$LIME 偶然と必然をモチーフに作った映画です。
この映画を楽しんだあとは
みなさん自身の愛を育ててください$

 ルックスは理想的に可愛いけれど、奔放で乱暴で強烈な彼女。情けないまでに優しい彼氏…風変わりなカップルを偶然と必然の交差する中でユーモラスに描いた『猟奇的な彼女』。そのステキな映画を生み出したクァク・ジェヨン監督は、人なつこい笑顔が印象的。瞳の中にはイタズラっ子のような光がチラリ…。

$navy ☆『猟奇的な彼女』は、2002年ロードショー公開予定





−−『猟奇的な彼女』は、インターネットに連載されていた小説が原作だとか。どんな経緯で映画化することになったのか教えてください。
「この作品はもとは私が撮る予定ではなかったんです。制作会社のシンシゲを訪ねていった時に“こういう原作がある。だけど一話一話が短いので映画化がむずかしい。今、いろんな人に脚色をお願いしている”という話を聞いたんです。その時点では私が撮る予定は無かった…。ただ私も読んでみたらたら、本当に面白かったんですね。そして“もし私が映画にするなら”というアイディアが、頭の中にどんどん浮かんできたんです。
 で、しばらく経った時、制作会社から“今作ってもらっているシノプシスが今ひとつ。監督、やってみないか”と言われたんですね。そして私がやることになりまして、シノプシスを5日間で書き上げてしまいました」
−−インターネットの原作の、どこら辺を特に面白いとお思いになりましたか?
「インターネット小説はハングルで書かれているんですが、インターネットは速く文字を打たなければいけないので、通信用の文字が別にあるんです。“パッチム”という子音を省略したりして、速く打てる文字があるんです。それを使って書かれていて、その文体自体がすごく面白かった!
 もうひとつ、女性主人公のキャラクターが飛び抜けて面白かったですね。あまりにも面白かったので、バスの中で小説を読んでいた時、笑い出してしまったほどです」
−−次々に浮かんできた映画化のアイディアとは、具体的にどんなことですか?
「この映画は、原作にあるものを使った部分と、原作に無いものを加えた部分があります。原作にある部分も、アイディアをプラスしてより面白いものにしようと思いました。
 たとえば男性主人公が“彼女”にハイヒールを履かされて歩く姿とか、軍人が電車の中をなぜか行進しているシーンとか…ああいう所は原作にもあったんですが、アイディアをプラスしてどんどん膨らませました」






−−なるほど。監督は今回登場するような“猟奇的な女性”について、どう思われますか?
「ある日、バスに乗っていて、この映画の女性主人公と似た女の子を見かけたことがあるんです。映画の女の子ほどワイルドではなかったんですが、彼氏を操るような、言いなりにするような様子で…。“こういう人も魅力的だなあ”と思ったことがあるんですね。
 その時思ったのは“彼女はあんな風に強がっているけれど、心の痛みもあるんじゃないかな”ということ。今回の映画でも、彼氏は、あんなにやり込められているのに彼女に優しく尽くしていますよね。きっとお互い惹かれるものがあるから、そういう風になったんじゃないかな。
 私の娘が映画を見て“私もこんな女の子になりたい”なんて言っていたけれど、やはり女性として魅力のあるキャラクターなんじゃないかと思います。
 もうひとつ付け加えると、韓国は伝統的に儒教の影響があります。だから多くの女性は、この映画の女性のようになりたいと思ってもなかなかなれない。きっとこの映画を見た人は、女性主人公に憧れを抱いたんじゃないかな。“自分も本当は彼女のように素直に表現したい”と思った女性が多かったからこそ、たくさんの共感を得られたんじゃないかと思います」
−−この映画をきっかけに、韓国では“猟奇ブーム”が起こったとか。どんな現象なのでしょう?
「“猟奇ブーム”は、この作品がきっかけというわけではないんです。映画が公開される数年前からいわゆる“猟奇ブーム”がありました。
 インターネットを通して、みんなが“猟奇的”とか“ 猟奇”という言葉をよく使っていたんです。猟奇マンガ・猟奇的な絵・猟奇的小説などが作られていました。その時は、同じブームでも“猟奇的”という形容詞がつくと“強いもの・恐いもの・キタないもの”というイメージだったんですね。それがこの映画がきっかけとなって“猟奇”という単語の意味が変わったんです。
 この映画が出てからは“猟奇的な…”という時に“とても可愛い”…もちろん恐ろしい面も含んでいるけれど、それと相対する形で“可愛い”という意味も盛り込まれるようになったんです」






