5ヶ月に及ぶ中国での長期ロケと黄色い大地で繰り広げられるダイナミックなアクションシーンが話題の韓国映画『 M U S A − 武 士 − 』は、揺れ動く東アジアの歴史に巻き込まれた男たちの物語でもある。男たちの望郷の念に、明との和平を築き名を上げたいという野心が加わったときから、彼らの旅は苦難の度合いを深めていく。
 この時代は、彼ら韓国の人々にとってどういうものなのだろうか? 
 2003年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭での上映時に来日した、アン・ソンギとチョン・ウソンに本作の時代、そして“武士”というものについてお話をうかがった。かたやベテランならではの視点で時代と監督を見つめる国民的俳優、かたやキム・ソンス監督作品は3作目になる美男俳優。彼らならではの話をお聞かせしましょう。

$blue ●『 M U S A − 武 士 − 』は12月13日より、シネマスクエアとうきゅう他全国順次ロードショー$






——ひじょうにスケールの大きな作品ですね。1370年代後半という時代について、皆さんはどのような時代観をもっていらっしゃったのですか?
アン・ソンギ 「実際に高麗時代と聞いて、心に浮かぶようなことはあまりないですね。韓国では三国時代や李氏朝鮮時代のことはひじょうにポピュラーで頭に浮かぶのですけど、高麗時代については学ぶ場がないので、イメージとして捉えにくいんです。『MUSA』は高麗の使節団が行方不明になったという史実からフィクションを作ったもので、想像力を働かせて自由に発想できたというところに魅力があります。今まで割と多く取り上げられてきた李氏朝鮮時代の話よりも自由に発想して作れたのではないかと思います」
——この史実自体、韓国の方にとってはあまり知られていないことなのですか?
チョン・ウソン 「残念ながらこの史実に関しては、それほど知られていないと思います。一部の歴史の専門家を除いてはそうでしょう。私も、シナリオを読んで初めてこういうことがあったと学びました。とても腹が立つ部分がありましたね。自分たちは明という国との交友を保つために何度も使節団を送っているのにひどい扱いをされるわけですから」
アン 「長い歴史の中では本当に些細な出来事ですね。ですから、キム・ソンス監督がこの素材に気付き着目したことは、ひじょうに素晴らしいことです。いい感覚を持っていますね。映画の素材にとても相応しいものだと思います。どういう形にしても、見せられる。面白いなという感想を持ちました」





——日本の武士には侍魂というようなものがあるのですが、韓国には武士魂といったものはあるのでしょうか?
チョン 「高麗時代の武士魂が正確にどういったものかは言及しきれないところがあるのですが、どんな時代でも必ず武士の魂は生きていました。日本のようには資料が充実していなかったので、なかなか伝えられなかった部分もあったのですが、必ず存在していたと思います」
アン 「高麗時代は宗教という面では仏教が普及していましたし、李氏朝鮮時代は儒教がかなり普及しました。精神的な思想が違ってきているので、仏教の時代と儒教の時代では明らかに人々の生活・教育などすべてのものが変わったと思います。儒教で言われている人間味とか、勇気をもって何かに接するという基本的な部分、精神を受け継いだ武士魂というものは生きていたと思います」
チョン 「この映画のなかでもそうですが、相手を武術で制圧するということがフューチャーされていますね。9人の武士にはそれぞれの階級があります。貴族がいたり奴隷がいたりしますが、最後には自分たちの身分というものがまったく取り払われてしまって、自分たちの愛する者や守りたい人のために自分が進んで犠牲になる。それが本当の勇気であり、それが本当の英雄であると思います。それが、『MUSA』に出てくる本当の武士魂ではないかと思います」





——キム・ソンス監督は、サム・ペキンパー監督とか黒澤明監督の作品にインスパイアされたとおっしゃていますが、おふたりは演じる上で参考にされた作品はありましたか?
チョン 「監督からペキンパーですとか、黒澤監督の影響を受けているという話は——付き合いが長いですから——以前から聞いていました。僕も『七人の侍』はビデオで見ています。武士同士の心理の葛藤を描きたいということは、監督から聞いていました。企画当時からそういう話は出ていましたね。でも、自分が俳優としてそれを参考にしてアクションに反映させたとか、役を理解するために参考にしたかというと、そういうことはありません。ただひとつ思ったのは、黒澤監督は『七人の侍』だけど『MUSA』は9人。同じ7人はさすがにできないので膨らませて9人に変えたんじゃないでしょうか(笑)」
アン 「チョン・ウソンくんは今まで監督と3本もやってきているからよくご存知だと思うけれど、キム・ソンス監督は男性を魅力的に描くことに長けていると思います。たとえば、元の騎兵のランブルファという将軍が出てきますね。ヨスルとランブルファの微妙な男の関係というものを最初から最後まで維持して映し出していく表現手段は、本当にすばらしい。韓国国内でも、監督のそういった感性は認められるべきものだと思います。ただちょっと残念に思うのは、女性を表現することについてはちょっと弱い。チャン・ツィイーさんの演じる姫とヨソルとの恋みたいな部分、そのへんの表現が苦手だったようで残念ですね」
チョン 「もし監督がラブストーリーを撮ろうとしたら、(付き合いの長い)僕が止めなきゃいけないかな(笑)」

●『 M U S A − 武 士 − 』は12月13日より、シネマスクエアとうきゅう他全国順次ロードショー

執筆者

K.MIKUNI

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『MUSA-武士-』公式サイト