「寸止めっていうのがうまく出来なくて。本気で打つから腕が青痰だらけになりました(笑)」。『仮面ライダー龍騎』でブレイク、文字通り、子供からお母さん層まで幅広いファンを持つ松田悟志がアクションシーンに初挑戦した。「メシア 伝えられし者たち」(千葉誠治監督)は琉球王朝時代の宿命の闘いが炸裂するハイパー・アクション・ムービーだ。当主の血を引く一人の少女と彼女を守る伝承者たち、そして、皆殺しを企む冷酷な一族との闘いを描く。ここで、松田が演じるは少女を命がけで守る琉球拳法の達人だ。日本映画界きってのアクション監督下村勇二のもと、さぞやスパルタ式の特訓を受けたかと思いきや。「ドラマに出てくるテニスのコーチみたいでしたね。もう手取り足取りですごくわかりやすかった」と言う。歌手、エッセイストとしても活躍する松田が新たな芸域を広げることとなった本作の、撮影秘話を聞いてみた。読んでから観るか、観てから読むか?

※「メシア 伝えられし者たち」は04年1月10日、テアトル池袋にてロードショー!1




ーー龍示は当主である少女を守るため、自分の命すら投げ出す人間です。日常的なキャラクターではないだけに役作りは難しかったのでは?
千葉監督に言われたことが「今、渋谷を歩いてるような若者にはするなよ」ってことでしたね。
映画の舞台は現代なんですけど現代人としては描いているわけではないんです。ただ、物語自体はシンプルでアクションがうち半分を占めます。となるとあまり複雑なキャラクターを作りこんでしまうと…、劇中で説明しきれない部分が出てきてしまうんですよ。下手をすると二重人格みたいになってしまうからって監督にも言われましたし。キャラクターは作りこまず、脚本で感じたそのままを演じるようにしました。

 ーー意外な気がしますけどアクションは今回初めてだったそうで…。
 そうなんです。「仮面ライダー龍騎」の時はすごい強い役だったんで逆に必要なかった(笑)。絡んでくる奴を肘鉄ひとつで倒しちゃうような感じでしたから、立ち回りなんて一回もやってないんですよ。どちらにせよ、アクションはずっとやってみたかったんです。デビューした当初、半年くらい空手を習っていたこともありましたし。それも映画向けの空手でカメラのどの位置で止めるかとかね、そういうトレーニングだったんですけど。

 ——だからですかね。アクションがこなれた感じがしましたけど。
いやいや、たいへんでしたよ。二週間くらい道場に通って構え方、蹴りの入れ方とひと通り練習して。セリフ回しでNGを出すのとは違ってアクションの場合、相手を思い切り殴ってしまう可能性もあるじゃないですか。そういう緊張感がありましたね。

——で、実際に殴ってしまったことは?
 幸い、それはなかったですね。かすってしまうことはあってもクリーンヒットはありませんでした。

 ーー下村勇二さんの指導はいかがでした?
 手取り足取り、すごくわかりやすかったですよ。一昔前のドラマで描かれたテニスの先生みたいでした(笑)。こっちがわかってなさそうな顔してたらすぐに教えてくれますし。







ーー思い返してみて「2度とやりたくないなぁ」という撮影は?
松重さんとのアクションシーンですかね、2度と撮り直したくないのは(笑)。お互いにアクションが慣れてないというのもあったんですけど寸止めっていうのがわからないわけですよ。僕のパンチを松重さんが防いで、松重さんのパンチを僕が防いでっていうのは全部マジ当てでやっていたんです。もう真っ赤っ赤で触ると熱くなるし、青痰だらけになってしまった。カットがかかると2人で走っていって、すぐコールドスプレーをかけて「痛い、痛い」って騒いでました。

 ーーやはり一番難しかったのはアクションシーンですか?
 アクションも大変だったのは大変やったんですけど、台詞をゆっくり言わなきゃならないということがあって。というのも、映画を見て頂ければわかると思うんですけど映像がちょっと飴色になっているんですよ。沖縄って実際にはあんな色してるわけじゃない。敢えてデフォルメしてるんですけど不思議な世界観というのか、あの雰囲気に合わせ、役者陣全員が普段よりセリフをゆっくりめにしゃべっています。千葉監督は「あとで見ればわかるはずだから」って言っていたんですけど演じている時はこの早さでいいのかなとかちょっと不安でしたね。アクションをやったすぐ後に相手の耳元でふっとしゃべるシーンとかもですね。気持ちも昂揚してますし、その状態でゆっくり話すのは難しかった。

 ーー沖縄ロケは五日間。うち、松田さんが現地で撮ったシーンは・・・。
 わずか3時間(笑)。というのも、僕の出演シーンは関東近辺で常にサブのロケ地があったんです。横浜とか埼玉で沖縄に見える場所があった。なんらかの事情で沖縄で撮れなかった場合、関東近辺で撮ることになっていたんですね。で、実際、現地の梅雨入りが予想以上に早かったんです。そうなると最も重要なシーンから撮るじゃないですか。まぁ、撮影が少なくなったのをいいことにプロデューサーに連れられて朝方まで泡盛を飲んだり、沖縄の文化に触れてみたりとそういう機会も多かったんですけど。
今回、沖縄そのものが初めてだったんです。高速道路を走ってるだけでも違うんですよね、文化というのか。植物の種類が違えば森の深さが違う、お墓の形も違うし。僕らが行ったのは沖縄の最北端でしたから余計にそういう光景に会いやすかったというのがあるかもしれませんけど。それまで、僕が持っている沖縄のイメージといえばHISのツアーみたいなものでしたから(笑)。

 ——最後に、観客の皆さんにメッセージを。
 ——最後に、観客の皆さんにメッセージを。
自分の出演シーンのことを言っても仕方ない気がするんですけど、当主の紀紗と、彼女をなんとしても守ろうとする龍示の固い絆で結ばれた関係は意識してやったのでそこはぜひ注目して欲しいですね。・・・でも、そこだけ観られても困るんで、全体的に「メシア〜」を楽しんで欲しいと思いますね。

 

執筆者

寺島万里子