昨秋の東京国際映画祭で上映され、反響を呼んだ『藍色夏恋(映画祭上映時タイトル:藍色大門)』。
 大好きな親友のラブレターを届けに行っただけのはずが、相手の少年チャン・シーハオに「本当はお前が俺を好きなんだろ?」と付きまとわれることになるモン・クーロウ。彼女には、誰にも言えない秘密があった。17歳という多感な季節のきらめき、恋と好意の微妙なバランス、切なさ、少年の情熱とやるせなさを清々しいタッチで描いて本国・台湾で大ヒットを記録したイー・ツーイェン監督の青春映画で、カンヌやトロント、サンパウロなど世界各地の映画祭でも評判を呼んでいる。
 主演のチェン・ボーリンとグイ・ルンメイは、いずれも映画撮影時17歳の新人で、本作の大ヒットで一躍脚光を浴びた。
 イー・ツーイェン監督は、どのようにしてこのリアルな青春物語を作ることができたのだろうか? イー監督とヒロインのグイ・ルンメイに、その舞台裏を単独インタビューできくことができたのでご紹介しよう。

$blue ●『藍色夏恋』は、7月26日、シャンテシネにてロードショー$




——17歳の少女の繊細な心を丁寧に描いていらっしゃいますね。とても爽やかな印象を受けました。この繊細な映画の脚本を書くにあたって気を配られた点からお話ください。
イー監督「脚本を書くときは、そのときによっていろいろ書き方が違うのですが、今回気にしたのは、ひとりひとりの役の心情をいかに書き込むかということですね」
——若い人たちの心情を描くにあたって、リサーチはたいへんでしたか?
イー監督「私は、10年前から(広告の仕事での)インタビューやリサーチで若い人たちに接触してきました。若いと言っても2代3代にわたっています。若い人たちが何に欲望を感じ、何を恐れ、どんな希望を持っているかということを調べていたのですが、それらを総合的にひとつの映画に生かしたと言えると思います。10年にわたってリサーチしてきたと言いましたけれど、実際、17、8歳ぐらいの人たちには、10年たっても変わらないものがあるわけです。例えば、将来のこと、大学に進むか就職するのかという自分たちの将来像に対する思いですね。どんな仕事に就いているだろうかとか、どんな伴侶を得ているだろうかとか、あるいは何をしているだろうかとか、そういう思いはずっと変わらないものだと思います」
——10年間の蓄積がこの映画の企画になっていったのですね?
イー監督「そうですね。やっぱりそういうインタビューがあったからこそ、この映画が生まれてきたと思います。はじめは別の仕事にも使えると思って彼らにインタビューしていたんです。この映画を撮ることになってから、またインタビューをしたりもしています。脚本を最後に手直しするために、この映画の撮影にも使った高校に行き、一週間2年生のクラスをずっと観察しました。そこで彼らがいったいどういうふうに授業を受けるのか、彼らがお昼にはどんなふうにお弁当を食べたりしているのか、とにかくすべて観察をしました」




