秘密の晩餐会へのご招待——ヌーベルキュイジーヌからセックス、殺人、イタリアンマフィアにウォール街のビジネスマンまで、息つく暇のないくらいスリリングな料理のフルコース、それが映画「ディナーラッシュ」のメニューである。主演はダニー・アイエロ、監督は本作が14年ぶりの劇場長編となるボブ・ジラルディ。日本での公開間際に来日したジラルディ監督は「死ぬ前にはあさりのホワイトソースのスパゲティを!!」と言うほどのイタリアン好き。アメリカのCM業界で知らぬ者がいないくらいの映像クリエイターは11のレストランを経営する実業家でもある。「ディナーラッシュ」はこのうちの1つ、NYに実在するイタリアンレストラン「ジジーノ」で21日間かけて撮影した。ハリウッド嫌いの噂は事実だったようで「ハリウッドはアメリカの恥」とまで言い切る。一方で、「私は自分の知っている場所、NYで映画を撮りたかった」と語る時の監督のまなざしは限りなく優しいのであった。

※「ディナーラッシュ」は9月14日、シネスイッチ銀座、横浜・関内アカデミーでロードショー!!




——レストランを舞台にするという着想はいつ頃、思いついたのでしょうか?
 かなり前、知り合いの脚本家が本を送ってくれた。それはシカゴにあるレストランの話だったけれど、読んでみてこれでは撮れないと思った。自分の知っている街で撮りたいと思った。それがNY、トライベッカだったんだよ。

——劇中のレストランは、監督が実際に経営するお店だとか。
今、11のレストランを経営している。フレンチもあるし、タイ料理もある、ラテン系のレストランもある、そして、イタリアンはそのうち、2つあるんだ。撮影に使った「ジジーノ」は私の家から一番近いお店でもある。妻は料理上手ではないので(笑)、よく食べに行くよ。劇中でダニー・アイエロが座っていた席は、実は私の席なんだ(笑)。週に2、3回はあの席に座ってイタリアンを食べている。

——ダニー・アイエロが演じたルイスというキャラクターはあなたに近いところがある?
彼そのものだよ(笑)。なんて言うと、2人の脚本家には「そんなことはない」と反論されるかもしれないが・・・。実際のところ、脚本を書いている時からルイス役はダニー・アイエロを念頭に置いていた。ダニー・アイエロという俳優は半分はギャンブラーだし、同時に伝統や保守性重んじる人物でもある。彼こそルイスそのもので、演技などは必要なかった。
ダニーが決まった時点であとのキャスティングは楽になったね。ダニー・アイエロと共演したいと思う俳優はNYにたくさんいる。サマー・フェニックスにしろ、ヴィヴィアン・ウーにしろ皆そうだよ。







——撮影はほぼ脚本とおりに?
そうだな、ほとんど脚本通りに進んだが1シーンだけ即興でやってもらったところがあった。ジョン・コルベット演じるケンという青年が女性を口説くシーンがあるだろう。口説き文句というのは、どうしてもうまく書けないものなんだよ。それで、私はシチュエーションだけ話し、2人にこう言った。「4テイク回すからその間、好きにやってくれ」ってね。これはジョンより相手役の女性の方が積極的だったね。なかなか、面白かったよ。
それともうひとつ。これは即興という意味とはちょっと違うかもしれないが、嫌味な画商を演じたマーク・マーゴリスに、ある時、演技のアドバイスをしてくれと言われたんだ。私はこう答えた。「そのままでいい、君は演技なんかしなくていい。普段のままで十分、いやらしい感じが出てるよ」ってね(笑)。

——劇中に料理評論家が登場しますが、料理評論家と映画評論家、どちらがより辛い人種ですか?
 両方ともやな奴だ(笑)!!しかし、残念ながら必要な人間でもある。

——アメリカでの公開後、「ジジーノ」に来る客層は変わりましたか?
 たとえば、「ダニー・アイエロの座った椅子はどこ?」と聞いてくる客は増えたね。レストランに来ているというより、映画のツアーみたいなもんだよ(笑)。興味を示すところが年代で分かれるようだね。若い層は「ジョン・コルベットの座った椅子はどこ?」と聞いてくる。一方、年輩の客は「殺人のあったトイレはどこ?」って聞いてくるんだよ。

——「ディナーラッシュ」は14年ぶりの長編映画です。ハリウッドで撮ることはどうしても避けたかったんですか?
 ハリウッドはゴミ溜めみたいなところだよ。両親から離れ、セックスとドラッグ目当てで行くサマーキャンプみたいなものさ。けれど、しばらくすると落ち着いた自分の家に帰りたくなる。そんなところだよ。仕事の進め方も何もかも非常に悪趣味だし、不公平でもある。アメリカの一部だっていうのが恥だとすら思うね。
 もちろん、ハリウッドから素晴らしい名作が生まれてきたことも否定するつもりはない。だけど、ハリウッドにひれ伏してまで仕事をもらうような必要はまったくないと思うね。

執筆者

寺島まりこ

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