鈴井貴之監督作品「マンホール」は出口が探せない人々の、けれども決して最悪ではない人々の、ちょっとビターな物語だ。地元北海道では昨年3月の公開時、「キャストアウェイ」に次ぐ第二位の興行成績を収めた。「1歩と言わず、半歩でも前進してみようかなと思える映画にしたかった。すごくベーシックなことを意外に皆、忘れてたりする。それを伝えたかったんです」、こう語る鈴井監督はテレビ、ラジオ、舞台とマルチに活躍する北海道のカリスマである。主演は兼ねてから親交のあった安田顕に大泉洋、そして熱烈なラブコールを送った三輪明日美。舞台出身の安田顕は「自然にやれ、芝居するなって言われて最初は大変でしたよ」と笑う。東京での公開を直前に控えた鈴井監督、安田顕両氏に独占インタビューを行った。(撮影:中野昭次)

※ 「マンホール」は6月22日からシネ・リーブル池袋でレイトショー上映!!





——最初は自主映画で撮ろうとしたとか。
鈴井監督 そうなんですよ。デジタルビデオ使って、200万円くらいの低予算でね。だけど、そういう話を周りにすると“ちょっと待って。もう少し真剣に取り組んだら”って(笑)。で、NTTドコモ北海道さんやHTBさんが興味を示してくれまして。
まぁ、元は映画少年で8mm回してたりしたんでね。いつのまにか、舞台の方にフィールドが固まってしまったんですけど。(舞台を)十数年続けてると、作品をソフトに残したいという欲求が出てくるんですね。フィルムだったら10年後でも20年後でも残りますから。

 ——「マンホール」は舞台でもやっていますよね。
鈴井監督 内容は全く違いますけどね。舞台版は地下水道の中で人々が次々死んでいくような話。暗いんですよ、とにかく(笑)。小林巡査って主人公はどっちにも出てくるんですけど、彼だけが生き残るような、ね。最後に気が狂うとか。
でも、今の時代、特に北海道で作る映画としては暗いテーマはマズイだろうと。夢とか希望とか語るヤツって私、大嫌いなんです。大嫌いなんですけど、語るヤツがいないなら私が語ってしまおうぜって(笑)。映画版も鬱々した人たちが出てきますけど、きっとこの人たちが歩いていく先には希望の光があるんだろうなって。観る人がそんな気持ちになるような映画を撮りたかったんですね。
安田顕 舞台の方は確かにどろん、どろんだったんですけど、僕の感想としてはやっぱり通じるものがあるんですよ。どっちも何処にもいけない人たちの話なんだっていうのがね。
鈴井監督 おお、そうか(笑)。ラストは色々な解釈ができるものを、っていうのが念頭にあったんですよ。僕としてはささやかなハッピーエンドというか。小林と女子高生が船を流すーー実際には流してないかもしれないけどーーあのラストは、主人公たちに自走させたいというのがあったからなんですね。

——安田さんは舞台版に続き、主人公の小林に抜擢。
安田 監督に呼ばれた時、“大した役じゃないから”って言われたんですね。“ああ、そうなのか”って(笑)。でも、シナリオ読んだら、主役だった(笑)。小林って物事を真っ直ぐにしか見れないというか、一つのことにのめり込んでしまう人間なんですけど、どうも僕に似てるみたいですね。親父には“お前の地じゃねーか”って言われました。
 






——安田さんは映画は初出演ですよね。
安田 舞台経験が長いものでーー長いっていってもそんなに実力があるとか、そういうことじゃないんですけど(笑)。監督には“芝居すんな”って言われましてね。“自然な感じでやれ”ってね。でも、自然な感じっていうのがよくわかんないわけですよ。気持ちの襞の表し方とか、舞台と全く違うわけですよ。大変でした。

 ——女子高生役に三輪明日美さん。監督は熱烈なラブコールを送ったとか。
鈴井監督 いろいろ他の作品を観て、この娘しかいないと思いましたね。三輪さんじゃないとやらないとまで言いました(笑)。
あの役はあんまり綺麗で可愛すぎる人だと困るんですよ。本人にもそう言ったんですけど(笑)。劇が進むにつれ、どんどん可愛くなってくれるような女優さんが良かったんです。
安田 三輪さんは良かったですねェ。すっかり、恋してしまいました。今でも3日おきくらいに思い出すんですよ。

——携帯の番号とか、聞かなかったんですか?
安田 大泉洋は聞いたみたいなんですけどね。僕は聞けませんでした。電話番号、交換たのに、掛かって来なかったらさみしいじゃないですか(笑)。

——三輪さん、北村一輝さんほか出演者は口々に“楽しい現場だった”と。
鈴井監督 嬉しいことですね。北村さんには“こんなに熱のある現場は東京にはない”と言われたりですね。
安田 ええ、本当に夢のようなひとときでしたよ。共演した中本賢さんの大ファンでしてね。僕がガチガチになってるの見て、いろいろアドバイスしてくれたんです。自転車に乗っている僕が、三輪さんとすれ違うシーンがあるんですけどすれ違いざまに手でよけてみろって。でも、その通りにやったら監督に怒鳴られました(笑)。“警察官が市民にそんなことするか!”って。後で中本さんが“そりゃそうだな、いやいや、悪かった”って(笑)。

——舞台演出と映画監督業は似て非なるもの?
鈴井監督 本質的な部分は大きく変わらないと思いますね。映画は1本しか撮っていないので偉そうなことは言えないんですけど(笑)。今回の映画では、スタッフには800カット全てを絵コンテにして、渡して。キャストに対してはどんな質問であっても、答えられるように用意して。現場に入ったら一切、悩まない。そう決めてました。

執筆者

寺島まりこ

関連記事&リンク

作品紹介