スタンリー・キューブリックとスティーブン・スピルバーグという夢のコラボレーションの成果として、昨年公開されると日本でも100億円を超える大ヒットを記録した『A.I.』が、早くもこの春DVD&ビデオソフトとしてリリースされる。このリリースを記念して、『A.I.』のエグゼクティブ・プロデューサーであり、キューブリック監督の義弟でもあるヤン・ハーラン氏の全面協力のにより、コンセプト原画や衣裳、ミニチュア・セットなどを展示し作品の魅力に迫る『A.I.』展が、開催されることが決定した。
 2月13日、今年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭のヤング・コンペの審査員も務めたヤン・ハーラン氏が来日し、3月16日から21日までの6日間、お台場のフジテレビ1階オープン・スペース“シアター・モール”にて開催予定の“『A.I.』展”開催発表記者会見が帝国ホテルにて行われた。
 当日ハーラン氏は、展覧会で展示予定の美麗なコンセプチュアル・アートなどを、一足先に会見場にて披露。早い時期に書かれたそれらのイメージが、完成した作品にもかなり忠実に再現されていることから、キューブリック&スピルバーグのコラボレーションが伝わってくる貴重なものだ。それらの解説を交えつつ、作品製作の背景やキューブリックの思い出などを、語ってくれた。

$navy ☆『A.I.』は、DVDが2002年3月8日に特典映像を多数収録した2枚組セットで、またセル・ビデオは4月5日にそれぞれリリース!$









Q.ご挨拶をお願いします
——今回は初来日でとても興奮しております。何もかもが驚きに満ち、とても嬉しく思っています。ここに来る前も、何人かの方と『A.I.』というフェアリー・テールの話をしてきましたが、皆さんからのご質問にお答えしていきたいと思います。

Q.『A.I.』展開催の意気込みと、内容に関してお話ください。
——『A.I.』展は私自身も興奮してますが、ここに持ってきたコンセプト・アートをはじめ、数々の品を展示する予定です。残念ながら、私はその時英国に戻ってしまっていて見れないのですが、私も実際そこを見たいですね。

Q.スピルバーグとキューブリックの間に意見の衝突があったとのことですが、具体的にはどのような部分ででしょうか。また、キューブリックが自作として進めていた時には、キャスティングには誰を念頭におかれていたのでしょうか
——ベースとなる短編小説を収得したのが82年です。その後10年程でスクリプトを作っていきまして、脚本が書きあがったのは93年のことです。それからすぐに準備に入ったのですが、当初デビッドは本当のロボットを作ってしまおうという案でした。キューブリックは映画作りに非常に時間をかけます。少年をキャスティングすると、撮影中に当然成長してしまうと。そこで我々は様々なロボットを試みましたが、うまくはいきませんでした。それでこのプロジェクト自体をCGが進歩するまで待とうということになり、キューブリックは少年をキャスティングすることは全く考えていませんでした。そして、同時にスピルバーグ監督に頼むのもいいアイデアだと、キューブリックの口から出たんです。私は正直言いまして、これだけ温めてきた企画を他の監督に委ねるという事に、大変驚きました。元々交流はあったのですが、その後スピルバーグを英国に呼んでオファーをしたのが、93年から94年にかけてのことです。
衝突はやはりキャスティングに関して、意見の相違があったんです。ただし、キューブリックはスピルバーグが自分とは全くスタイルが違う監督だからこそ尊重していたんだと思います。似た感覚なら依頼はしなかったでしょうね。スピルバーグが映画化したものは、キューブリック自身では映画化し得ないけれど、ただしキューブリックの本々のコンセプトを忠実に描ききった作品になったと思います。これらの原画を見ていただければ、それが証明されるでしょう。しかしながら、スピルバーグは自分のビジョンも付け加えています。例えば、音楽は完全にスピルバーグのものになっていますし、ジゴロ・ジョーというキャラクターもキューブリックが描いていたら違うものになっていたでしょう。ピノキオのモチーフや、いきなり2000年飛ぶというあたりはキューブリック・スタイルだと思いますし、『2001年宇宙の旅』と『A.I.』は説明が無い、人間の可能性に敬意を払っている、創造の謎、人間の持つ弱さなどを描ききっているという点で、両者はとても結びついていると思います。








