現代の中国を舞台とし、聴覚障害を持った我が子を普通の小学校に入学させようと、女手一つで健気に育てていく母親とその息子の交流を、温かく真摯に描いた中国映画が『きれいなおかあさん』だ。前作にあたる『始皇帝暗殺』の趙姫から一転し、極々普通であり同時に愛情に満ち溢れた母親役を演じたコン・リーさんは、本作の演技で第24回モントリオール国際映画祭で最優秀女優賞をはじめとする内外の多数の賞を受賞し、また『始皇帝暗殺』では役者として彼女と共演し、『心の香り』などの監督作品が高い評価を受けているスン・ジョウ監督の静謐で凛とした演出も脚光をあびている話題作だ。
 本作のキャンペーンのため主演、監督の二人が来日を果たし、4月11日パークハイアット東京にて来日記者会見が開催された。コン・リーさんは今回が4度目の来日となるが、シックな黒の装いで登場したその姿は、立ち振る舞いと美貌にいい意味での落ち着きと貫禄が感じられ魅力的だった。以下、その会見の質疑の模様をお伝えしよう。

$navy ☆『きれいなおかあさん』は、2002年6月初夏よりシャンテ シネ ほかにて全国ロードショー公開!$








Q.監督がこの作品を作ろうと思ったきっかけは?また本作に続く作品でもコン・リーさんと組むそうですが、彼女の魅力をお聞かせください。
スン・ジョウ監督——コン・リーとは小さな頃からの知り合いで、何か一緒の作品をとずっと考えておりましたが、今回ようやくそのチャンスが巡ってきました。そして何を撮ろうかと話し合った時、中国は現在様々な変化に直面していますが、私が一番関心を持っていたのがリストラの問題でした。中国で行われている改革や開放は素晴らしいことですが、なかでも素晴らしいのはそのために犠牲を払った民衆の、努力と忍耐なのです。それでこの作品を撮ろうと思ったのです。
そう、私はコン・リーだからこそ一緒に映画を撮りたいと思ったんです。彼女は中国のみならず世界でも最も素晴らしい女優で、私の作品で俳優として演じてもらうには最適だと思いますし、表現者としての彼女に魅力を感じるんです。今後も一緒に撮れればと思いますよ。

Q.今回これまでのイメージとはちょっと違う母親役ですが、演じるきっかけと心を配られた点などありましたらお願いします。
コン・リーさん——私は役を選ぶときに、今まで演ったことのない役をやってみたいという気持ちが常にあり、またスン・ジョウ監督との仕事だからこそ演ってみたいと思ったのです。『始皇帝暗殺』で一緒に仕事をした時に一緒に話をしていても、様々な役にチャレンジすべきだとか、沢山のアドバイスをしてくれて、こういう人が監督するなら自分でも満足できる映画になると思ったんです。『きれいなおかあさん』の脚本をいただいたときに、最初は非常に難しい役だとも思いました。それに挑戦しようと思ったのは、スン・ジョウ監督だからです。

Q.実際に障害を持った少年との演技で、ご苦労された点はありますか?
コン・リーさん——最初はコミュニケーションできるのか心配でした。しかし、撮影で最初にガオ・シンと顔を合わせたとき、監督が彼に「お母さんだよ、呼んでごらん」と言ったんです。するととても綺麗な目を私に向けて「ママ…」って言ってくれて、本当に心の底から感動しました。そしてひじょうにいい関係で撮影が出来たことは、私にも幸福でした。この映画を通じて、私は彼から沢山学びました。普段はあまり“母親”というものを意識することはなかったのですが、現場で一緒にいるとそれが実感できたことが私にも収穫でした。










Q.この作品のどこを観て欲しいですか?
コン・リーさん——私には実際子供はおりませんし、大先輩である世間のおかあさん方のことを語る資格があるかはわかりませんが、私が映画を通じて感じたことは、母親と子供の間にお互いに心と心が通じ合うことが一番大事なことであり、いつまでも友達のように何でも打ち明けられる関係を作っていけたら素敵だなということです。映画の撮影現場では半年以上の間、子役の少年、ガオ・シンと一緒に過ごし愛情を実感させてもらいました。中国に限らず、世界中の母親は仕事を持って子供を育てていくということに、沢山の困難を抱えていると思いますが、どんな逆境でも強く生きていくことが大事なんです。
スン・ジョウ監督——今コン・リーが多くのことを語ってくれ、それが私の思いも代表してくれていると思いますが、私たちは彼女がが家庭で子供に何を出来るかということを常に考えなくてはならないし、障害を抱えてないというのはいかに幸運なことであり、抱えている彼らに対して助けていかなくてはいけないことを実感できる映画だと思います。

Q.今回コン・リーさんがノー・メイクで演じられたことの意図・感想について、お二人それぞれからお聞かせください。
コン・リーさん——脚本を読んだ段階で、メイクの有無はもう重要な問題ではありませんでした。監督からも、この役の人になりきって、中国の底辺の人々をと言うことでしたので、そのように演じたのです。一度撮影中に、「今日は綺麗だね。それじゃ駄目だよ」って言われたこともあったり、毎日監督からチェックされてましたよ(笑)。
スン・ジョウ監督——今ここには、コン・リーという綺麗な女優さんがいて、彼女のことは誰もが知ってますよね。それでこの役に関して彼女に一つだけ言ったことは、貴女が中国の街中を歩いていてコン・リーだと気づかれないように出来れば、この役は成功なんだということです。自分自身も女優であることも捨てて、おかあさんになって欲しいとね。実際の彼女の生活と映画の中のものとは、ひじょうにかけはなれています。だから、役作りをするのではなく常に頭の中で自分がお母さんであると思いつづけるようにと話したんです。

Q.最後にメッセージをお願いします。
コン・リーさん——来日するたびに日本が好きだと実感します。この作品は間もなく日本で公開されますが、沢山の方々に観ていただき、この中のおかあさんを、そして私の息子を好きになってください。それが私の願いです。
スン・ジョウ監督——私の映画を沢山の日本の方々が好きになってくれることを願います。私も日本映画が大好きです。黒澤明監督、大島渚監督そして北野武監督の作品が大好きで、そうした素晴らしい方々の作品から学んできましたので、私の作品にも多くの要素が入っているかと思います。まだまだ未熟者すが、これからも皆さんから応援していただき、素晴らしい作品を撮っていきたいと思います。

執筆者

宮田晴夫

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