19世紀に世界初のコンピュータ言語を研究・開発していた英国人女性エイダ・バイロン・キング=ラブレス伯爵婦人。この知られざる人物の実像を、デジタル・クローンというアイデアを導入し、時空を超えたドラマとして描き出した『クローン・オブ・エイダ』。これまで現代アートの様々な分野で活躍し、本作で劇場用長編初監督デビューを果たしたリン・ハーシュマン・リーソン監督が、本作の日本公開を前に来日した。ハーシュマン監督は、落ち着いた物腰で、そのサングラス越しの眼差しには、常に笑みを絶やさず、全ての面に対し、オプティミスティックでポジティブであろうとする人柄が強く伝わってくる。そんなハーシュマン監督の、エイダやテクノロジーへの思いをここに紹介しよう。

(撮影:山形直紀)

$navy ☆『クローン・オブ・エイダ』は、2003年8月2日よりにて新宿武蔵野館にてレイトロードショー公開!$



Q.まず、エイダ・バイロンという女性を題材にされた理由をお聞かせください。
——エイダ・バイロンという人物は、ほとんど知られていない人物でしたが、彼女のことを知り絶対に映画を撮らなければいけない大切な人だと思ったのです。
この作品の中で描かれた彼女の半生は全て真実で、不幸な事情も実際にあったこと。でも同時に、世界初のコンピュータ言語の発案者であるなど彼女のポジティブな面もちゃんと描きたかったのです。

Q.19世紀のエイダと現代のエミーが、DNA記憶拡張装置で交信するというSF的な物語になっていますが、こうした道具立てを選んだ理由と、二人の女性の関連についてお聞かせください。
——物語上、記憶のみならず経験も伝達できるものを考えた際、DNAというものに辿り着いたのです。それでエイダの生活を見ることができるものということで、DNA記憶拡張装置というものを導入したんです。
二人に共通することとしては、二人とも同じ問題を持っているということです。二人とも仕事を持ち、悩みを抱えながら生きているのです。

Q.今回の作品では19世紀を再現するにあたり、ヴァーチャル・セットを用いられたということですが、それはどのような手法なのですか?
——この作品の撮影にあたり、ヴィクトリア調のホテル内部の写真を400枚以上用意し、デジタル化したものを撮影現場で選択しモニター上で合成し進めて行ったものです。出演者は、周囲に何も無い状態で演じました。演じる方は、何も無いところで大変なのではないかという質問をよく受けますが、実際彼らはその場でモニターを通しヴィクトリア調のセットの様子を見れますので、ひじょうに演じ易そうでしたよ。

Q.監督は本作が劇場用初長編ですが、これまでも数多くのビデオ作品を撮ってこられてますし、デジタル系の技術はかなり実際に取り入れてこられているようですが、それらに関しての、可能性や問題点等はどのように思われますか?
——デジタル・アートの利点としては、場所・色・音などに関して、スピーディーに効果が現れ、自由度が高いということですね。実際その効果に関しては、瞬時に見ることができますし。逆に不都合な要素というのは、ほとんど感じることはありません。特に最近では、映像的にも高品位になってきてますからね。






Q.劇中の、「記憶とは一体何?、何処から来るのか?」と言う台詞が印象的でしたが
——その台詞自体は、エミーの恩師シムスを演じたティモシー・リアリーが撮影現場で口にしていたもので、それを使わせてもらったんです。

Q.ティモシー・リアリーは本作が遺作となりましたが、彼を起用したきっかけは?
——この作品のキャスティングを考えた時に、シムス役は彼がぴったりだと思ったんです。彼に残された時間が少ないことは判っていましたし、やはりメディアというものを考えた時に、彼がいいだろうということですね。

Q.エイダ役のティルダ・スウィントンとは、2作目の『Teknolust』でもご一緒されたそうですね
——彼女はとても聡明で、繊細。魅力的な女優ですよ。

Q.現在準備中の3本目の長編のタイトルが『Memories of Frankenstein』で、また本作にも『フランケンシュタイン』の原作者であるメアリー・シェリーが出てきますが、彼女に関してもやはり関心がおありですか?
——メアリー・シェリーは最初に人工知能(A.I.)や電気学などの新しいテクノロジーについて考えていた方ですが、彼女自身はそうしたものを恐怖の対象とみなしていたようです。ただ、私はそうしたものを恐ろしいものとしてではなく、一緒に共存していくべきものだと考えています。

Q.テクノロジーとの共存と言うのが、監督が持ちつづけるテーマの一つであると…
——そう、テクノロジーに対してオプティミスティックなんですよ。ペシミスティックに考えることは、実は簡単です。けれど、オプティミスティックな考えができる人たちが、技術的なことのみならず、新たなステップを築いていけると思ってますから。

Q.では、最後にこれから作品を見る方にメッセージをお願いします。
——人は皆、ポジティブに人生を変えることができるんです。多くの方に、楽しんでもらえたらと思います。

本日は、どうもありがとうございました。

(2003年6月2日 アップリンク・ギャラリーにて)

執筆者

殿井君人

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