「最初に試写を見たとき?思いましたよ、こんなに救いのない映画を見せていいものだろうかって」(大泉洋)。第16回東京国際映画祭のチケットは3分で完売!同時期に東京で行われたトークショーは1分で完売!!知る人ぞ知る、とはいえ、この人気ぶりはどうでしょう。大泉洋といえばHTB「水曜どうでしょう」で大ブレイクした北海道のローカルヒーロー。今回、同番組ディレクターでもある鈴井貫之監督作品「river」で映画初主演を果たした。北海道産バラエティの顔として馴染みの大泉が、同作で演じたのは被害者を見殺しにした過去を持つ警察官。彼の人生に交差する人々は同じように重い過去を持った男たちーー婚約者を殺された男、事故でスキーヤーの道が閉ざされた男、小学校時代のいじめをひきづっている男ーーだ。鈴井監督が当初のキャッチコピーを「傍観者も処刑する」としたがっていたことからもわかるように、映画のテーマは限りなく重く深い。大泉自身、「撮影中はバラエティの仕事をするのがきつかった」と漏らす。オール北海道ロケ、キャスト・スタッフも9割が北海道出身者、北海道発信のダークな青春映画を大泉洋に解説してもらった。

2003年11月29日より東京・シネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー!






——なんというのか…およそ暗い話ですよね。シナリオを読んだ時、どう思いましたか?
大泉  いや、まぁ、およそ暗い話ですからねぇ(笑)、ウワっーとか思いましたよ。監督からも「佐々木耕一は君のキャラクターとは違うけど」って事前にメールがありましたし。これはもともと舞台劇で僕自身、10年近く前かな、客として見たんですよ。ステージ上で火をつけたりね、それで鈴井さん(監督)が火傷したりとか、とくかくすごい舞台でした。映画は内容が若干違ってますけど。

 ——佐々木耕一という主人公をどう解釈しました?
大泉  人間くさい奴ですね。人を撃つために警官になったわけじゃないからと拳銃にも弾を込めないような男ですけど、そんなの、キレイごとじゃないのって。人を傷つけたくないっていうけど本当は自分が傷つきたくないだけでしょ。主人公だけど弱くて人間くさい奴だっていうのが僕の解釈です。

 ——鈴井監督も共演者も、気心の知れたメンバー。とはいえ、こうした内容だけに現場の雰囲気は…。
大泉  ああ、ピリピリしてたと思います。待ち時間でもあんまりしゃべんなかったですしね。登場人物はみんながそれぞれ重い過去を持ってますし、僕が演じた佐々木にしても無口な奴じゃないですか。特に撮影の前半は必死でした。銃を向けるシーンだとか、ラストの廃校での対決だとか、重たいシーンが集中しましたからね。中盤すぎるころには多少は楽になりましたけど。

 ——ラストシーンの撮影が中断することもあったとか。
大泉  体育館の場面でね、監督もわからなくなったらしいんですよ。で、「悪い、ちょっと冷静になって考えたいから」って言って十五分くらい中断しました。あのシーンは昼間という設定だったんですけど撮影は真夜中だったんですよ。昼間から撮り始めて夜中になってやっと終わったんです。






 ——大泉さんは撮影期間中も週4本のバラエティ番組をこなしていたわけですよね。テンションの上げ下げに苦労したと思いますが?
大泉  今回はきつかったですね。僕は映画でも芝居をやっていてもバラエティの仕事は通常通りやるんですよ。だけどねぇ、佐々木を演じつつ、バラエティをやるのは…ねぇ。

——ラストで轟く一発の銃声。誰が誰を撃ったのかは観客の想像に委ねられています。
大泉  そうですね。この映画ってエンドクレジットが終わった後にもう1カット入ってるんですよ。あの場面を見てさらに絶望的になる人と逆に救われた気分になる人と分かれるみたいで。見る人によって感じ方は異なってくる映画なんでしょうね。

——大泉さん自身が初めてこの映画を見た時の率直な感想を。
大泉  うわぁー、あっーって感じですよ(笑)。こういう救いのない映画を観客に見せてもいいのだろうかという気分になりました。物語には入り込めましたけどね。というのも、普通、自分の出てる映画って恥ずかしくてまともに見れないわけですよ。でも、「river」は自分が出てるってあんまり意識しなかったんですね。

——なるほど。さて、大泉さんは北海道のローカルヒーローとはいえ、東京にも熱狂的なファンがたくさんいます。仕事の拠点を東京に移さないかという誘いもあるのでは?敢えて北海道にこだわる理由は?
大泉  いえ、というか、そんな話はきたことがないんですけど(笑)。僕としては北海道の看板を背負っているつもりはないですし、そんなにこだわってるわけではないんですよ。ただ、北海道に生まれ、その地でずっとやってきましたし、北海道産を発信していくのも面白いかなと。知ってる人は知っているっていう位置付けを自分なりに面白がってるところがある。たとえば、深夜番組だからできることがあるようにマイナー感のよさっていうのもあるんじゃないかな。野心がそんなにないっていうのもあるでしょうけどね(笑)。

2003年11月29日より東京・シネ・リーブル池袋ほか全国順次ロードショー!

執筆者

寺島万里子

関連記事&リンク

公式サイト
作品紹介