手に堂々たる存在感を見せた。撮影期間11日間、睡眠時間を削ってのハードなスケジュールだったが「映画の現場は何より刺激的でした。今後もいろんな役にチャレンジしたい」とすっかり女優に開眼した様子。そんな竹内さんに撮影秘話を聞いてみた。

※『ヒッチハイク 溺れる箱舟』は渋谷ユーロスペースにて6月12日より、レイトショー!!

 





——映画デビューにして初主演。本作のどんなところに惹かれましたか?
竹内 本を読んでまず引き込まれましたね。3人の人間模様が物語の展開につれて、少しづつ変化していきます。ただのサスペンスに終わらず、加害者側と被害者側、事件に関係したそれぞれの心情が描き込まれているところに惹かれました。

 ——ヒロインの麗子について。
竹内 女性らしい不器用さを持った人だと思いますね。素直になれないところが自分と似ている気がして(笑)、共感できるところも多かったです。自分の愛情を受け入れてもらえない、そして、愛情をうまく発信できない、そんな行き場のない愛情を持っているなら憎しみに変えてしまえ、そういう気持ちの流れはなんだかわかるような(笑)…。

 ——おっしゃる通り、男女の三角関係という側面もありますね。最後まで麗子がどちらの男性を選ぶのか、目が離せません。
竹内 麗子は夫との溝の大きさを実感しています。犯人の黒田は狂気的ではあるけれど、その溝を埋めてくれる何かをもっている。そこで葛藤する気持ちもあって…。
劇中に黒田に「俺が愛してやるよ!」って叫ばれる場面があるのですが、麗子の心はかなり揺れ動いたと思うんですね。

 ーー犯人の黒田を小沢和義さんが演じています。
竹内 カズさん(小沢さん)は以前からよく知っている方なんですが、優しいし、厳しいし、すごい人だと思いますね。一生、頭があがらない(笑)。私の役についてもカズさんからはいろいろアドバイスを受けました(笑)。
 というのも、私、もとはバカなんですよ(笑)。「カズさん!カズさーん!!」なんて、手を振ってはしゃいじゃうタイプというのか…。でも、そうすると「オマエな、役の時はもっとフラットにしろよ!麗子はもっと気丈な女なんだからな」って(笑)。

ーー夫役に寺島進さん。寺島さんの印象はいかがでしたか?
竹内 逆に、寺島さんとは今回が初対面で夫婦の役なのに、会って3日後に撮影というスケジュールだったんです。コミュニケーションがそれまでに取れるのかなぁって心配してたんですけど…。カズさんに「寺島さんは礼儀に厳しい人だからな。しっかりしろよ!」って言われてたので緊張もしていました。だけど、実際ご本人にお会いしたら「あっ!タメ語でいいからね」って(笑)。とはいえ、大先輩の方になかなかそうもいかないじゃないですか。現場では「○○ですよね…、あ、だよね」みたいなおかしなしゃべり方をしてたかと思います(笑)。

——撮影中は寺島進さん、小澤和義さんと始終一緒。
竹内 いいアニキ2人がいてって感じでしたよね。本当にいろいろ教わりましたし、迷惑をかけたんじゃないかとも(笑)。




——今回、北海道オールロケだったんですよね。
竹内 でも、観光どころじゃなかったんです(笑)。撮影が11日間くらいでとにかくハードだったんですよ。夜中の1時くらいに終わって同じ朝の4時からメイク、睡眠時間が取れるかなって毎日(笑)。でも、その閉塞された感じが逆によかったような気がしますね。ヒロインの心情にも感情移入できやすい状況というのか。あれがもっと余裕を持った撮影だったら…どうでしょうかね。観光できるような余裕がなかったからよかったのかも。

ーー最初に出来上がった作品を見た時の感想は?
竹内 といいますか、最初はなかなか客観的には見れなかったですね(笑)。オールアフレコだったので、アフレコの具合が気になったりとか、ヘンなところばかりに目が行ってしまうような…。一人で見てるからいけないのかなと思って友達呼んで、一緒に見て。それでやっと客観的に見れるようにはなりましたけど(笑)。

ーーなるほど。客観的になれたところで、観客の皆さんにはどこを見て欲しいですか。
竹内 この映画は非日常的なできごとを描いています。けれど、こういう非日常的なできごとは意外に突然、起こってもおかしくないことだと思います。日常生活の中ではみんな、いろんな仮面を使い分けていますが、非日常の中で早急に下した判断や選択には人間の持っている弱さやいやらしさが浮き彫りになるものだと思うんですね。普段は隠れている本音や欲望が浮き彫りになる瞬間。そういうところが作品の魅力につながっていると思います。

執筆者

寺島万里子

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