「素顔の観月ありさが、明るいんだけど何処かで耐えなくてはならないキャラにあうかなと」『ぼくんち』完成披露試写会舞台挨拶!
西原理恵子原作のベストセラー・コミック『ぼくんち』が、実写版作品として映像化された。うらぶれた町を舞台に、貧しくもたくましく生きる兄弟、一太と二太、ふたりを包み込む強く明るい姉・かの子を中心に、一家をとりまく実にいい顔をした町の駄目人間たちとのふれあいを、あたたかくてちょっぴり切ない物語として映像化したのは、金大中拉致事件を描いた『KT』も記憶に新しい阪本順治監督。11月6日、完成間もない本作の完成披露試写会が銀座ガスホールにて開催され、阪本監督とかの子役の観月ありさが舞台挨拶を行った。
$navy 『ぼくんち』は、11月14日から開催された第7回釜山国際映画祭に正式出品。その後、2003年陽春にシネスイッチ銀座、関内アカデミーにて、ロードショー公開予定!$
ハードで骨太な『KT』から、あたたかく切ない『ぼくんち』へと、振幅の幅が著しい作品に続けざまに取り組んだ阪本監督は、「『KT』の仕上げが終わってすぐにかかったものだから、金大中から観月ありさに変わる頭の切り替えが大変で、結構混乱しつつやったんですけど、一言で言って非常に変な映画になりました(笑)」とコメント。幅の広いジャンルの作品を撮り続けているのは事実だが、それにしてもコミックの映画化とは異色な印象がする。「あまり原作ものはやらないし、ましてやマンガの原作はやったことがなかったんですが、マンガ自体が面白かったし、同時に映画化するのは難しいと思いましたね。映画化に当っては、各話読みきりのマンガなので、変に整理するより、読みきりらしさを残し、逆にスムーズに話を進めない方がいいのかと、考えてやりました。それにあのマンガの顔をしてる人はいないですから(笑)、映画は映画の世界観を作らなければいけないので、そういう意味では僕の世界観の中に両足をつっこんで欲しいということでしかないので」。マンガの世界観に捕らわれず、独自のものを構築するという方向性を取った阪本監督だが、結果活き活きとしたキャラクター描写により、かなり原作のムードも再現していると言えそうだ。
ヒロインを務めた観月とは、6年前に携帯電話のCMを1年間、27本一緒に撮って以来の付き合い。「年末の誕生パーティに僕が参加し、ブラウン管の彼女ではなく控室の彼女であったり、我慢をしている様を見ているうちに、この映画の明るいんだけど何処かで耐えなくてはならないキャラにあうかなと。ただ本人はやってくれず、事務所もノーかなと思ったんですけど、去年の暮れの誕生日パーティで25になって変わりたいと言うコメントをしていたので、駄目元でオファーしてみました。1種の汚れ役ですからね。そうしたら、本人も事務所もOKをいただけたんですよ」(阪本)。
そんな阪本監督からのラヴ・コールを受けた観月は、「監督とご一緒したのは10代の時。その時とは違う役柄で、自分自身挑戦するような役でもあります。西原さんの原作を読みこのキャラをどのように演じようかとか、人間が実写で演じるとどうなるかとか不安はありましたが、監督から信じてついてきてくれと言われて、ついていく気になりました。なので現場では、何も考えずに色々なものを取り払って、初心に帰ったような気持ちの撮影でしたので、すごく心地よい現場でした。ついていってよかったと思ってます」と撮影を振り返る。
今回は母性をも表現する二人の少年の姉役で、新境地を見せている。原作同様、かなりきわどい台詞も出てくるが、それがまた自然で耳に心地よい。初めてだった方言による台詞は、事前に吹き込んでもらったテープを聞き、イントネーションを習得していった。勿論、子供達との本格的な共演も、今回が初めて。「1ヶ月間の撮影のうちにドンドン成長していって、お芝居も上手くなっていくし、一太と二太になっていったんで、私自身自然に一緒にいられる感じでしたね。苦労した点は怒るシーンでは、本当に怒られているのかと思って、現場で泣いちゃうんです。そういう時はしばらく撮影が出来なくなるので、一緒にトランプをして遊んだりして、ご機嫌が直ったところで撮影再会みたいな感じで、可愛かったですよ」(観月)。阪本監督はそんな観月に関して「彼女も6歳くらいからこの世界にいるので、子供が演じる気持ちって判ると思うんです」とコメント。現場でもまさに、かの子そのままの存在だった観月だが、将来の自分に生まれてくるであろう子供について訊ねられると「のびのびと育ってもらえればと。私もそういう風に育てられましたので」と笑顔で答えた。そんな彼女が見せる母性のイメージを、劇場で味わって欲しい。
執筆者
宮田晴夫