SF文学の原典的傑作H・G・ウェルズの『タイムマシン』が、原作者の曾孫でありこれまでもイマジネーション溢れるアニメーション作品を中心に活躍してきたサイモン・ウェルズ監督の実写初監督作品として完成。同原作は、60年に製作されたジョージ・パル監督作品『80万年後の世界へ/タイム・マシン』に続く二度目の映画化となるが、原作や最初の映画化作品に敬意を表した上で様々な新たなアイデアを盛り込んだ、SF映画を日常のものとして享受してきた世代による作品らしい新たなアドベンチャーに仕上がった。
 本作の日本公開を目前にした7月15日、サイモン・ウェルズ監督がキャンペーンのために来日を果たし、ホテル西洋銀座にて記者会見が開催された。スラットした長身に、好奇心に満ちた細面の顔立ちが、実年齢以上に若々しい(勿論、実年齢だって充分に若いのだが)印象をふりまくウェルズ監督が、原作やイメージの源泉等について語った会見の模様をお伝えしよう。

$navy ☆『タイムマシン』は、丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にてロードショー公開中!$









Q.『タイムマシン』の監督を引き受けた時の心境をお聞かせください。
——今回は、Wのプレッシャーでした。私自身、本作が初の実写版監督作品でありVFXを大量に駆使しハリウッド・メジャーが製作に絡むかなりの大作です。そして同時に、自分の曽祖父というファミリーの伝統を背負ってます。失敗したらハリウッドのみならず、家族にもそっぽを向かれるのではないかとね。完成して、とりあえず皆話してくれてますが(笑)。

Q.完成作を見たらH・G・ウェルズさんは、どう感じられると思いますか?
——本当に驚くでしょうね。まず百年以上前に書かれた本が映画化されるということ自体に驚くでしょうし、彼が想像によって描いた世界がヴィジュアルとして見える事実に驚愕するでしょう。原作が出版された年は、リュミエール兄弟が映画を発表する前年ですしね。それだけでも、素晴らしいことです。

Q.原作に忠実にアプローチしたのでしょうか。また、貴方がタイムトラベルできるとしたら、何時の時代に行きたいですか?
——原作とはかなり違っている部分があります。原作は力強いスタートを切りますが、後半はモーロックとイーロイの関係を通し労働者階級と上流階級の対比や社会批判が語られます。曽祖父は初期の労働運動にも深く関わっておりましたので、かなり政治的な色が濃いのですが、我々はそこではなくハウエル教授が何故運命を変えられないのかの追求に変えて行きました。
もし、本当にタイム・トラベルが可狽セったら、自分自身の未来を知りうるということはとても恐ろしいことだと思います。でも、過去に戻り曽祖父がいかにしてこの小説を書いたかということは知りたいと思いますね。

Q.主要キャストを決定した経緯を教えてください。
——アレクサンダー教授役のキャスティングはひじょうに難航しました。物語の後半ではヒーローとしてアクションを見せますが、前半では科学者としての部分で研究に没頭し知性があり、本当にタイムマシンを発明するような人物に見えなくてはなりません。そういうタイプに見える役者というと限られてきてしまいます。そして知性を感じさせアクションが演じられるという数少ない人選の中からガイ・ピアースを選んだわけですが、彼もこの役に強い興味を持っていてくれたんです。
ジェレミー・アイアンズに関しては、究極の悪役が実際に逢って見ると意外な人物であったという人選にしたかったんです。地獄の底で対面したモーロックのリーダーでありながら、実は怪物よりも人間に近い人物であり、また知的でなくてはならない。彼もクラシカルな演技を学んできた人ですし、権力や力を感じさせる役者です。
でも、実は一番大変だったのは二人の女優だったんです。フィアンセであるエマは、スクリーンに登場してから5分ほどで死んでしまう。しかしその5分間で、主人公が彼女を思うあまりタイムトラベルに及ぶことを信じられなくてはならないんです。ですから、50人あまりの女優にオーディションを行い、シエナ・ギロリーを見つけたんです。マーラに関しましては、イーロイ族というのはニューヨークに住む全ての人種がかけ合わさったような国籍不明な人を求めていました。しかし、なかなか見つからず、撮影スタートから2週間ほど経った頃にキャスティング・ディレクターがサマンサ・マンバを見つけてきたんです。欧州で人気のポップ・スターだと聞いたときには、「ブリトニー・スピアーズみたいな娘だったらどうしよう?」と思ったんですが、脚本読みを行った時には皆が彼女に恋をしてましたよ。









Q.CG映像が素晴らしかったですね
——今回のCGでは、今まで使われたことの無い技術が使われています。時間の経過を描く部分では、出来るだけ自由にカメラを動かしながら見せていきたかったんです。これは大きなチャレンジでした。タイムマシンの周りで地殻変化が起きていくのも、画期的です。これらは、デジタル・ドメインが開発したソフトによるものです。

