4日、都内で監督生活の集大成となる大作映画『スパイ・ゾルゲ』の製作発表会が行なわれた。
海外、日本縦断ロケを敢行し、総制作費20億円の巨額を投資し、6月上海でロケーション、7月ベルリン、日本国内だけでも11県15都市以上で撮影が開始される。また、埼玉県の本庄では昭和の銀座を再現するための巨大なオープンセットを製作する。クランクインは4月6日から始まる。
製作発表記者会見には、監督の篠田正浩を始め、出演者が勢揃いをした、また出演者は、衣装デザインを担当された森英恵さんのデザインによる豪華絢爛な衣装で出席されました。





篠田正浩監督 「この映画を10年前に作ろうとしたのは、『瀬戸内少年野球団』(84)『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』(97)日本が戦争に負けた時代の少年たちを描いてきました。私自身の少年時代は、自分の心の中で隠されていました。私の生まれた年は、満州事変の年で、この事件が、ゾルゲ事件や尾崎秀実という人の運命を日本に引き寄せてしまう出発点だとわかってきました。その後、中学、高校、大学と進むにつれていろんな戦争が起きています。ベトナム戦争時は、監督になりました。最近では湾岸戦争、アフガン戦争と私のような昭和一桁の人は、まさしく戦争の歴史とともに歩んできたようなものです。現在、日本は、バブルが弾けて大変な不況で、まさしく昭和パニックと同じ平成パニックの真っ只中で、私の映画に賛同していただき、多大な精神的、金銭的なご助力を頂き、多数の企業、個人の方がいます。その人たちの力を借りてようやく本日この製作発表にこぎつけることが出来たことは、私にとって感慨深いものです。この10年、ゾルゲという俳優を探してロンドン、サンフランシスコ、ベルリン、ウィーンなど多数の国で探しました。そしてイアン・グレンに逢うことができたのです。」と熱く製作への意欲を語っています。
イアン・グレン (リヒャルト・ゾルゲ役)「今回この仕事を選んだのは、まず篠田監督と一緒に仕事ができるからです。彼が世界でも有数の巨匠であることは事実だと思うのですが、監督からアプローチがあるまで、作品が知りませんでした。その後、幾つかの作品を拝見して、その語り口や力強さに感動しました。それだでも私は映画に出演したいと思いました。しかし、少しナーバスになっていまして、自分の信じる信念のために、命をかけた人たちのことを描かれている物語で、私はその中の一人を演じるわけで、できるだけ真実を、嘘のないように演じないといけないと感じてナーバスになっています。それと日本で仕事ができるということで、これからの3ヶ月間がとても楽しみです。」
本木雅弘(尾崎秀実役) 「今、目の前のブラックホールがどんどん大きくなって、そこのぎりぎりの淵に立っていて、これから飛び込めるのかどうか、まだ不安のままです。もちろん出演することは光栄であり、これが監督の最後の作品になるかもしれない、監督との出会いも最初で最後になるかもしれないので、慎重でかつ大胆にチャレンジしていきたいと思っています。」




ほかのキャスティングについては、篠田正浩監督が一人ずつご紹介しています。
篠田正浩監督 「三宅華子役が最後まで決まらず、最近になって葉月里緒菜さんからe-mailが届きまして、女優として復帰したいというメッセージを頂き、彼女との出会いは、『写楽』(95)以来で、あの時、吉原の花魁の役を探しており、吉原は16歳が花形であると聞きましてオーディションで当時17歳の葉月里緒菜さんに出会いまして、彼女に輝くものを感じて一緒に仕事をしました。今回ゾルゲ役のイアンと英語でしっかりとコミュニケーションが取れるのは、彼女しかいないと思いましたのでお願いしました。
小雪さんは、映画監督としてでなく一人の男性としてファンで、見ているだけで、男の心をかきむしるようなところがあって、彼女の役どころは、クロアチア人のジャーナリストの妻で、現在も元気な方で、津田塾を出られた才能のある方です。
夏川結衣さんは、とある作品で暗黒街のボスの情婦をやっている役を観て引かれてお願いしました。尾崎秀実という大変な夫を持っている妻で、人知れず世をしのがなくてはいけない役です。
永澤俊矢さんは、沖縄出身の画家を演じます。ロサンゼルス在住の共産党員である身分で、のちに日本で、肖像画を担当することで、情報収集の協力する役。永澤さんが持っている無垢な精神と美しい顔が欲しくってお願いしました。彼は、『写楽』では北斎を演じてくれましたし、今回も、宮城という悲劇の人物を演じてくれると思います。
岩下志麻さんについては、この作品ではたった一言の台詞しかありません。夫が東京裁判で逮捕されて出頭するその日の朝、服毒自殺する現場で出会う公爵夫人で、岩下さんは、演じるのは上手いのと、この作品が私の最後の仕事ということで、何もしないというわけにはいかないので、いろいろ助けていただいていますが、出演を内諾していただきました。」





葉月里緒菜(三宅華子役) 「お久しぶりです。最初、プロデューサーからお話を頂きまして私は、休みを取ると決意し休業宣言をしたばかりだったので、一度お断りをしたのですが、私が最も尊敬し、崇拝し芸能界の父であり、私にとって神様のような篠田正浩監督の作品を受けないと一生公開すると思い、日本に戻ってきました。1年半ぶり女優という仕事を離れていまして、カメラの前に立ってはたして芝居ができるかどうかという不安もありますが、監督を信じスタッフや共演者の皆さんに迷惑をかけないよう足をひっぱらないように頑張りたいと思います」
小雪(山崎淑子役) 「このたび、篠田監督とお仕事をさせていただき大変光栄に思っています。私の役は現在唯一健在していらっしゃる人物の役で、いろいろと資料を頂いて勉強をさせてもらっています。できるだけ人物に忠実に丁寧に演じていきたいと思っています。」
夏川結衣(尾崎英子役) 「お仕事ができることは光栄に思って身の引き締まる思いです。初めて衣装をつけてみてがんばらないといけないと思っています。」
永澤俊矢(宮城与徳役) 「監督とは何本も仕事をさせていただいて、一番最初に仕事をしたときに監督から“ゾルゲ”を撮りたいと聞いていまして、それでその作品でこの場所にいられるとはうれしく思います。」
岩下志麻(近衛夫人役)) 「たまたま台本で中年の女性の役は、これしか無かったのですが、篠田の最後の作品ということで今回は特別出演という形になりました。近衛千代子さんの資料が殆どなくって2,3やっと見つけまして、草花や刺繍が好きで一方ではゴルフなどを活発な面もあって性格的にはモノをはきはき言われる方で、心優しい方。その心優しいという部分が私と同じなので、役作りは必要ないかなぁ(笑)と思っています。演じるという面とは別に篠田の最後の作品なので、メモリアルビデオを実は、2月に226事件の雪のシーンを撮りためていまして、私自身でカメラを回しております。これが“ゾルゲ”の製作現場を追うと同時に篠田の最後の監督の姿を私のカメラで収めていきたいと思います。」

時折、岩下志麻さんは、言葉を詰まらせ女優という面よりも篠田監督の妻としてサポートに徹している内助の巧という姿に見えています。

作品は、2003年2月に完成し、同年、全国東宝系にて大公開されます。

執筆者

外川康弘