「新耳袋」が語りだけの映像に!聞き手は三輪ひとみ!そう聞いたら、これは是が非でも確かめるしかない、というわけで、撮影現場に密着取材させていただきました。

「新耳袋」(メディアファクトリー刊)は、毎年1冊のペースながら今年で7巻目(第七夜)が出版される根強いファンを持つ怪談の本。その人気は、木原浩勝、中山市朗両氏の地道な取材と、余分な解釈を切り捨てた端正な文体にあります。
新宿ロフトプラスワンでも、深夜0時から明け方まで怪談を語る「新耳袋」トークライブが不定期的ながら23回も続けられています。

不思議というか当然というか、木原・三輪の両氏は仕事の縁が深く、昨年に「怪談之怪」+「世界妖怪会議」合同イベント(今年は8月11日調布にて開催予定)のゲストとして同じ舞台に立った後、あの映画「血を吸う宇宙」の関係で、外伝の「変身」に出演した
他、舞台イベントでも共演という間柄。

事前に送られて来たFAXに寄ると、今回の映像の構成は、廃校で木原氏が三輪ひとみさんに怪談を語りまくるというもの。「現代百物語」というサブタイトルの本の映像化らしく、九十九話の怪談を語るテイストを生かして、という感じらしいのです。
更に「キャストとスタッフは前持ってお祓いしてもらったので、そちらもお守りは持参して下さいよ」と木原氏からの電話。一体どうなるのだろう・・期待と不安に苛まれながら、いざ、出発。











☆目指すは上田、別所温泉
雲りがちなホラー日和?!!
午前10時。東京駅で待ち合わせ。W杯観戦に新潟へ行く人も目に付く新幹線の改札で、まず木原さん、妖怪好きのライターF氏、新耳ファンの演出家K氏と合流。「必ずオバケに出ていただきたい!」と意欲満々の困った木原さん。ホームにて、キングレコードの山口幸彦氏、三輪ひとみさん、三輪さんのマネージャー辻本さんに挨拶。
ちょっと眠そうな三輪ひとみさん、長袖なのは撮影が夜なのを考えて。そのあたりに親戚がいるという彼女は、6月と言えども冷え込む長野の夜を良く知っているとか。ホラーにはかかせない女優さんですが「今度はコメディもやってみたい」そうです。素顔はいたって自然体、はにかんだ笑顔が素敵でした。
一方、新耳袋最新刊の全入稿を終えたばかりの木原さんは「今度は怪獣映画をやってみたい」そうです。ボロボロというよりヘロヘロの木原さん、素顔はいたって不自然体、はにかまない笑顔は無敵といった感じでした。

☆上田到着そして
上田の駅前でロケ隊と合流、蕎麦屋で昼食。さすが信州、そういう店でも馬刺や馬の煮込みがメニューに。料理好きで、それ以上に食べるのが好きな木原氏は、早速オーダー。蕎麦も量が多くて吃驚。撮影の都合次第で、次は何時食べられるかわからないので、一同はここでしっかり食事を取ります。
その後、別所温泉の宿舎に移動、温泉宿ですが温泉に入る暇などありません。スタッフはすぐに臨戦体制に入ります。スタイリストの水野さんが用意した衣装は、木原さんには黒のコートに黒いトックリのセーター、ひとみさんには白いワンピース。
黒いTシャツに黒いジーパンから撮影用の黒ずくめの衣装に着替えて来た木原さん、「着替えた気がしない」と一言。そう言えば、知り合ってから、そういう恰好しか見た事がありません。一度、自転車に乗る木原さんを見かけた事がりますが、その時もやはり黒・・。普段の生活からして黒いのは、さすが怪に語り部。
衣装合わせがすむとメイクにかかります。準備が整い、いよいよ撮影場所へ移動。

☆「学校で怪談」を!!舞台は廃校
平成7年で廃校になった旧西塩田小学校は「学校の怪談4」の撮影も行われた場所。怪談を語るにこれほどぴったりな場所は、ありません。創立100年の石碑が建つ入り口から中に入ると、校内はあまり荒れておらず、夏休みの学校に間違って入り込んだような気分になります。
上田市には「信州上田フィルムコミッション」という、積極的に撮影を受け入れる体制があり、こういう施設を利用する為の許可等の便宜を図ってくれるのです。コミッションのマネージャーの小林さんは「民話を語る会」にも関わっている上に「新耳袋」の大ファンという事で、民俗学にも造詣が深い木原さんと話が弾んでいました。
門の横に立つ大木を、いたく気に入ったらしい三輪ひとみさん、ずっと根元に佇んで梢を見上げていました。それだけで良い構図になるのは、さすが女優さん。
一方、木原さんは廃屋好きの血が騒いで仕方ないらしく、あっちをウロウロ、こっちを
ガサガサ、メイクに黒づくめの木原さんの姿を見た近所の子供が、慌てて逃げて行きました。妙なトラウマにならなければ良いのですが・・。