Q.ロボットから人間のハーレイ・ジョエル・オスメントが演じることに変わりましたが、納得された理由は
——これはまさに監督の撮り方の違いということで、スピルバーグでしたら子役を使っても上手くいく、撮り方が早いですから。キューブリックもオスメントとのような理想的なキャスティングを起用したかったかもしれないが、少人数で時間をかけて撮る自分の撮り方では自分は無理だと。でも、他の監督だったら出来るのではという考えだったと思います。本当に、オスメント君は完璧だったと思います。ロボットであったことも信じられますし、また人間に近いがためにお母さんが愛情を注ぎ、また彼がお母さんを愛する気持ちがよく描かれていたと思います。これは作品自体が御伽噺であり、現実を描いているわけではないのですが、話の中の気持ちや感情は非常にリアルで真実に近いものだと思います。人間の持つ欲望や恐怖感、そういった部分はリアルなものだと思います。

Q.ハーランさんはキューブリックさんととても近しい方ですが、ハーランさんから見てキューブリックさんはどのような方でしたか
——キューブリックとは70年から仕事をしてきてまして、最初に関わったのはナポレオンの人生を描いたプロジェクトでした。これは映画化されませんでしたが、彼は本当にナポレオンに対して興味を持ってましてかなり研究をしてました。兎に角仕事熱心で、常に自分に質問をし問題を投げかけているような人であり、また天才という言葉を非常に嫌っていました。バッハの言葉を引用し「天才は10%が才能で、90%は努力だと話していました。彼も努力家であり、また自分がいくら頑張ってもなかなか満足せずに常に苦労へと進んでいく人でした。あまり映画を撮る必要性は感じてなくて、何か新しい思想や考えを見せられる時以外は映画を撮る必要は無いと語ってました。映画を撮ることは真剣に考えてましたし、それは作品にも出ていると思います。私も一緒に仕事をしてきて楽なものではなかったです。要求が高く、頭の回転が速く、謎めいた才能に長けていたと思います。彼との共同作業は、しかし楽しく、ブラック・ユーモアを持った人物でしたよ。信心深くは無かったですが、創造に対する敬意を持っていました。人間性が豊かであり、家族を大切にし、動物達と一緒にいるのも好きでした。とてもシャイで、マスコミ嫌い、記者会見とかは決してしない人でしたね。






Q.今後組んでいただきたい監督やプロジェクトに関してお聞かせください。
——キューブリック亡き後、『アイズ・ワイド・シャット』は編集までは終わってましたが、音声や米国のMPAAとの検閲を巡る協議などやることがかなりありました。その後、キューブリックのドキュメンタリーを撮りながら『A.I.』のプリ・プロダクションに入りました。今は、2・3のプロジェクトを抱えておりまして、監督の名前は未だ言えませんが、昔からキューブリックが尊敬していた監督と組んでみたいという気持ちはあります。個人的にはテレビ・シリーズをやるプロジェクトを持ってまして、学術的でない形で楽しめるクラッシック音楽を見せていきたいと思っています。プライム・タイムに15分だけ、しかし長い期間にわたる番組にしたいと思います。

Q.『A.I.』という作品と、展覧会に関してメッセージをお願いします。
——『A.I.』については、あまり説明すべきではないと思うんです。キューブリックは『A.I.』のエンディングを全く説明してません。観客の想像力や解釈に委ねているのです。ですから曖昧性を持ってますが少し言いますと、人工知能が今まで主人だった人間のベストな部分だけを抽出し取り入れているんです。アイデアやクリエイティヴな部分を持っているんですが人間の持つ弱さの部分は無いと。完璧な調和を持っているんです。人間には到達できない部分ですね。でも、これは皆さんそれぞれで解釈していただければいいと思います。『A.I.』展では、キューブリックが時間をかけて綿密に準備をしていったかがお判りになっていただけると思います。また、理解度も増すでしょう。

執筆者

宮田晴夫

関連記事&リンク

作品紹介