「僕も貴方と同じで強い女性が大好きなんですよ(笑)」。今年のゆうばりファンタのクロージング・セレモニーでは、審査員長をつとめたヤン・ハーラン氏からの、共感交じりのコメントで祝福されたヤング・ファンタスティック・グランプリ受賞作品『猟奇的な彼女』が、2003年新春より待望のロードショー公開が決定した。
 韓国の若いネチズンから圧倒的な支持を集めたインターネット小説を原作に、見かけは超美人だけどエキセントリックな“彼女”と、良く言えば誠実でナイーヴ…だけどドンくさいキョヌの関係を、瑞々しく映像化したのは本作が8年ぶりの新作となったクァク・ジェヨン監督。ゆうばりについで再度来日したクァク監督を囲んで、ネット媒体合同インタビューが過日行われた。浅黒い肌をしたごくごく普通の中年のオジサンといった感じのクァク監督は、悪戯っぽさと温かさが同居した瞳をサングラス越しにのぞかせながら、原作を自由に膨らませた今回の映画作りのように、質問の一つ一つに対し様々なエピソードを付け加えつつ、誠実に答えてくれた。

$navy ☆『猟奇的な彼女』は、2003年新春よりシャンテシネ、シネマスクエアとうきゅうにてロードショー公開!$






Q.原作はネットで発信された原作者の自伝的小説ですが、原作に最初にふれられた時の印象や、映画化しようと思ったきっかけに関してお聞かせください。
——私はインターネットに発信されたものをみたわけではなく、それが本として纏められたものでみたのですが、ハングル文字の正書法によらずネットのチャッティング語法による少し崩した表現が新鮮でした。また、ヒロインのキャラクターがとても面白いとおもいましたね。映画にする場合は、言葉の部分を活字で見るわけではないので、そのまま使うわけにはいきませんから、いかにして映像に置き換え視覚的に表現していくかという部分を考えながら脚色をしていきました。
元々脚色の依頼を受けたというのが本作のきっかけで、映像への置き換えはやってみると大変でしたが、実際5日間で書上げました。いざ始めるとのってきて、どんどんアイデアが浮かんできたんですよ。製作元からの脚色の依頼だったのが、その後監督もという話に変わっていったのですが、その時には様々なアイデアが浮かんでいましたからすんなりできましたね。

Q.キム・ホシク氏の原作から監督が御自身で膨らませていった部分がかなり大きいそうですが、原作者との調整等はいかがでしたか?またその過程で、監督が特に重点をおかれたのはどこでしょうか?
——実は原作者とお会いしたのは映画の公開後のことなんですよ。勿論、脚色の段階で会おうと思えば会える環境ではあったのですが、会ってしまうと原作に忠実にしなくてはならないかな…というのがありましたので。私としては、原作に忠実に脚色するよりも、全く違うものとして捉えて映画化したいと思ってましたので。
主に私の方で追加した部分というのは、小説と同じエピソードでもそのままではなくそこにいくつかの要素を加えて描くようにし、また元々原作には無かった延長戦の部分を付け加えました。また原作では、二人が別れる理由は曖昧なままなのですが、映画では一度別れてしまう理由として彼女が抱える内面的な要素を書き加えました。最後がハッピー・エンドになるのも、映画のオリジナルです。映画が完成後、ネットに原作者が書かれた文章があったのですが、そこでは「原作よりシナリオの方が面白いですよ(^^)」と言ってくださいましたよ。








Q.主人公二人がとても活き活きとしていたのが印象的でした。お二人はアンケートで決められたそうですが、それはどのような経緯だったのでしょうか。また劇中、チョン・ジヒョンさんのダンス・シーンが素晴らしかったですが、これは彼女を有名にしたダンスをするCMを念頭に撮られたのでしょうか?
——正確にはアンケートにより最終決定したわけではなく、アンケートもやってみたという感じです。キャスティングの時にアンケートの結果に左右されたというわけではないのですが、結果的にアンケートも一致したということです。ただ、誰もが“彼女”にはチョン・ジヒョンしかいないと思いながらも、彼女のこれまでの作品がが、興行的にはあまり当っていなかったこともありまして、果たして出来るのだろうかという心配を撮影前には抱えてましたね。でも彼女にして正解でした。
おっしゃるとおり彼女を有名にしたのは、プリンターのCMでのセクシーなダンスで、確かにその点は私の頭の中にもありましたよ。それで、彼女のダンスの場面を作中に不自然でなく入れたいと考え、制服を着る年齢ではないんですけど敢えて制服を着るというちょっと反抗的な側面を見せつつ、クラブで踊ったらどうかなってね。
あのダンス場面はエキストラも多く、音楽がガンガン響いてましたから、スタートの声がとどく状況じゃなかったんです。それで、実は未だ準備をしている段階で、彼女が一心不乱に踊りまくってしまい誰も止められなくなっちゃったんですよ。音楽がやんだら、もう倒れそうなくらいにヘトヘトになっていて、カメラが回っていなかったことをどうやって伝えようかって…。誰も言い出せなくて、仕方が無いから私が彼女に近づいていって、彼女を扇いであげながら「実は…」と。もう、がっくりしてしまってね。だから、実はその1回目の踊りの方が、さらによかったんですよ(笑)。