☆「恐いのは苦手」!でも万能な鈴木浩介監督
「東京爆弾」(2000)、「Reset」(2001)を始め、映画、TV番組、CM、プロモーションビデオまで幅広く手掛ける鈴木浩介監督は、現場の仕切りも、大きな身体(身長187cm)と大きな声で、てきぱきと裁いていくのが実に頼もしい監督さん。「EKOEKO AZARAK/エコエコアザラク」(2001)等、ホラー物も何本も監督しているのですが、実は「恐いのは苦手」だとか。けれども薄気味悪い校舎の中で、何かと浮き足立つスタッフをさりげなくフォローしつつ「木の床はいい雰囲気だけれど、歩くと揺れるんですよね」と固定したカメラを気にしながら、撮影を無事終了するのが第一と、黙々と予定を進めて行く姿に、プロを感じました。

☆どうする「八甲田山」
木原さんの語る怪談は、あらかじめ「新耳袋」から抜粋された話。タイトルがズラリと並んだ構成案を前に、本番に使用されるものを選ぶミーティングの時、ちょっと一悶着。いわくつきの話が多い「新耳袋」の中でも、特にまつわる話が多いのが「八甲田山」。これまで、テープ、MD、”ゆうせん”のデジタル放送機械など、ハードを何度も故障させているのです。とりあえずリスクは冒さないという事で、今回は無しに。本当に何か出るかとか、何か起こるとかはともかく「撮影をきちんと終了させる」事を重視の選択。ここでも鈴木監督の手堅さが。

☆映画の悪役になれそうな妖しい木原さん
メイクが済んで現れた木原さんを見て「昔の映画でああいう人いたよね」「悪役でいたよね」という声が。「丹古母鬼馬二に似てない?」とは木原さん本人の談。「いや、ドクトルゲー(仮面ライダーV3の恐怖の大幹部)じゃない」とは外野の声。ざんばら髪に黒コートで木造校舎を徘徊する木原さんが誰に似ているか、ぜひ映像でご確認を。
更に、撮影中にスタッフで話題になったのは「木原さんがまばたきをしない」事。長い廊下を歩くシーン、アップを撮るシーン、長時間まばたきをしないのです。新人の女優さんで一番苦労するのがこれとか。
何故そんな特技が?と尋ねると「怪談に引き込むという事は一種の催眠術に近いもので、語るより先に相手との視線から、まずハズさないようにするので」との事。「そこに引き込むまでにまばたくと一瞬にして相手が我に返って集中力が切れるから、また一からかけ直さなければならなくなる」そうです。長年の語りで、いつのまにか体得とか。怪談にそんな秘技があるとは知りませんでした。
これも映像でご確認をどうぞ。

☆恐怖・・理科準備室、郷土資料室
どこが怪談を語るにふさわしいか、校内を巡っていく木原さんとひとみさん。お決まりの理科準備室は剥製や骨格標本など、置き去りにされたままになっています。興味を示しまくる木原さん、ちょっと恐そうなひとみさん。曇りガラスで中が見えない郷土資料室の鍵を開け、重い引き戸に手を掛けると、中はうっすらと埃が積もってはいるものの、土器のかけら、古い道具類、寄贈された絵や写真等、様々な物は所狭しと並んでいました。「ひんやりとして、恐かった」と後でひとみさん。最終的に、元は図書室として使われた場所で、怪談を語る事に。










☆「永久保存します」黒板に似顔絵とサイン
スタッフルームが設営されたのは、元は職員室だった場所。出演者の控え室は元校長室で、中央に畳を置き、寛げるようになっています。元職員室の片隅の黒板には、学校の行事や当番を記した白いチョークも文字が、過去というには生々しすぎる跡を残しています。
校長室にも小型の黒板がありました。撮影の緊張続きの中、ちょっとお茶目がしたくなったのか、木原さんが黒板に20年間ずっとコレという自画像(唐沢なをき似)を書き始めました。しかも横に”木原参上”と一筆。何を考えているのやら。ところが女性陣の好反応に気を良くしてか、木原画伯は今度は三輪ひとみさんの似顔絵に挑戦。更にそれぞれの似顔絵の横にサインも入れて完成。それを見ていたフィルムコミッションの小林さんが「これは永久保存しましょう」と決定。お決まりの色紙の他にも良い記念が出来たと、小林さんはにっこり。

☆何故こんなにカメラが
机の上にずらりと並んだカメラ。この位の規模の撮影では「こんなにカメラを使用する事はありません」とスタッフの一人。何故か・・それは、やはり「万が一」に備えて。「新耳袋」にまつわる話には、機械類の故障の話が多いからです。(以前、シネマトピックスの取材でも被害が・・)信じる、信じないはともかく「備えあれば憂い無し」が、監督の選択だったようです。

