フリーターの青年「里中高志」と彼が想いを寄せる元看護婦の「信長珪」そして、高志に取り憑き、自分の想いを遂げようとする幽霊の老人「藤原富士郎」。浅草にあるシニア向け高級マンションを舞台に、彼らとユニークな住人たちが繰り広げるファンタスティック・コメディ映画『福耳−FUKUMIMI−』の製作記者会見が、東映撮影所で10月7日に行われた。




製作記者会見には、岡田裕プロデューサー、高橋 洋プロデューサー、この映画が劇場用映画として初監督作品になる瀧川治水監督らスタッフと、同じく初の主演映画に挑戦する宮藤官九郎、朝の連続テレビ小説『さくら』で主演した高野志穂、ベテランの田中邦衛、司葉子、宝田明ら出演俳優ほかが出席。今も撮影が進行中というホットな雰囲気の中、それぞれが、高齢者たちの豊かな生き方を示唆するとともに、若者たちそして高齢者同士の恋愛模様も描く人情喜劇性のある娯楽映画について、意気込みなどを語った。

また、この映画には彼らのほか、千石規子、多々良純、谷啓、坂上二郎、弓恵子、横山通乃ら、日本映画を代表する名優たちが出演。製作記者会見の後、主な舞台の一つ「喫茶室 タイムマシン」のセットの前で、出演俳優によるマスコミ撮影も行われた。

今回は、製作記者会見時のコメントの一部を紹介する。



■コメント
岡田裕(プロデューサー)
この映画は、浅草に設定したあるシニアマンションが舞台で、そこで死んでしまった幽霊の老人藤原富士郎が、フリーターの青年・里中高志に取り憑くところから始まります。

富士郎は神崎千鳥に、高志はシニアマンションで働く元看護婦の信長珪に想いを寄せていて、この二つのカップルの物語です。ほかにも個性的なキャラクターたちが登場し、彼らにちょっかいを出したりするコメディ作品で、コメディを通じて、老人や若者それぞれの生き方や係わり合いを描いていきたいと思います。富士郎と高志の駆け合い漫才のようなシーンが面白いですね。

高橋 洋(プロデューサー)
この作品は、お年寄りの方の「老後の暮らし方」について、一つの提案になっています。一人で暮らすことより、マンションでみんなと暮らすことによりいろいろな人生の再スタートができる…「楽しい老後を過ごしましょう」というものですね。

また若い方には、高齢者の経験や知恵に耳を傾けることは、自らの仕事や恋愛に役に立つことがあって、「身の回りにいる高齢者の方たちにもっと耳を傾けてほしい」という思いも込めて映画を作っています。

年齢を問わず楽しめる内容になっているので、家族と一緒にご鑑賞してほしいと思います。


瀧川治水(監督)
この映画は、幽霊が若い男の子の体に取り憑きます。でも、ホラーではなくファンタジー作品です。「お年寄りの経験豊かな叡智と若い体が合わさったら、どんな風になるんだろう?」ということで、この面白いキャラクターを創造しました。

見どころは、鏡を使ったシーンで、青年が現実で老人が鏡の中に映るという設定になっているんです。このニ面性を鏡を使って表現しています。CGや合成は一部で使いますが、ほとんどがローテクニックで(笑)、素のガラスのセットを作りその両側で、田中邦衛さんと宮藤官九郎さんが、合わせて同じ動きをしてもらっています。

そういう風に、若い人とお年寄りが共鳴していくところがメインになるので、そこを楽しみに見てほしいと思います。

ニ面性という意味では、元文部省の役人でそれまで圧迫されていた環境から開放され、シニアマンションに住んでからはオカマになってしまう井上五郎役に宝田明さんをお願いしました。そういうキャラクターのニ面性も描いています。

また、ファンタジー作品であると同時に、ラブストーリーでもあるのでそこも見どころですね。




田中邦衛(藤原富士郎 役)
藤原富士郎は幽霊ながら、宮藤官九郎くんが演じる里中高志に取り憑き、いろいろなことをします。思えば、東宝作品のワル役で演じていたときに、スターの司葉子さんの姿を小さくなって見ていたことを思い出しました。

宮藤くんとはいい出会いで、富士郎の台詞に「ありがとう」というものがあるんですけど、彼には「出会えてありがとう」と言いたい気持ですね。

宮藤官九郎(里中高志 役)
本格的な映画出演は初めてで、最初はどうしようかと思っていました。でも、田中邦衛さんほかベテランの共演者のみなさんに支えられて、とても勉強になっています。健康に注意して、最後まで撮影をがんばります!

高野志穂(信長珪 役)
この作品は、『さくら』が終わった後は、女優として初めての仕事です。ベテランの方々に囲まれながら、楽しんでやらせていただいています。信長珪という役は、とても芯がしっかりしていて、仕事に誇りを持つ「凛」としたところがあるキャラクターなので、それが大きなスクリーンでも表現できればいいなと思います。



司葉子(神崎千鳥 役)
十数年ぶりの映画出演で、スタジオに入ったときにとても懐かしい気がしました。映画がデビューなので、我が家に帰ってきた感じですね。若いスタッフや共演者の感性を、大いに吸収したいと思います。

宝田明(井上五郎 役)
江戸時代に隠れキリシタンが身分を明かさず生きてきたように、オカマの世界も以前には暗い時代がありました。でも、ようやく少数派といいながら市民権を得てきて、本来の地に戻ることになりました(笑)。

過去、こういう役は舞台で演じたこともあります。今回は全く初めての取り組みではないので、役には入りやすかったですね。ただ注意したところは、シニアマンションという場所で健常者の中に入っていくというところから、派手すぎる衣裳などで場を乱しすぎてはいけないなというところですね。

最近は、比較的早い年齢からシニアマンションに入られる方も多いようで、ロケの時に話を聞いたら、私よりも6歳、7歳も若い方がいるのも現実のようです。これからますます高齢化社会に向かっていき、こういう方たちも多くなっていくと思います。私もいずれはお世話になるんだろうと思いますし、この映画を通じて社会勉強をさせていただきました。

執筆者

TAISUKE SAITOU