Q.主人公の二人が特に前半戦では両極端に描かれていて、こんな子いるの?って感じもありますが、演じている二人の素顔はいかがですか?
——チャン・ジヒョンは、実物もこの映画のキャラクターにとても似ていると思ってもらっていいでしょう。ファンも多いですが、ファンに囲まれるとその状況を楽しんでしまうタイプで、車に乗っていてもわざわざその車の上に立ってファンにアピールしてくれる。チョン・テヒョンは非常にシャイで、普段は落ち着いた印象の方ですね。でもいざ演技をしてもらうと、エネルギーを一気に発揮するんです。

Q.山の斜面にあって、二人がその下にタイムカプセルを埋める1本の木をロングで捉えたショットが美しかったですが、イメージどおりのロケーションには御苦労されましたか?また、彼女の家の前での雨の場面は、どのように撮影されたのですか?
——線路から見えて木が立っているという設定でしたので、あの丘を探すのは本当に大変で、私は韓国内のほぼ全ての鉄道路線にのることになりましたよ。ようやく見つけたあの場所は、チョンソンという昔炭鉱村だったところにあります。列車に乗っていて木を見つけたんですが、途中じゃ降りられないから一度行き過ぎてまた戻りましたよ(笑)。あそこは実は大根の畑だったのですが、あの木だけは形がよかったので切らずに残されていたもので、出会えて本当に幸運でした。今は『猟奇的な彼女』撮影現場巡礼コースの一つになっていて、撮影用に植えた芝生がそのまま育っているんですけど、訪ねたファンがそこにタイムカプセルを埋めるようになっているようで、ゴロゴロと埋まってるようですよ(笑)。
雨の場面は降雨機を使っています。昔「雨の降る日の水彩画」という作品を撮った頃は、自分でホースを使って撒かなければならなかったのですが、今は広範囲をカバーできる棒から量も調整可能な水が落ちてくる機械に進歩しています。現在「クラシック」という作品でも女性が住んでいるのは、階段があって家屋が建っていて、そうしたところに雨が降っているシチュエーションが自分でも好きなのかなと思います。
私のデビュー作でもある「雨の降る日の水彩画」という作品は、主題歌がとても有名になり今でもカラオケで多くの方に歌われている人気のある歌なんですが、チョン・ジヒョンもその歌を知っていて、今回家に入っていく場面で彼女はそれを思い出したらしく、「監督、これから「雨の降る日の水彩画」を撮るんですね」と冗談を言いながら、その歌を口ずさんで階段を上っていったんですよ。








Q.劇中のカップルは女性主導で男の子が女の子に振り回されるカップルだと思いますが、今の日本もそうだと思いますが韓国での若者の恋愛事情はどうなのでしょうか?また、監督の世代からみたそういう恋愛事情は、どう思いますか?
——韓国でもそうした傾向は強くなってますね。どこも同じようなものでしょうね。私はあまり世代とかに拘るほうではないのですが、今の若い人たちは随分と変わってきている印象は受けますね。だから今の人たちは、こういう映画を観ても珍しいという印象は然程無く、共感を覚える部分のほうが強いかもしれません。だからといって、世代が上の方々がこの作品を理解できないと言うのではなくて、抑圧されてきた世代の方々にとっては抑圧を解消させてくれる映画だと思うようです。

Q.キム・イルさんが、ラブ・ホテルの主人をはじめ全く違ういくつものキャラクターとして、しれっと出てくるのが可笑しかったですが、あれはどういったことから思いつかれたのでしょうか?
——実はこの役は、元々私の友人で、しばらく映画を休んでいた俳優のイ・ギョンヨンが、私の監督作なら特別出演で5つくらいの場面で出して欲しいということで考えたもので、ただ今回の作品では主人公の二人以外同じ人が5シーン出る役がなかったんです。それで、5つの場面で彼に5回演ってもらおうと思ったんです。ところが撮影が始まったら、イ・ギョンヨン自身が監督・主演する作品に取り掛からなくてはならなくなり、彼には頼めなくなってキム・イルにお願いすることになりました。
彼も楽しんで演じてくれたし、撮っている私達も楽しんで撮影ができましたね。私は最初に絵コンテを全て描いてから撮影に臨むのですが、絵コンテも同じ顔で描き、服装も決めてあったのでその通りにやりました。コンテは詳細に描く方なんですが、キョヌが留置場に入れられている場面で、寝転がっていた彼が起きると服にガムがついている場面は、ほんのお遊びのつもりでガムを描いてみただけなんだけど、演出部ではわざわざガムを用意してくれたんで、折角だからとその通りに撮りました。それは小道具に関しても言えて、キョヌが花束を持っていく岡持には“中華人民料理”と書いてありますが、あれもコンテにシャレで描いた物を小道具さんが「絵コンテに描いてあるから」と忠実に書いてくれたんです。また、コンテではその中華屋の主人の顔を毛沢東に似せて描いたら、助監督が真剣な顔でやってきて「毛沢東に似た人は見つからなかったんですが、キム・ジョンイルに似てる人でもいいでしょうか」ってね(笑)。

執筆者

宮田晴夫

関連記事&リンク

作品紹介