☆薄着の寒さにも耐えた女優魂
図書室で、いよいよ「語り」の撮影です。がらんとした板の間に椅子を向かい合って置き、背後の黒板には「新耳袋」から抜粋したタイトルがずらりと書かれています。あえて落とした照明、数台のカメラが周囲に固定されます。窓も開け放ち、揺れる白いカーテンが雰囲気を盛り上げます。
三輪ひとみさんの衣装は、白いノースリーブのミディ丈のワンピース。足元は素足にミュール。夜も更ければ長野の6月はまだまだ冷えます。カットの合間に厚手のコート、足にはカイロを当ててもらい、文句ひとつ言わずに最後まで務めたひとみさん。寒い中で更に背筋が寒くなる話ばかり、女優さんは本当に大変です。お疲れさまでした。
これに対して、木原さんは黒のトックリセーターに長いコート。昼間は汗だくでしたが、夜になると寒さのおかげで丁度良いようでした。

☆ダミーヘッドでの録音で迫力もあり!
せっかく怪談を語るのだからと、特典用にダミーヘッドバージョンの録音もありました。雑音が入らないように、即席の囲いの覆われたダミーヘッドは、さながら怪しい屋台のよう。一同、物音を立てないように息を詰めて、録音終了まで我慢。このバージョン、耳元でどんな恐怖を呼び起こしてくれるのか、楽しみ。音と言えば、夕暮れからの蛙の大合唱、もしかして監督を悩ませていたかも。








☆”罰ゲーム”?!たった一人で真っ暗な校舎に
撮影用のカメラは、図書室も他にも設置されていました。それは、ちょうど図書室の真向かいとなる隣の校舎にありました。窓の外から二人を撮影する為ですが、灯を着けると他のカメラの映像が台無しになる為、カメラマンは真っ暗な校舎の中、一人で待機しなければなりません。「ここは出るそうだ」と、散々に話してからの一人。何人かが交代したようですが、スタッフはこれを『罰ゲーム』と呼んでいました。

☆プロデューサーも大満足の出来栄え
時間が経つに連れて、口数が少なく、表情も引き攣りがちになっていった山口プロデューサー。
「ここまで、恐くなるとは思いませんでした」と、夜中の撮影終了後にぽつり。「語られる事によって本を読むよりもわかる話とか、こんなに恐い話だったんだという発見もありました」と、プロデューサーとしては、狙っていた通りの出来になる事を確信したようでした。

☆一番恐かったのは「エレベータの話」と三輪ひとみさん
「やっぱり、恐いですね。聞く側というのは、あんまり大きなリアクションが出ないものだなと、ひたすら固まるというか」何かの役を演じるのではなく、ナビゲーター役として怪談を聞くというお仕事も、また普段の映画やドラマとは毛色が変わって良い経験になったとか。
「木原さんの怪談の語りはうまいですね。聞くのは『怪談之怪』(2001年の世界妖怪会議内での)が最初でこれが2回目でしたが、話し方が恐いです。本当にあった事だと思うと恐くて・・。木原さんのリアクションも恐い(笑)襖やエレベータなど、自分の身近にあるものの話は嫌ですねぇ。エレベータの話を聞いたのは2回目なんですが、やっぱり恐い。今度は何人かで聞いて、リアクションを入れたいですね」撮影終了後、メイクを落としながら、そう語ってくれたひとみさんでした。
ひとみさんから木原さんへのお願いとしては
「身近に起こらなそうな怪談の、とっておきのを今度聞かせて下さい」
この作品ををご覧のなる方には「こういうタイプの聞かせるものというのは、ほとんど無いと思うので、ヘッドホンも使って楽しいでもらいたいと思います」だそうです。





☆ところで・・撮影之怪はあったのか?!
ところで、撮影中に”怪”は起こったのか?!
起こりました。小さな怪が。
まずDATの1台が録音は出来ているのに再生が全く出来なくなりました。(現場を騒がしてはいけないと、後日語られました)さすがに「新耳袋」の撮影なのでバックアップが沢山用意されていたので、問題はなかったそうです。
又、一箇所だけ原因不明の金属音のような大きな音割れで木原さんの声が一瞬途切れる事もあったそうです。(本編には採用していません)
語りの舞台となった元図書室は二階。したがって撮影中は全員二階。なのに一階のドアをバンバンと叩く凄く大きい音が一回入っていました。これは作品の中で確認出来るとか。

VIDEO&DVD「新耳袋・木原浩勝の美女怪談」2002年7月24日発売、お楽しみに!!!!!

「新耳袋 第七夜」はメデイアファクトリーより6月21日発売
6月24日には角川文庫(ホラー文庫ではありません)より第一夜、第二夜発売

執筆者

鈴木奈美子

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新耳袋公式サイト