「ハンニバル・レクター」シリーズの原点である『レッド・ドラゴン』。
この作品はレクター役のアンソニー・ホプキンスをはじめ、演技派のエドワード・ノートン、レイフ・ファインズ、ハーヴェイ・カイテル、エミリー・ワトソンなど豪華俳優陣を迎え、あのアカデミー賞に輝く『羊たちの沈黙』を彷佛させる見事な出来栄になっている。そして今回この作品の監督であるブレット・ラトナー、製作のディノ・デ・ラウレンティスとマーサ・デ・ラウレンティス、そして繊細な心理と鋭い観察眼を持ったグレアムFBI捜査官役を演じたエドワード・ノートンがPRのために来日。笑顔で会場に登場、と思いきやあの独房の窓から見慣れた顔が!知性と冷たさを秘めた青い瞳に、あの拘束具。なんとあのレクター博士も来日か?!とどよめく報道陣。そこへ監督の花嫁候補を日本で見つけたいという発言も飛び出しますます沸いた記者会場。ノートンの日本語も絶好調だった会見の模様をお伝えする。
なお『レッドドラゴン』は、2003年2月8日日比谷スカラ座1他にて全国ロードショー







質問:
それでは一言、ご挨拶をお願いします
ディノ・デ・ラウレンティス(以下ディノ):
日本に来ることが出来て大変うれしい。東京大好き!日本食大好き!美人もいっぱい!
$MAGENTA マーサ・デ・ラウレンティス(以下マーサ):$
2年ぶりの日本です。日本に来ることができたこと、日本で公開できることがとてもうれしいです。
エドワード・ノートン(以下ノートン):
ハジメマシテ!(しばらく英語)エッ、ニホンゴ?エー、ニホンニモドルコトガデキテウレシイ。ガクセイノトキニベンキョウシタケド、モウワスレチャッタヨ!
ブレット・ラトナー(以下ラトナー):
日本に来るのはこれで4回目です。この中で、私だけが独身です!ぜひ素敵な花嫁候補を見つけて帰りたいよ。日本食も大好き。日本料理が得意な方がいれば、日本に移住して暮らしたいよ。

質問:
これまで名だたる監督が手がけたこのシリーズを撮ることへのプレッシャーはありましたか?またこのような豪華キャストが実現した経緯は?
ラトナー:
プレッシャーもあったし、不安もあった。名だたる監督のあとだったしね。そこでジョナサン・デミ監督に電話したんだ。で、あれやこれや質問したら「ブレットまぁ、落ち着け。君のバージョンを待ち望んでいるし、僕が君のゴッド・ファーザなら君に幸運を望んでいるから。」と言われたんだ。今までのシリーズも大好きだったし、私は私なりのベストをやることにしたんだ。今回の作品は『ハンニバル』のスタイルより『羊たちの沈黙』の心理的なドラマにならった作りになっている。とても怖い作品なんだけど、その怖いと言うのは、見えない恐怖、見せない恐怖なんだ。こういったもので恐怖を醸し出しているんだよ。
キャストについてはみんなから「無理だよ」って言われたんだ。「エドワード・ノートンはこーゆう映画はやらないよ」って言われたんだよ。でも脚本がとても素晴らしかったからね。だからイギリスで「シェイクスピア」(舞台)をやっていたレイフ・ファインズも、『レッド・ドラゴン』に出たいなんて思ってなかっただろうけど、とにかく自分が一番(のキャスト)と思う人達を説得してまわったんだ。

質問:
FBI捜査官を演じるにあたり、どのようなリサーチをしたのですか?また日本での滞在を詳しく教えて下さい。
ノートン:
FBIの本部を訪ね、実際に起きた連続殺人事件などの話を聞き、また現場の写真を見たんだ。映画ではとてもみせられないような写真もあった。そして彼ら(捜査官)が写真から犯人をどう分析するかを学んだんだ。あと本もたくさん読んだ。ジョン・ダグラスというプロファイリングをはじめた人物が書いた本は、特に参考になったよ。あと現場にもFBIの捜査官がアドバイザーとして来てくれたんだ。例えば僕(グレアム)が初めて現場に行くシーンでは、その場に写真を持っていって(現場と)比較した方がいいというアドバイスをしてくれたし、銃の使い方などのトレーニングもしてくれたよ。
(ここから日本語)日本での滞在だけど、12年前に大阪に住んでいて、務めていました。天保山の海遊館を作っていました。大学生の時には日本史を勉強しました。日本語は1年半ぐらい勉強したけど、もう忘れてしまいました。(英語)大阪に住んでいて、京都や奈良、瀬戸内海にも行ったよ。(日本語)富士山にも登りました。(英語)これ(日本滞在)は20才ぐらいの時の話。大阪が大好きだし、日本が大好きだし、たくさんの友人がいたんだ。合気道も学んだし、日本史も勉強したよ。だから日本というのは僕にとって特別な場所。とても楽しい時間を過ごしたね。それから8年ぐらい戻っていなかったけど、2年前に東京国際映画祭で戻ってこれた。これからはもっと日本に戻ってきたいな。(日本語)お好み焼き大好き!食べたい!食べたい!

