前作「メメント」の大ヒットで一躍時の人となったクリストファー・ノーラン監督。さる8月7日には「インソムニア」をひっさげ、二度目の来日を果たした。製作はスティーヴン・ソダーバーグにジョージ・クルーニー、出演はといえばアル・パチーノ、ロビン・ウィリアムズ、ヒラリー・スワンクの3大アカデミー俳優とくる。だが、企画そのものは「メメント」以前、撮影に入ったのも「メメント」の公開中。「だからこそ、逆にプレッシャーが少なく、ラッキーだったと思う」とは本人の談。東京・銀座のホテル西洋で行われた記者会見をレポートする。
 
※「インソムニア」は丸の内ピカデリー1ほかで9月ロードショー!!









ーー本作は97年に発表されたノルウェー映画のリメイクということですが。
 ビデオで見て面白い話だと思った。パラドックスシチュエーションの物語でちょっと切り口を変えたらもっと良くなるんじゃないかってね。というのも、オリジナルは主人公をもっと冷たく描いていた。観客が疎外感を感じるような印象があったんだ。こんなことを思ったのは「メメント」を撮る以前の話だよ。この時点でリメイクの権利を持っている会社があって、その後に脚本を読ませてもらった。この脚本がすごく良かった。50年代のコップ映画をほうふつとさせるような、まさに僕が求めていたものだったんだ。ちょうど製作に携わっていたスティーヴン・ソダーバーグが公開される前の「メメント」を見てくれてね。監督に僕を推薦してくれたんだ。

 ーー三人のアカデミー賞俳優を起用されていますが。
  一番のポイントは主人公を誰にするかだった。リメイクということもあるしね。その点、アル・パチーノはパーフェクトだった。とはいっても、この伝説の人物に会うのは始めは怖かったよ。けれど彼自身が僕が萎縮してくるだろうということを察してくれいて、フランクに接してくれたんだ。
 そして、犯人役には彼に拮抗するバランスが必要だと感じた。だからこそ、ロビン・ウィリアムズを選んだんだ。パチーノとパートナーを組む若い女刑事は、それこそーーハリウッド中の若い女優に会ったよ。パチーノと共演したがらない女優なんていないからね。けれど、この役はパチーノ演じるベテラン刑事に憧れているだけでなく、後には彼の脅威となる存在感が必要だった。ナィーブで知性が透けてみえるような女優が欲しかった。ヒラリー・スワンクを選んだのはこうした理由からだった。

 ーーこれだけの俳優を使うことにプレッシャーを感じたりは?
もちろん、緊張はしたよ。だけどあれほどのプロとなると、俳優が何をなすべきなのか、きちんとわかっているものなんだ。役へのアプローチはそれぞれ違うけれど、彼らには共通点があった。台詞のやり取りをエネルギーの交換だと本能的に察知しているんだ。アル・パチーノとロビン・ウィリアムズが密会するシーンはその代表で、あれは1テイクしか撮らなかった。本物のプロというのは、台詞を言い自分のエネルギーを出す、そうして互いの呼吸を読み取っていくことにものすごく長けているものなんだよ。

ーーハードなシーンはスタントなしで?
 丸太の上を歩いたり、水中に落ちたり、できれば本人にやってもらいたかった。アル・パチーノもロビン・ウィリアムズもこれを了承してくれたよ。余りに危険なことはできないので編集で処理したり、カット割りを工夫したりね。安全第一、危険第二の撮影だった。





ーー「メメント」もそうでしたが、カットバックのスタイルが多いですよね。ニコラス・ローグの影響だと聞きましたが。
  編集作業において、ニコラス・ローグに影響を受けていない監督はいないんじゃないかな。イメージとイメージをつなげることで新しい物語を広げてくれる。例えば、パチーノのまばたき一つで何を考えているか表すことも出来る。

 ーージョージ・クルーニーも製作に携わっていますが、彼とはどんな話をしましたか?
 クルーニーもソダーバーグも現場には来なかったよ。なにしろ、「オーシャンズ11」の撮影で2人とも忙しい時期だったから。編集はクルーニーに見てもらったけど、現場にいなかったことが却って良かったね。なにしろ、新鮮な目で見ることができるわけだから。役立つアドバイスをいろいろもらったよ。

 ーーあなたは不眠症になったことがありますか。
 慢性的なものはないけれど、編集最中に第一子が生まれて一ヶ月くらい眠れないことがあった。その時に眠れなかったことをイメージして音入れをしたよ。
 アル・パチーノもかつて不眠症だったことがあったらしいね。ああいう高揚感はわかるといって引き受けてくれたから。

執筆者

寺島まりこ

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