1989年『鉄男』で衝撃的世界デビュー以来、“都市と肉体”をテーマに独自の視点と斬新な手法、そして天才的なセンスで鮮烈な映像を作り出し、世界の映画ファンを圧倒し続ける映画監督<塚本晋也>。スコセッシやタランティーノ、ジャン・ピエール・ジュネなど映画監督の中にも塚本ファンを公言する者も多い。ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞したデビュー作であり、”アーリー塚本映画”とも言える『電柱小僧の冒険』から近年の『双生児』にいたるまで、すべての作品を余すところなく網羅したコレクターズDVDが5月22日より発売となる。来る五月には去年のベネチア国際映画祭で審査員特別大賞を受賞した最新作『六月の蛇』が公開を控える塚本監督。DVD発売をきっかけに「これまでの自分の作品をこうしてまとめて見てみると、技術や手法がわずかながらも一歩一歩は成長していることや、転機となった作品などがわかった。」と感想をもらした。監督が語った各作品のエピソードは、天才・塚本の型破りでオルタナティブな撮影現場を教えてくれる、とともにズッコケな一面もずいぶんとバラしまった、大変面白いお話でありました。

★期間限定・塚本晋也COLECTOR’S BOX「TSUKAMOTO SHINYA DVD COLLECTOR’S BOX」はDVD7枚、特典ディスク(撮り下ろし)、封入特典(幻の「鉄男プレス」特別復刻)で、5月22日発売(4月16日予約締めきり)!!




−−−まずはじめに、今回のDVDBOXのように、20世紀に塚本監督が作られた作品がひとつにまとまることについてどう思いますか?
「すごくうれしいです。”20世紀”って言われるとオーバーで恥ずかしいですね。」

−−−なかでも『電柱小僧の冒険』は初DVD化ですよね。
「『電柱小僧』は劇場映画を撮るようになる前の映画で、『鉄男』のひとつ前の作品で、8ミリで撮っています。僕は十代の時から8ミリを7本くらい作ってて、一旦辞めてコマーシャルの会社入って、そこで演劇もやっていたんですけど、そこでのお芝居に電柱小僧がありました。美術をすごく凝って作っていたから捨てるのももったいない、そこで昔やっていた8ミリでやってみようということで作りました。ですからキャストもスタッフもその演劇の仲間です。実はその次の『鉄男』も同じメンバーなんです。僕が新しい映画をつくって特集上映とかで旧作を上映する時、『電柱小僧』はDVDになっていなかったんですごくお客さんが来てくれたんです。だからこれDVDになっちゃったらもうお客さん来なくなっちゃかもしれないんでそれが心配なんですけどね(笑)。」

−−−DVDの特典映像につく『塚本図鑑』というのはどういうものなんですか?
「『電柱小僧』で88年にぴあフィルムフェスティバルでグランプリをいただいたんですが、その時に今までのコマーシャル会社での仕事や演劇していたのを一本にまとめたビデオをつくってくれと言われて『塚本晋也10000チャンネル』というのを作りました。それには8ミリからコマーシャルから演劇からビデオ作品から全部入っていまして、それを特集上映でやっても結構お客さんが来てくれていたんです。ですから今回の特典映像にはそれに近いものをやりたいと思ったんです。けれど、それはコマーシャルとかテレビ番組とかそのまま使っていますので著作権の問題などありますので、今回新たにそれに近いものを作りました。『10000チャンネル』に、さらに『鉄男』から現在に至るまで再編集して、大幅に追加しました。インタビューや映画祭での写真や制作の裏にまわったものも入っています。」



−−−これまでの撮影で印象に残っている出来事はどんなものがあるんですか?
「僕らの映画のスタッフは、鉄男の時から演劇の仲間だとか素人のボランティアを募集して、ヒルコと双生児以外はまったくの素人を集めて映画を作ったんです。ですがその素人の方々も僕らと映画をつくっていく内にだんだんと成長して行きまして、六月の蛇についてはその力が結実してほぼプロに近いレベルの技術と、プロにはないような映画への没入感の、その二つが結束されていましたね。ですから初期の頃の鉄男などには素人ゆえの失敗やらエピソードが多いです。エピソードもありすぎるほどあります。いままで言っていなかったエピソードですと、鉄男ではお金がなかったから、ゴミを漁って機械の部品を拾ってきてそれを直接田口トモロヲさんの顔にくっつけたり。当時まだ若かった田口さんの綺麗な肌が、田口さんて博多人形みたいにきれいな肌だったんですけど、はがす時にはぼろぼろになってしまって。でも全然文句も言わずに一生懸命やってくれましたね。あと、僕らの撮影はずっとゲリラでやってたんで了承を得ないで黙って撮影してたんだけど、今思うとわざわざゲリラしなくても頼めばよかったなと思うことがあります。鉄男のメインとなる工場でもこっそり入って撮影してたんですけど、そこの人に結局バレちゃって『断ってくれたらいいのに』なんて言われたり。あとはですね、渋谷のレコードショップでゲリラで誘拐のシーンを撮っていたらお店の人が本当の誘拐だと勘違いしてしまって捕まえてしまったということもありました。エピソードをきかれれば、エピソードだらけですよ。」

