日本映画の黄金期を精力的に駆け抜けながらも、妻の死をきっかけにスクリーンから姿を消したかっての大スター三原と、映画に夢を抱く若く純粋な女性小道具係のミオ。現在のスタジオで出あった世代の異なる二人の束の間の交流を通し、映画への想いを描いた中田秀夫監督の『ラストシーン』が、映画ファンの共感と感動を集め公開中だ。11月9日の初日には、撮影所システム末期にキャリアをスタートさせた中田監督と、撮影所システムを今回の作品の中で初めて知ったキャスト陣が来場し、作品への熱い想いを語った。

$navy ☆『ラストシーン』は、テアトル新宿にて11月29日までロードショー公開中!$











 『ラストシーン』の撮影が行われたのは、2年前の夏に遡る。「ようやくこうして公開を迎えられてひじょうに嬉しく思っています。この2年間、ビデオや現像所で10回くらい見て、同じところで我ながらちょっとうるってきてしまって、そういうちょっと恥ずかしい思いをしつつ2年間を過ごしました。」と晴れやかな表情で挨拶した中田監督。その作品は『リング』をはじめ、ホラーのイメージが強いが、例えば劇場用デビュー作となった中篇ホラー『女優霊』も撮影所を舞台にしていたように、ホームグラウンドとしての撮影所への思いは格別なものがある。「僕はこの作品の大半を撮影した日活撮影所に17年前に助監督として入って、色々な仕事をやりましたが、映画の撮影自体がすごく絵になるとずっと思っていて、そういうことをストレートにちゃんとやりたいなと思っていました」(中田)。その間の経験が、今作のヒロインであるミオの揺れる想いとして色濃く出ており、現場ではかなり感情移入しながら撮っていたとか。因みに、中田監督曰くご自身は“女形系”?の演出をする部分があって、そうした面もヒロインへの思い入れに繋がっているとか…
 撮影所システム全盛期のスター・三原を演じたのは、主演作品が立て続けに公開されている西島秀俊。「それ程長い撮影期間ではなかったですが、すごく密度の濃い現場を経験させてもらい楽しかったです」と2年前の撮影現場を振り返る。60年代のスター役は、「衣装さんが当時スターが着ていた衣装を準備し、ヘアメイクさんが髪型も全部やってくださったので、スタッフの皆さんで役をつくってもらった印象が強いですね。60年代の撮影現場の感じを体感させてもらったのは、すごく嬉しかったです」と、劇中同様映画という夢のために、スタッフ一同の共同作業の賜物であったことを強調した。また、初めてのコラボレーションとなった中田監督の印象は、「ご一緒させてもらえることがすごく嬉しくて、監督は演技指導をご自分でやられる方で、すごいんですよ、本当に」(西島)とのこと。
 ヒロイン・ミオ役の麻生久美子も、西島と同じく中田監督とは初顔合わせだが、「すごく芝居をしやすい環境を作ってくださる監督なので、本当に集中してやれました」と、よい関係を持てた現場を振り返る。今回は、映画の裏方である小道具係の役ということで、話をもらってから随分と研究をしてきたそうだ。「この映画に入る前の作品で、小道具さんをずっと見て研究したりしました。実際にやってみると、本当に走り回って大変じゃないですか。本当に凄く長い距離を走って、次の日は筋肉痛になって結構大変でした。この映画を通して、思ったのは、やはりスタッフがそれぞれに色々なお仕事があって、それを皆さん一生懸命やってくれるから映画ができるんだと。そういうことにすごく感動したり、スタッフの側から映画を見るというか、こういう感じで映画は撮られているんだとあらためて思える貴重な経験をさせてもらいました」(麻生)。
 年老いた三原は、ミュージシャンとして活躍しているジョニー吉長が演じている。「監督、こんなド素人を使っていただき、ありがとうございました。生まれて初めて映画に出たんですけど、こんなに楽しいものなんだと思ったので、また出させてください(笑)」。本作では、役作りのため、減量を行い撮影に望んだそうだ。「5・6Kg落としたんですよ。歩くのもしんどくなっちゃって。それで映画に入ると、また1・2Kg落ちて。家にいるとかみさんの飯が上手いから、一人でホテルに入ってご飯は食べずに朝から酒を飲んでたら、アルコール依存症になっちゃって、困ったこれ治るのかなと(笑)」(ジョニー)。また、三原が激しく咳き込む場面の撮影は、実は30分くらいにわたって繰り返し撮られたもので、実は翌日にあった本業のライブで声が出なかった…などと言うこぼれ話も披露された。その迫真の演技は、劇場で要チェックだ。
 最後に、4名からのメッセージを紹介しよう。
 「このようなストレートなヒューマン・ドラマを作って行きたいと思っております」(中田)。
 「映画好きな人は勿論、そうでない人も感動する作品だと思います」(西島)。
 「私はすごく映画が好きでこの仕事をしているので、この作品に関われたことがすごく幸せです。感動する作品に仕上がりましたし、沢山の人に観てもらいたいです」(麻生)。
 「僕は後にも先にも、映画はこれ1本きりかもしれませんので、今のうちにジョニーを見とけよと言っておいてください」(ジョニー)。

執筆者

宮田晴夫

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