質問:
『ハンニバル』の続編としてこれは作られたのですか?また映画にたいして原作をどうとらえていますか?
ディノ:
「レッド・ドラゴン」という本の中のドラマはとてもいいもの。『ハンニバル』を作ったあと、やはり本(「レッド・ドラゴン」)の中のFBIの捜査官の心理ものがいいと思い、これを映画化しようと思った。「レッド・ドラゴン」という本の中には複雑なキャラクターが描かれている。だからこれは続編と言うよりも、とにかく「レッド・ドラゴン」という本に基づいて、レクターをもっとみせるものとして作ったんだ。
$MAGENTA マーサ:$
プロデューサーとして大切なことは、レクターをアンソニー・ホプキンスにまた演じてもらうことだったの。彼にレクターを演じてもらったけど、それは違うレベルのレクターを演じることであり、彼にとって新しいチャレンジだったの。監督にはブレット・ラトナーを迎えたわ。そしてキャストも最後の一人まで素晴らしい人達でそろえることができた。本当に監督にもアンソニー・ホプキンスにも新しい挑戦になったと思うわ。







質問:
アンソニー・ホプキンスは3作全てに登場していますが、彼の印象をお聞かせ下さい。
ノートン:
褒め言葉がいくつあっても足りないよ。彼はとても偉大な俳優だよ。最初は怖いかなーと思ったけど、会ってみたら本当に優しく、普通の人。あと僕は以前からアンソニー・ホプキンスの演技を映画でみていて、非常に多くのことを学べる俳優だと思っていたんだ。微妙な演技、抑えた演技をできるとても素晴らしい俳優。彼の演技を研究して勉強していたんだよ。彼とに知り合ったのは数年前。僕が仕事をはじめたばかりの頃だったんだけど、彼は手を差し伸べ、サポートしてくれた。そんな彼と共演できるということも、出演の大きなきっかけになっているんだ。だって今度いつ彼との共演が巡ってくるかなんて、わからないからね!今回共演してみたけれど、とてもオープンで、なんでも言ってくれる。我々俳優や監督が提案しても受け入れてくれるし、彼からも提案をいろいろしてくれた。そんな意味でも素晴らしい共同作業ができた。リラックスして、気さくで本当に言葉が足りないぐらい素晴らしい人だよ。
ラトナー:
アンソニー・ホプキンスについてはノートンと同意見だよ。彼と仕事ができるなんてとても大きなチャンスだと思ったよ。彼をあのハンニバルの役で演出できるんだよ!ハンニバル・レクターというのはまさに映画史に残るキャラクター。僕が指示をだす。モニターをみる。そこでは僕の指示どおりに動いてくれる彼がいる。もうまさに夢のようだったよ!僕までもが映画史の一部になれた気がしたよ。彼はまさにハンニバルを演じるために生まれてきたといっても過言ではない。だけどこの役にとらわれることなく、どんな役でも演じることが出来る、本当に素晴らしい俳優だ。彼と仕事ができたことにとても感謝しているよ。

質問:
レイフ・ファインズを起用した理由、また彼と共演した感想は?
ラトナー:
いろいろな俳優でスクリーンテストをやったんだけど・・・。この役は、いろいろな要素を持っている。だから本でも脚本でも人々が同情できるキャラクターだったんだ。ある時レイフ・ファインズと食事をした。もちろん彼ならこの役をできると思ったけど、彼と話をしていると、彼自身の中に人間としてのもろさや弱さを感じたんだ。レイフ・ファインズであることに対する居心地の悪さというか、繊細さや弱さを強く感じられたんだ。(補足:レイフ・ファインズが演じた役は自らの醜い姿や自分自身に強い負い目を感じている。)彼ならこのキャラクターに人間性を出せると思ったんだ。彼しかいないって思うようになったのさ。
ノートン:
彼は役に入り込む俳優だと思う。今回は残念なことに撃ち合ったり、殴り合ったりと一緒にいるシーンはほとんどなかったんだ。でもお互い血まみれになって、セットの準備が整うのを待っている間に話をして、今度2人だけの舞台をやってみようという話になったんだ。2人がしゃべっているだけの対話劇をやりたいね、って。

質問:
なぜコメディー色の強い監督を起用したのですか?
ディノ:
うーん、私がクレイジーだからだよ。コメディしかやらない監督を起用したんだからね(会場爆笑)。真面目に答えると、自分にとって大事なのは脚本、スクリプト。映画の本当のスターというのは脚本だと思う。いい脚本があれば、演出もよくなるし、素晴らしい俳優や監督など人も集まる。そうなればまさにビンゴだ!あとこれまでのプロデュース作を見てみればわかるとおり、私は若い監督を起用することが多い。なぜなら彼らに映画界の将来がかかっているからね。そこでいい監督はいないかと言うと、ラトナーの名が出てくる。だがあのコメディーの監督だろう。最初は疑問を感じていた。でも最終的に彼に会ってみようと家へ招待したんだ。その時の彼の情熱、脚本について熱く語った時の熱意。キャラクターに対する彼の思い入れと熱意に、彼にしようと決めたんだ。そして彼は本当にいい脚本を作ってくれたよ。ところでフェデリコ・フェリーニにはじめて仕事を与えたのも私だが、その時の彼も若かったんだよ。