Q.モーロック人の襲撃場面が大迫力でしたが、あの場面に関してのエピソードやキャラクターについてお聞かせください。
——実はモーロックによるイーロイ狩の場面こそ、我々がこの映画のために最初に計画したものなんです。私が絵コンテをおこして、それでワーナーを説得したシークエンスなんですよ。
実は私の両親は生物学者でそうしたものを考える家系がありまして、モーロックはできるだけ人間に近くなおかついじられたデザインにはしたかったんです。最初に私がデザイン画を起こし、それをスタン・ウェンストン工房で模型を作り、最終的には顔の部分はアニマトロニクスで動かすスーツで撮影を行ったんです。目がこんなところにあるデザインですから、スーツ・アクターは前が見えない中で演技やアクションを行う大変な状況でした。撮影の大半は、2班監督のグレッグ・マイケルが行っていましたが、あれだけ恐ろしく見えたのは彼の技術と役者の演技の賜物です。

Q.80万年後の世界のアイデアはどこから得ましたか。また、人類は80万年後に実際どのようになってると思いますか。
——80万年後という数字は原作からとったものです。モーロックがイーロイを襲ってから砂に潜る撮影、は特殊効果チームが油圧により上下する板の上に砂をまいた装置を作り蟻地獄のような場面を撮ったんです。
イーロイは文化や知識を持っている種族であると捉えたかったんです。彼らを観た観客が、彼らは救われるべきだと思えるようにね。60年のジョージ・パル版『タイムマシン』のイーロイは、皆金髪、碧眼で脳が無さそうな殺されちゃってもしょうがない…って感じを受けたので、それは避けたかったんです。イーロイの棲家も、最初は美しい村にドーム型の住居というデザインでしたが、スティーブン・スピルバーグに見せたところ「とても綺麗だね。でも皆どこかで見たことがある。観たことの無いアイデアをだそうよ」って言われてね。彼はクレイジーなアイデアを出すことで有名だけど、「モーロックは地下に棲んでいるわけだから、イーロイの棲家は地面からなるべく離れたカゴの中に棲んでるようなイメージはどうかな」って。それをプロダクション・デザイナーのオリバー・ショールが持ち帰り、ツバメの巣のようなイメージを描いたんです。

Q.ジョージ・パル版の話が出ましたが、パル版にはどのような思いを抱いてますか?
——パル版の『タイム・マシン』は、私も含め本作のスタッフに熱心な支持者が多いです。そういったことから、ある意味で影響は受けていると思いますし、オマージュを捧げる意味で、マシンの椅子が床屋の椅子なのはパル版を踏襲してますし、パル版に出演していたアラン・ヤングがカメオ出演してます。ただ主役のガイ・ピアースが、パル版の主役であるロッド・テイラーと同じオーストラリア人だったのは、全くの偶然です。









Q.ジョージ・パルの影響について言及されましたが、監督自身が影響を受けた監督や映画はなんでしょう?
——影響を受けたと言う点でまず名前をあげなくてはならないのは、スティーブン・スピルバーグです。彼は私の世代にとっては、多かれ少なかれ影響を受けています。あと、私にとってヒーローであるのはロバート・ゼメキスです。彼の作品には『ロジャー・ラビット』の時にアニメーターとして参加していますし、その後『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2、PART3』ではストーリーボードなどを手伝っています。そして私が最初に映画館で観た映画こそ85年の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、この道に進みたいと思ったんです。そもそも、『バック〜』はパル版『タイム〜』にオマージュを捧げるような作品でしたし、ゼメキスの仕事を本当に羨ましくみていたんです。現在も、ゼメキスの次回作となる『HORROR EXPRESS』という作品に、ストーリーボードで参加しています。

Q.図書館でオーランド・ジョーンズが扮する“ボックス”のイメージは、どういったことからヒントを受けたのですか?また、その場面で彼が「長寿と繁栄を」という『スタートレック』の台詞が出てきますが、これは彼のアドリブなのでしょうか?
——『スタートレック』ネタは、脚本のジョン・ローガンが全て脚本に書いていたものです。彼は熱烈なトレッカーで、この映画の次にシリーズ最新作『STAR TREK:NEMESIS』の脚本を担当しています。
本当は“ボックス”というキャラクターはロボットにしようと思って、様々なデザインを出したのですが、どれもスピルバーグから『A.I.』で使っていると言われてしまいましてね(苦笑)。そこで行き詰まったところで、オリバー・ショールがガラスに映し出されるホログラムというアイデアを出し、採用されたんです。パル版では、回転するディスクでしたが、それをより膨らませ、過去と未来を繋ぐ役割にしたんです。

Q.イーロイの言語はどのように作ったのでしょうか?
——それはジョン・ローガンが作り出したものです。SF映画では時空や外宇宙を旅しても、英語が通じるってことがありますが、それではいけないということで、イーロイの言葉は聞いているとなんとなく欧州の古い言葉に近いようなそういうものにしたんです。ジョンは文法を全て作り上げていましたが、役者がアドリブをしちゃうと上手くいかなかったりもしましたね。ただ同時に、英語は日常語としては使われていないけれど、研究はされているという状況にしました。これは現代におけるヘブライ語のような感覚で英語を使ったんですが、日本語にすればよかったですね。すいません(笑)。

Q.ご自身が原作者だとしたら、80万年後の世界をどのように描きますか?
——本当に80万年後人間が生きているかどうか判りませんが、人間が棲める環境であって欲しいし、そのためには現代の人々のやり方は決してかしこいものではないので、これからもう少し地球を大切にしていかなければならないと思います。

執筆者

宮田晴夫

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