「そりゃ、僕だってヌードシーンの演出前は一杯ひっかけたい気分にもなるさ」、大きな体に大きな声、豪放磊落そのものといった雰囲気のジャン=クロード・ブリソー監督。だが、作品の雰囲気は打って変わって内省的でエロティックである。今回、久々の日本公開となる「ひめごと」は女性2人の破滅的な性的ゲームを描いたものでオフィスでの自慰行為から近親相姦、乱交パーティと後半になるにつれ、その過激度が増していく。とはいえど、本作は男性客よりもむしろ女性観客の共感を得られそう。ブリソー監督はヌードシーンが下品にならないようにキャスティングから配慮し、本番前はバレエの振り付けさながら細かい動きを指示した。ヌード演出中の心的状態は?興味津々な質問を投げかけると返ってきたのは冒頭のコメント。以下、「ひめごと」の撮影秘話を紹介しよう。

※「ひめごと」は2003年晩秋よりシアター・イメージフォーラムにてロードショー!!

 








——本作で脚本も書いていますが、この物語はどのように生まれたのでしょう?
1人ではなく女2人が互いに協力し合い、性的なゲームを始めるのは珍しい気がします。
ジャン=クロード・ブリソー かつて二年ほど教師をしていた経験があるせいか、総てを自分で取り仕切らないと気が済まない質なんだ。脚本はしかり、風景はしかり、衣裳もしかり、エロティックなシーンにしてもしかり…。さて、『ひめごと』の場合は、ある女優がカメラの前で禁止事項をやっていたことに端を発する。その女優は自慰をした。もちろん、ふざけてだろうけどこの件をきっかけに女性に潜む欲望について考えるようになった。
 始めに考えていたのはエリック・ロメールの映画に出てくるような3人の女性の物語だった。けれど、話の展開がうまくいかず最終的にこれが2人になった。本作のテーマは年頃は違うけれど『かごの中の子供たち』と共通している。主人公たちが生きる現実はエロティックで辛らつな視線に取り囲まれている。私の作品の中でもこの2つには哲学的に似通ったものがあると思う。

 ——主演のサンドリーヌとナタリーに抜擢されたのはコラリー・ルヴェルとサブリナ・セヴク。ほとんど無名の2人ですが、起用した理由は?
ジャン=クロード・ブリソー 一番の条件はカメラの前でエロティックなシーンを演じても下品にならないこと。この映画は男性よりも女性に見て欲しい。男性というのは性的なシーンで簡単に興奮するけれど、女性はそうはいかないだろう?2人の女優はただ美しいだけではダメだし、官能的であっても下品になってはいけない。そのためにオーディションの時には実際にエロティックな場面を演じてもらった。実際のところ、性的な場面を演じたがらない女優は多い。2人と出会えたことは本当にラッキーだったよ。

 ——そういったシーンは女優にとっても負担の多い仕事でしょう。撮影の順番などもいろいろと考えました?
ジャン=クロード・ブリソー それは確かに重要な点だね。こうしたシーンは女優たちに元気があるうちに撮るのが一番なんだ。ただ、今回、技術的な問題や時間の関係で必ずしもそうは行かなかった。例えば、冒頭のストリップシーンは初日に撮ったものだし、メトロでこっそり下着を脱ぐシーンは撮影の最後の方で2人の女優は疲れ果てていた。これは特に照明の問題が関与している。劇中でサンドリーヌとクリスとフ、その妹とが抱き合う場面があるのだけれどあのシーンはロングトラベリングを使用して3人をライトアップした。この装置を設置する場所や時間や人手や、その他もろもろのことを考えたとき、技術優先になってしまうってことも残念ながらままある。

 ——ところで、ちょっと聞きたいのですが性的なシーンを撮ることにためらいというか、プレッシャーを感じたことはありませんか?
ジャン=クロード・ブリソー うん?それは…そうだな、君だったらどう思う?

 ——もし、私が監督ならちょっと恥ずかしいかも…。演出するにも照れますね。
ジャン=クロード・ブリソー なるほどね。もちろん、僕だって緊張するし、撮影前に一杯やりたい気分にもなる。それは今だってそうさ。こういうインタビューはいつだって緊張するから(笑)。
 でも、俳優に言っているのは「まず、僕を興奮させてみろ」ってことなんだ。官能的な場面をどうやって撮ってるのかというと、たとえ3分のシーンでも四時間はカメラを回している。その前にはバレエの振り付けをやるかのごとく綿密な準備をしているんだよ。撮影中は自分が世界中の観客になったつもりで考えてみる。撮影後、15日間くらい寝かせることもある。15日後に見直してみて大丈夫ならGOサインだ。ともあれ、セックスがらみのシーンに限らず、俳優には「僕を振り向かせろ」、「僕の注意を引け」といつもそう言っている。

執筆者

寺島万里子

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