−−−ずばりいままでの作品で監督自身一番気に入っている作品は?
「自分の作品はすべて子供のように思っています。長男だけ可愛くて次男だけ可愛く無いなんてことはないですよ。ただ、なんとなくやんちゃな子供の方が印象には残っています。『鉄男』とか『東京フィスト』、『東京フィスト』は振りかえってみるとある種の区切りになった作品だと思います。『鉄男』で作って悩んでまた次の展開を『東京フィスト』でしていると思います。で、今回の『六月の蛇』でまた次の展開をしたと思っています。もちろんその間の作品も大好きです。」



−−−では、ベネチア国際映画祭でも受賞された五月下旬に公開になるその新作『六月の蛇』についてお話をきかせて下さい。
「最初は春に公開の予定だったんです。それでも九月のベネチア映画祭に出してからだから公開まで『長いな』と思っていたんです。暮れくらいがちょうどよかったんでしょうけど。渋谷のシネ・アミューズでの上映なんですけど、割と人気の劇場らしく『アカルイミライ』(黒沢清監督)やらなにやらどんどんヒットしてしまって結局五月の末になってしまいました。タイトルが『六月の蛇』だから、六月に上映するのだけは避けたかったんです。映画はファンタジーのようなものなので、雨がずっと降っている映画なんですけど、映画館を出たあとに天気がいいと『あっこれは映画だったのね』とお客さんもなると思うんですけど、映画館出てからも雨が降っていたら陰々滅々たる気持になってしまいますよね。ですから、六月に上映されるのだけは避けたかったんです。あ、でも五月末の公開だから結局上映されている間はほとんど六月ですね。本当に『六月の蛇』の状況になってしまいましたねぇ。僕は『バレット・バレエ』とか他の映画もずいぶん頑張って作ってたのに『六月の蛇』だけなんでこんなに喜ばれているんだろうと自分でも不思議です。でも、今回DVDの編集で昔の作品から現在までを見てみたら、すごく少しずつ、すごく幼いところから1ミリずつ進歩しているように思いました。『六月の蛇』は今までより、お客さんの間口が広がっていると思います。テーマはエロ映画ですので中年のおっさんをターゲットにしていたんですが、実際は女性からの評判がよかったんです。ですから女性の方に多く見てもらいたいです。あっ!でもエッチですからおじさんにも見て下さい。おじさんと女の子。あっ、若い男も見て下さい。だってこれは僕が20才くらいの時に考えた映画なんで、ですから若い感性で描かれていますから若い方も大丈夫です、おじさんも”ヴェネチア映画祭!”とかポスターに書いてあるんでそれを大義名分すれば映画館にも入りやすいですしね!女性の官能が前半では痛めつけられるんですが、後半では非常にのびやかな官能が男性を脅かすまでに成長しまして、それを黒沢あすかさんが非常に可愛らしく演じてますのでそこも見ていただきたいところです。」

−−−『六月の蛇』はマガジンハウスから小説も上梓されますね。
「はい。昔『東京フィスト』の小説も出ましたが、それは僕が書いたわけじゃなく、ライターの方に書いていただいたものなんです。ただ小説というのはずっと書きたいなと思っていたんで、やらないかと言われたのでやってしまった、これが運のつきです。むずかしいですね。今まで僕の映像をみて物語性がないと思っている方多いと思いますが、40くらいになってきますと物語というものの重要性や興味が増してきているんです。映画ではちょっとエロが足りなかったと思った分小説には入魂でエロ感を出しました。脚フェチなんで太腿の描写とか同じのをしつこく2回入れたりとか。女の人がミニスカートで座っているときに膝のピカピカした感じとか。小説を書くのは非常に苦しかったんですけど、なんとか人にみていただけるものになったと思います。これに関しては、叱咤していただきたい部分もあります。」

執筆者

綿野かおり