三輪明日美チャンに再会するのは、およそ10ヵ月ぶりである。でも、昨年出会った頃に比べると、だいぶ女性の大人という雰囲気が感じられる。3月で二十歳になっていたのだから、当然といえば当然かもしれないが、女性はもしかしたら、一番この時期に変わるのかもしれない。そろそろ明日美チャンより、明日美さんが相応しいのかもしれない。

 今回の取材は、彼女がヒロインを務める、ほろ苦い青春ファンタジー『man-haleマンホール』が、東京で6月22日よりシネリーブル池袋ほかで順次レイトロードショーされるためだ。
 監督は、伝説的な劇団「オーパーツ」を結成し、札幌演劇界の旗手として活躍してきた鈴井貴之さん。既に映画は、00年12月にプレミア上映が行われ、翌年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の参加後、北海道各地で上映を繰り返し、そして仙台ほかでの上映を経て、ようやく今年になって東京での上映が決定した。丁寧に上映を繰り返し、確実に観客の心を掴み、北海道だけでも、32500人(2002年1月現在)もの観客動員を記録している。

 物語は、厳格な教職の父(本田博太郎)を持つ17歳の希(三輪明日美)の孤独と葛藤、そして彼女の存在を気にかける若い警官(安田顕)との触れ合いを盛り込みつつ、ほんのりとファンタジー色を盛り込んだ爽やかな作品に仕上がっている。三輪明日美さんには、今まで度々インタビューをさせて頂いたが、彼女の心の変化がちょっと窺えて楽しかった。

(撮影:中野昭次)




Q.北海道での上映が01年でしたから、撮影は一昨年になりますよね。
「そうですね。まだ18歳でしたから、主人公の希と同世代ということです。希をかなりリアルに感じ取ることができましたね。この撮影で初めて北海道へ行き、3ヵ月間もホテル暮らしができて、とても、いい思い出ができましたし(笑)。最初に脚本を読んだ時は、全体を通して、孤独感とか、切なさとかを表現できたらいいなって思いました。人間の心の陰と陽ですか……それってマンホールの中と外のような感じということなのかもしれません。希の役作りについては、東京での衣装合わせの時に、鈴井監督と一緒に話してみたら、私の考えとほぼ同じでした。希って、単純に愛情が欲しかったんだと思うんです。クライマックスに到る前までは、ブ愛想で、やる気がなくて、作り笑いをして、そんな虚ろな感じを表現しようと話し合いましたね。とにかく東京公開が決まって、ホッしています。いつ上映するんだろって、随分前から思っていましたから」

Q.完成した『man-holeマンホール』を初めて観た時は、どんな印象を持ちましたか。
「希って、もっと冷たくてイヤな女の子に映っているのかなって思いましたが、観てビックリしましたね。そうならなかったのは、監督やスタッフのおかげだと思うんです。印象的なシーンでは、マンホールの中ですかね。実際に山の上の方にあるダムの地下で撮影してるんで、ちょっと寒かったですよ。それと、私っていつも自分の演技の欠点を気にしちゃうタチなんで、“あぁっ、この芝居ダメかなぁってね(笑)”。でも思い返してみると、あまりにも撮影現場が楽しくて、その印象の方が強く残ってるんですね。結束が固かったし、ロケ弁そっちのけでおいしい物を食べに行ったりしてね。このシーン撮った時、おいしいラーメン食べに行ったよぉーっとかね(笑)。大泉洋さん(北海道が生んだ最強タレントで、バラエティ番組「パパパパPUFFY」で活躍)とは、いつもジャレあっていたし」





Q.希は、夢や希望をどのように捉えていたのでしょうか。
「夢とか希望は、自分の中で膨らましてみるものですよね。かなえたいもののハズなんだけど、当時の希としては、夢や希望を見ちゃいけないもので、もっと現実を見なくちゃいけないという葛藤があったと思うんです。ちょうどその頃に、夢をかなえるというマンホールの噂話を耳にしたわけですよ。それじゃ、そのマンホールに行ってみようかって……。マンホールに行くことで、自分の胸の中にしまい込んでいた夢や希望を、素直に現実として受け取ることができたんだと思いますね。だからマンホールは、きっかけだと思うんです」

Q.明日美さんは、希と同じ年齢の頃、親や家族に対し、どんな気持ちを抱いていましたか。
「なさそうだと思われますが、私にも、めちゃめちゃ短いですけど反抗期がありましたね。“もう、いい。話しかけないで”みたいな感じで言ってましたから。声かけられるのもイヤでしたからね……この仕事を始めていたせいもあって、余計にウザイッて感じていたのかもしれません(笑)。私は、普通の女の子と変わらない十代をおくってきたんですよ(笑)」

Q.明日美さんの、夢や希望は何ですか。
「希望は、映画料金がもっと安くなって欲しいですね(笑)。安くなって、もっと邦画を観てくれる人が増えたら、こんなに嬉しいことはないですよ。でも夢はですね……全てのことが、自分にとって夢なんですね。今後も女優の仕事を続けていくのも夢ですし、この先、仲間と映画を撮るのも夢だし」

Q.映画製作といえば、昨年から言ってましたよね。映画を作りたいって。
「そうなんですよ。昨年、木下ほうかさんに監督をして頂いて、『17才』という映画を撮りました。女子高生アコの一年間の物語なんです。猪俣ユキちゃんが脚本を書いて出演もしているし、松田龍平くんも出ています。私は一応、企画・プロデュース・主演のアコを務めています。今まで2度ほど、未完成版をイベントで上映しましたが、これから、更に細かい部分に手を加えて完成させる予定です。最終的には70分ぐらいの作品になる予定ですね。製作は自主映画ベースですが、スタッフも、役者も、プロですから(笑)、ちゃんと公開したいとは思っています。将来的には、自分がやりたいと思うことを、どんどんやっていきたいんですよ。好きな仲間たちと一緒に映画を作っている撮影現場の雰囲気が大好きなんです。嬉しくなっちゃうんですね」

 三輪明日美さんにとって、映画『man-holeマンホール』の思い出が、まさにマンホールの役目を担っていたのかもしれない。取材を終えて、そんな思いがフッと頭に>浮かんだ。『man-holeマンホール』の東京公開の成功と共に、『17才』の上映を楽しみに待ちたいと思う。

執筆者

映画文筆家/鷲巣義明

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