質問:
ノートンさんの出演作は現代社会の闇などを描いたものが多いのですが、そのようなテーマの作品へ出演することが好きなのですか?また監督自身はミュージックビデオの出身ですが、その経験を作品へいかせましたか?
ノートン:
私がこれまで出演してきた映画は、アメリカの文化や社会を描いたものだった。『ラリー・フリント』とか『アメリカン・ヒストリーX』、『ファイト・クラブ』もそうだし、今度のスパイク・リー監督の作品もかなり社会的な映画だね。現代の社会を描いた映画が好きなんだ。でも今回の『レッド・ドラゴン』はスリラー。僕自身は怖い映画で、ガールフレンドが「キャー」というの期待しているような娯楽作品の一つとしてとらえているよ。今までも娯楽作品としては『ラウンダーズ』、『スコア』、『真実の行方』があった。僕自身としては、いろいろな違うタイプの映画に出演していきたいと思っている。『レッド・ドラゴン』は娯楽映画の一つであり、社会的な映画ではなく、怖がって楽しめる心理的なドラマだと思うよ。
ラトナー:
同じ脚本で、10人の監督がいれば、十人十色の作品が出来上がると思う。暴力や血に集中した作品、もっと怖くてサスペンスの要素がある作品、とかね。私の場合はキャラクターのもつ人間性、心、心理状態、感情、人間関係を前面に出そうとしたんだ。ダラハイドとマクレーン、レクターとグレアムの人間関係にも焦点をあてたかった。もちろん題材自体に含まれていたことなのだけど、私自身ここにスポットをあてて、それが演技を通して、最終的な編集を通して、表現できればと思ったんだ。あまり血なまぐさい要素は見せないようにしたし、闇の部分を追求しようとは思わなかった。それよりも人間関係に重点を置いたんだ。
ノートン:
俳優の立場から言わせてもらうと、ラトナーはどんな映画にしたいのか、どんなトーンの映画にしたいかが具体的でとてもハッキリしている。だから我々全員がなぜ『ハンニバル』のあとにもう一本作るのか、強い脚本があったのと、監督がどこに焦点をあてるかがハッキリしていたから非常にわかりやすかった。そして心理ドラマ、人間ドラマにすることがわかっていたから、俳優にとってはそれが(演じる上で)魅力だった。というのも俳優は、人間関係を掘り下げて演技しいくのだから。監督の焦点が明確だったから、我々全員が納得して撮影ができた。

ここで監督からメッセージが。先程登場したレクター博士は、実はアンソニー・ホプキンスのそっくりさん。来日できなかったアンソニー・ホプキンスから、電話で話した時に監督はメッセージを預かったという。それは、「日本に来れなくて本当に申し訳ない。本当に行きたかった。『ハンニバル』で来日した時、とても素晴らしい時間を過ごしたのでとても残念だ。会見の場では、このシリーズの続編があるのかという関心が皆さんにあると思う。『レッド・ドラゴン2』や『羊たちの沈黙3』や『ハンニバル4』があるのかとね。答えは『ハンニバルV.Sゴジラ』というディノ氏のプロデュースの下で作品が作られるならば、喜んで出演させてもらうよ。」ということであった。





質問:
女性プロデューサーとして働く上での苦労はありますか?
$MAGENTA マーサ:$
20年間、ディノと仕事が出来てとても光栄でした。彼はワンマンショーな人。その中で素晴らしい女性たちと仕事をしてきている。その彼とパートナシップを組んで仕事ができるのはとてもうれしいことなの。意見の衝突があれば話し合うわ。それは相手を尊敬しているからおこる論議なのだから。彼の天才的な才能、そして人生においてのパッションは、素晴らしい映画を作ることの情熱に尽きるわ。
女性としてこの業界で生きることは本当に難しい。ディノと仕事をすることで守られていると思うわ。私はプロデューサーであり、夫婦であり、妻であり、そして家族を持っている。2人の子供をこれからどう育てていくかという母親としての役割が重要になってきているわ。これからはその役割をはたしながら、素晴らしい仕事をしていきたいと思っています。

アンソニー・ホプキンスからのメッセージもあり、またノートンが富士山に登ったり合気道をしていたという、まさにプロフィールにはない情報もあきらかになり、非常に盛り上がった会見となった。監督は手持ちのカメラで隣のノートンや会場に向かってシャッターを切り、手元の紙で鶴を折るなどユニークな一面を覗かせてくれた。製作のラウレンティス夫妻もお互いを信頼して仕事をしてきたことが伺え、映画同様彼らのキャラクターが伝わる会見だったといえる。

執筆者

Mika Saiga

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