映画『タイタニック』の興行収入日本記録を超え今もなおロングラン公開中の、宮崎駿監督の最新作『千と千尋の神隠し』。この超話題作が、第52回ベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞。2月19日(火)、緊急記者会見が東京・帝国ホテルで行われた。

今回は、記者会見に出席した宮崎 駿(原作・脚本・監督)、鈴木敏夫(プロデューサー)、スティーブン・アルバート(スタジオジブリ海外事業局長)らのコメントを紹介する。





■コメント
−−挨拶
鈴木敏夫(プロデューサー)
僕とアルバートさんが現地の方に行きました。向こうに行ったら取材だらけで、うれしい悲鳴を上げました。

そこで印象に残った共通する質問が二つありました。一つは、「ライブアクション(実写映画)やアニメーション映画を問わずに、ファンタジー映画が世界の大きな潮流になりつつあるということをどう思うか?」ということでした。そういう質問を受ける中で、あらためてそのことに気がつきました。

もう一つは「カオナシ」についてで、記者の方たちが、いろいろな考えや思いを話してくれたことです。

実は、アメリカではこの映画は「とても日本的で、後半が難解である」という評価が多いということを聞いていたので、ヨーロッパの方たちの「カオナシ」に対する深い理解がとてもうれしかったです。

スティーブン・アルバート(スタジオジブリ海外事業局長)
ベルリン国際映画祭は、おもしろくてすごかったですね。初めてアニメーション映画がベルリン国際映画祭の金熊賞を取ったのは、本当にすごいなと思います。

審査員の方たちは、毎日映画を2、3本みなくてはいけなくて大変な仕事ですが、『千と千尋の神隠し』は、3本目でも楽しんで見ることができたそうです。

宮崎 駿(原作・脚本・監督)
昨日のインタビューでもお話しましたが、自分たちが映画を作った先に、こういう熊やライオンの像が贈られるとは夢にも思っていませんでした(笑)。今年は色々な賞をいただいて、盆と正月とクリスマスが一緒にきたようなものだと思います。

映画の現場は、大勢のお客さんに見ていただいた時点で十分に報われましたし、この歳でいただいても先はあまり長くはないので…なるべく知らん顔をしていようと思います(笑)。



−−今回のような、ヨーロッパでの反響をどう思われますか?
宮崎 駿
この映画は「日本的なものを作ろう」として作ったわけではありません。自分たちの周りにいる子供たちに見せたいと思って作りました。

ただ、アメリカでは映画というエンターテインメントの枠に縛られている人たちが多く、それは、日本でもたくさんあると思うんです。これまで何本かの映画を作る中で、エンターテインメントの常識をどうやって潜り抜けていくかを考えてきました。「3分間ごとに笑わさなければいけない」などの固定観念をなんとかして超えていかなければいけないという課題を、自分たちでしょってきました。

とにかく、僕らは「日本の観客にどれだけ見てもらえるか」が最大の関心があるので、欧米ほかの国々での評価は、ボーナスのようなものだと思います。

−−ベルリンに行かれて、思わぬ反響とかはありましたか?
鈴木敏夫(プロデューサー)
「この映画が外国の人に理解されるか?」という心配をされたのは、全部日本の方でした。向こうでは「映画を見て楽しんだことを何とかしてこちらに伝えたい」という方が多かったですね。

「日本には神様がいっぱいいるんだ」ということを知り、何人いるのかを聞いてきた記者の方もいらっしゃいました。わかりやすく「日本では『八百万の神』といって、八百万人いるんだ」と説明すると、みなさん喜ばれていましたね。

−−ディズニーなどのアメリカのアニメについてどう思われますか?
宮崎 駿
ディズニーが映画を作らなくなってからも僕らは映画を作ってきましたし、自分たちの作品とディズニー作品がどう違うかなんて、考えたことはありません。

鈴木敏夫(プロデューサー)
アメリカと日本では、価値観が大きく違う気がします。アメリカは「いい商品」を作ることに大きな価値があると思うんです。日本の場合は、こと映画においてはまだ「いい作品」を作るところに大きな価値をおいてもらえる…そこに、文化の違いがあると思います。これは、アメリカの方と話をしていて、どうしても越えられない壁なんですね。

だからといってそれに会わせる必要はないですし、僕らは作品としてまずより良いものを作ろうと思っています。その発想の違いが作風の違いを生んでいると思います。

−−宮崎監督の次の構想はありますか?
宮崎 駿
何しろ、すごい老眼ですから(笑)、思ったことがそのままできるわけではありません。ただ構想は昔からいろいろと持っています。作品はスタッフのその時の気持ちが揃わないといい作品に仕上がりませんから、これからもがんばっていきたいと思います。

執筆者

齋藤泰介

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