92年のパラリンピック バルセロナ大会に初参加後、3度の大会で金メダルを含む計14個のメダルを獲得してきたスイマーであり、全盲では初めて公立校の教師となった河合純一氏。彼の自著を元に希望と勇気の半生を描き、また河合氏自身が本人役として出演も兼ねている映画『夢 追いかけて』が、今月の下旬よりロードショー公開がスタートする。そう聞くと、なんか固苦しい教育映画かスポ根ものかと早合点する方もいるかもしれないし(実を言うと自分も最初はそうだった)、それらの要素も勿論出てはくるのだが、主人公・純一と、彼を自然に受け入れるごくごく普通の家族・教師・友人・生徒たちとの交流を軸にした物語は見ていて素直に面白く、また声高に感動を強要すること無く、しかし観る者に爽やかで熱い思いを喚起してくれるだろう。
 終業式も終わり教師としての生活もようやく一段楽をつかれた3月下旬、本作の披露試写、記者会見のため舞阪より上京された河合氏にお話しをうかがう機会を持てた。自己紹介をした筆者に、右手を差し出すと優しく力のこもった握手で迎えてくれた河合氏。その感触からは、河合氏の人と人との関係への真摯な姿勢が伝わってくる。「出来上がった作品は、監督や製作者のものですから」と謙虚に話された河合氏だが、爽やかな熱さはまさに氏の持ち味であり、やはりこの作品で御本人の出演を押した製作陣の判断も実に納得な感じだった。

$navy ☆『夢 追いかけて』は、2003年4月26日より銀座シネパトス、ヴァージンシネマズ浜松にてロードショー公開中、以後全国順次公開!$





Q.ご自身の記録を書かれた本に基づく映画ということですが、映画化の経緯と映画化される上でポイントとされた点はどういった部分でしょうか。
——原作を読み、シドニー パラリンピックの様子を見てくれた製作者の方から、僕自身が出演しての映画化をということでお話をいただいたのです。それで、映画化するに当っては、作劇上必要な部分はともかくとして、気持ちに嘘の無いものを作って欲しいということはありました。例えば本編中で視力を完全に失った純一と駄菓子屋のおばさんとの件は、現実にあったエピソードでは勿論無く、視力の無い者に対し、そのように考えている人もいることを判りやすく誇張して描いたものですが、そういった映画として必要な作劇上の脚色や誇張はあったとしても、気持ちの部分で嘘が描かれていたら、観る人にも、自分にも信じられない作品になってしまいます。だから、それは絶対に無いようにしようと。そのために、準備期間にも一年半近くかけていますし、その間、脚本で没にさせてもらった部分もあります。

Q.作品の中で河合さんと、両親や先生、友人達の関係が、変にベタベタとはしてないのですが、ひじょうに密接に繋がっているようで、観ていて気持ちがよかったです。
——そのあたりも、実際の自分と周囲の人たちの関係そのままですし、舞阪には今でもそういう部分がよく残ってます。また同時に花堂純次監督が今回の作品で、今の日本人に失われた人と人との関係を描くということをおっしゃってましたので、そうした部分も、映像に出ているのでしょうね。花堂監督は、登場人物の心理描写に長けた方だと思います。

Q.そうしたエピソードの一つで、中学の屋上で盲学校に行く決心をした純一と森田先生が話しているところを、同級生が心配して様子を見に来る場面がありましたが、そこで森田先生がかける言葉が、純一だけでは無く同級生全員に向けられていたのが印象的でしたね。
——特異な情況の者だけに目を向けるのでは無く、常に全ての生徒に目を向けると言うのは、教師の基本ですよね。一部の教師にそうしたことが出来ず、話題にされてしまう者がいるのも事実ですが、ほとんどの教師と言うのは、子供達全体を見るように心掛けていると思います。

Q.友人達との関係も、例えば盲学校に進み水泳の練習に励む姿を見た中学時代の同級生が、その姿に自分の夢を把握をしてはないが、動き出すところなども観ていて気持ちよかったですね。
——友人が成功する姿を見て、妬むってことも無くはないと思います。が僕の周りでは実際に、誰かが成功するとそれを喜び、そして自分たちも成功に向かって頑張って行く。互いが刺激しあい、より高いところを目指していくような関係でしたし、それが友人の本来の形でしょう。

Q.東京の盲学校時代までの純一は、勝地涼さんが演じられてましたが、撮影にあたって河合さんの方からアドバイス等はいかがでしたか?
——特にはしてないですよ。撮影期間やその前後で長い時間、僕や僕の友人達と一緒に遊んだりしてすごしていたんです。そうした時間の中で、僕たちの関係や感情を感じ取ってくれたようです。そういう意味では、本当に勘がよかったし演じることに熱心でしたよ。





Q.そして青年期からは、河合さんご本人が演じられたわけですが初めての映画出演のご感想は?
——戸惑うこともありましたが、何と言っても映画に参加すると言うのは、普通にはできない経験じゃないですか。自分達とは全く異業種の人たちとの共同作業はすごく刺激になりましたね。撮影は昨年の夏休み期間に行われたので、暑さは大変でした。授業の場面に出ている生徒達は、ほとんどが実際の僕の教え子たちです。やはり映画に出るという得難い経験を、喜んでましたよ。僕の友人たちが映っているところもありますが、“ウォーリーを探せ”くらいですかね(笑)。

Q.実際の撮影では、どのくらいのテイクでOKでしたか?
——撮影はほとんど1テイクでOKでした。僕自身はプロの役者ではないですし、自分の演技の良し悪しは判断できませんが、プロの監督がOKを出してくれたので、ちゃんとできたのかなとは思っています。

Q.共演された三浦友和さん、田中好子さんらについてお聞かせください
——三浦さんは、演技についても教えてくれましたけど、むしろそうしたこと以外で異業種同士が普段話していたことが面白かったですね。「よく生徒さん全員の声を覚えられるね」というのは、「よく台詞を全部覚えられますね」というのと同じことなのかなとか。田中さんとは、撮影期間中は実の母よりも長い時間を一緒に過ごしていたので、本当にお母さんって感じでしたね。

Q.ところで、昨日の記者会見でも話されていましたが、アテネのパラリンピックに向けての話をお聞かせください。
——マスコミでの扱われ方が未だ少ないのか、もしくは選手側のモチベーションの問題なのか、はっきりした原因は定かではありませんが、パラリンピックに関してまだまだ世間での知名度は高くありません。そうした中で、こうしてこの映画が作られ公開されることになったわけですが、そのタイミングで僕がやっていなかったら、折角こうしたことを知らしめすチャンスに水をさすことになるのではないかと思い、挑戦することにしました。勿論、予選を通ることが先決な訳ですが、4月からは本格的に練習も始めますので、頑張りたいと思います。
(※河合さんは4月より教師を休職され、2年間早稲田大学の大学院での研究活動に入り、並行しアテネに向けてのトレーニングを始められた。現在は都内在住)

Q.最後にこれから作品を観る方にメッセージをお願いします。
——自分の夢を見つめ直したり、探し出したりするきっかけになってほしいです。そして、実現に向かって、動き出す原動力となれたなら、この映画は大成功だと思います。
 多くの仲間と見ることで、夢について語り合うきっかけとなってくれたら、これまたうれしいですね。恥ずかしがることなく、「夢」について語れる日本、地球になってほしいものです。

本日はどうもありがとうございました。
(3月23日、都内のホテルにて)

執筆者

宮田晴夫

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作品紹介頁
記者会見レポート
完成披露試写会舞台挨拶レポート
『夢 追いかけて』公式頁
河合純一氏 ウェブサイト「Keeping alive the dreams」