——監督は、街でグイ・ルンメイさんを見つけてキャスティングしたそうですね。
イー監督「グイ・ルンメイもチェン・ボーリンも街で見つけたんです。今回の役者選びは1年がかりでした。どのくらいの人に会ったか覚えていないほど。プロダクションからの紹介もあったし、既にデビューしていた役者を面接したりもしましたが、なかなか満足のいく人が見つかりませんでした。そこで、スタッフ一同でいちばん素朴なやり方——今になって思えばいちばん収穫のあるやり方かもしれませんが、全員が街に出て本物の高校生に会ってみようということになったんです。“台北の渋谷”と言われている西門町に行き、彼らがどういうことを考えているのか探りながら選んだわけです。候補を何人か連れ帰って、それから1ヶ月のレッスン。みんな一緒にレッスンを受けてもらって、最後に結果発表をしました。ふたりともそういう形で抜擢しました」
——ルンメイさんは、街で声をかけられたとき、いかがでしたか?
ルンメイ「私が声をかけられたのは西門町の駅だったのですけど、女性の助監督さんだったんです。そのときは強烈な印象はなくて、ただ連絡先を渡しただけで。監督と初めてお会いしたときは、ただの楽しいおしゃべりっていう感じでした。そのときも、私は、絶対これをやりたいとかそういうことも言いませんでしたし、実際、私がこれをやりたいと思ったのは十何人かに絞られた段階になってからだと思います」
——監督の第一印象は?
ルンメイ「映画監督っていうのは、恐そうな人だとずっと思っていたのに全然そうじゃなくて、すぐにとっても話が合ってしまってとても楽しかったです」
イー監督「ちょっといいですか? 私は、ふだんから優しいわけではなくて、厳しいときもあるんです。ただ、長い間、若い人と仕事をしたり、若い人をインタビューしてきた経験からわかったことで、若い人は怒られると萎縮してしまうんですよね。自分から失敗しないように萎縮してしまうので、演技にはそれが逆効果なんです。演技では、勇敢に自分を出してもらわなければいけないので、私は若い人とするときはなるべく厳しくしないようにしています」
——主役に選ばれなかった人たちは、その後どうされましたか? ひょっとして出演していますか?
イー監督「脇役で出ているふたりの同級生役は、1ヶ月一緒にレッスンを受けた子たちですよ。彼らも喜んで脇役を引き受けてくれました。合宿レッスンというのは、小人数だとあまり練習にならないので、一緒にやったほうがいいと思ったんです」
——ルンメイさんたちに決まって、また、彼らに触れ合ううちに脚本が変わっていったことがあるんでしょうか?
イー監督「ストーリーは決まっていたんですけど、表現方法ですね。どういう形で表せば、彼女たちにしっくりくるかということは、彼女たちに合わせたものが多いです」
——出来あがった作品に対して、満足されていますか? もっとこうしたかったというようなことは?
イー監督「もちろん残念だったことはいろいろあります。特に、カットせざるを得なかったシーンは、それぞれの役柄の心情に絡んでくる場面でした。具体的に言うと、男の子側の芝居。自分が同じように成長していく過程で経験した挫折感とか、自分が体験したことは男の子の側の描写にかなり反映されていたので、それがなくなってちょっと残念です」




——ルンメイさんは、この映画のために自分自身の受験を控えていたのに時間やエネルギーを割かなければならなかったわけで、葛藤とかおうちの方といろいろあったと思うのですが……
ルンメイ「ちょうど高2から高3になる夏休みだったので(注:台湾は9月から新年度)、学校全体が受験に向かっているときで、当然、私の父はものすごく反対しました。でも、私は、17歳の私の姿を残すということに惹かれましたし、この17歳の夏は2度と帰らない大事な時だと思って、一生懸命勉強もする、とお父さんを説得してました」
イー監督「グイ・ルンメイのお父さんは、とてもスゴイ人ですよ。何がスゴイって、私と4回にわたってミーティングをしたんだ。すべてのことを了解しないと気がすまなくて、特にキスシーンが心配で、何秒以上はいけないとそういうことまで要求したんだから。しかも『そんなに長くしません。短いカットで撮りますから』と言ったら、即座に『あなたは何テイクも撮るほうですか? 何度も撮り直すのなら、1回が短くても結局長くなる』と。しょうがないので、私は『5回以内に抑えます』と答えたんですよ」
——それでは、相手役のチェン・ボーリン君はお父さんに睨まれたんじゃないですか?
イー監督「お父さんは現場にずっと来ていたんだけど、皆に気づかれないように遠くから見ていましたね」
——娘が可愛くてしょうがないんですね。兄弟は何人?
ルンメイ「兄がひとりいます」
イー監督「お兄さんは、ずっと現場で彼女に付き添っていました」
——話は戻りますが、この映画に出てよかったなと思ったことは?
ルンメイ「いっぱいいい人がいたこと。それから、この映画の宣伝や映画祭で世界中のあっちこっちに行けること。これは、もう絶対できない経験だと思います。この映画を通して知り合った人たち皆と友達になれたことも」
——今回は、この東京国際映画祭で渋谷に来たわけですが、フリータイムは?
ルンメイ「ショッピング!」
——何を買う予定ですか?
ルンメイ「ぜんぶ!」
——破産しないように気をつけてくださいね(苦笑)。
ルンメイ「カードがあるもん!(笑)」
イー監督「お父さんのカードじゃないか(笑)」
——では、最後に、一言ずつ今後の予定を教えてください。
イー監督「いま、脚本を書いている途中です。これも青少年ものなんですが、ラブストーリーではなくてモダンミステリーになります」
ルンメイ「とりあえず学業中心です。仏文科に入ったばかりですから」

執筆者

みくに杏子

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