−−では、もともとの“猟奇”の意味は、日本の“猟奇”という言葉の意味と近かったんですね。
「はい、そうですね」
−−それに、新しい意味を加えたのはクァク・ジェヨン監督。
「私ひとりの力というよりも、原作小説もありましたし…。小説が韓国社会に受け入れられるにつれて、“猟奇的”という言葉も、荒唐無稽だけれど明るいイメージがついてきたんじゃないかと思います。ただ今回、この映画をたくさんの人に見ていただいたので、みなさん“猟奇”という言葉を聞くと、この映画を思い出してくださるようなんです」
−−ところで、今回のキャスティングでは、アンケート調査をなさったんですよね。
「韓国ではキャスティングをする時、各制作会社で“誰にキャスティングしたらいいか”とアンケートすることが実は多いんです。大々的なアンケートではなく小規模なものなんですけれど。映画を勉強している人たちにシナリオを見せて“どう思う?”とアンケートしてみたり…。
 今回も国民的な規模でアンケートしたわけではなく、私たちの周りにいる人たちに聞きました。それからインターネットを通じて、小説版『猟奇的な彼女』を読んでいた人たちに“誰がいいですか”と聞いてみたんです。制作会社や私が“彼女役はチョン・ジヒョンさんがいいんじゃないか”と言っていたら、アンケート結果も同じで“チョン・ジヒョンさんがいい”という声が多かったですね」
−−“彼役”のチャ・テヒョンさんは?
「男性主人公のほうは、実はキャスティングに時間がか かったんです。チャ・テヒョンさんの、これは映画のデビュー作になるので“彼にお願いしていいのかどうか”という部分もあったし…。でも多くの人から、テヒョンさんがいいんじゃないかという声がありました。
 私も“いいんじゃないかな”とは思いつつ、彼の演技はパターンがある程度決まっていたので、果たしてこの映画で彼に新しい姿を引き出してもらえるのかどうか、心配だったんです。でも最終的に彼と一緒に仕事をすることになりまして…。こちらが100%のものを要求した ら、彼は130%くらいのものを発揮してくれる、本当に すばらしい俳優さんだということがわかりました」






−−撮影中のエピソードを聞かせてください。大変だったこと、面白かったこと、いろいろあると思いますが。
「今回は、全体的にとても楽しく撮れました。ただひとつだけ、公開日が決まっていたので撮影のスピードをあげて撮らなければいけなかった。それがちょっと大変でした。今、韓国映画は規模の大きなものが増えてきて、60億ウォン、70億ウォン…日本円にすると6億円、7億円という予算の映画が多いんです。そんな中、今回の作品はもう少し予算が少なかったんですね。それなのにスピードをあげて早く撮らなければいけない…その辺がとても大変でした。
 面白いエピソードは数えきれないほどある。山で、チョン・ジヒョンさんが“キョヌ、ごめんね!”と叫ぶシーンがありますよね。あれを撮ったあと、チャ・テヒョンさんだけ残して山を下りて、今度は彼が叫ぶシーンを撮ったんです。そこは音は入らなくて、ただ叫ぶという絵だけを撮るシーン。“なんでもいいから叫んでみて”と言ったら、彼が“クァク・ジェヨン監督のバカ!”と叫んだんですよ(笑)。それも面白かった。
 それと、チャ・テヒョンさんが素裸になって撮るシーンがありましたね。あれで彼は体調を崩してしまって、撮影が終わるなり病院に担ぎ込まれました」
−−アクションや時代劇などの“劇中劇”も、とても楽しかったです。劇中劇の撮影はいかがでしたか。衣装もアクションも凝っていましたね。
「そうですね。私も一番幸せだったのが劇中劇を撮っている時でした。韓国の有名な小説に『夕立(にわか雨)』というのがありまして、その小説を元にした劇中劇を撮るシーンがあったんです。それは時代背景が古いんですね。だからセットの裏の方にまた古い家を探したりして、昔の田舎の雰囲気が出るようにして撮ったんです。そんな風にして、本編とは別のストーリーを撮れたのは楽しかったですね」
−−ところで韓国の男性は、チャ・テヒョンさんが演じた男性主人公のように優しい方が多いんですか?
「昔に比べたら、韓国の男性たちは、男性主人公のような心を持ったタイプが多くなった気がします。去年の暮れの“女性観客が選ぶ映画賞”で“一番好きな男役の俳優さん”としてチャ・テヒョンさんが選ばれたんです。その結果からしても、男性側がそれを望んでいるかいないかは別として、今回の作品がきっかけとなって、男の人も少し変わってくるんじゃないかな(笑)」
−−この映画に出てきた“偶然は、努力する人に神様がかけてくれる橋”という言葉が印象的でした。それは監督ご自身のお言葉ですか?
「実は今と同じ質問を、うちのワイフからされたんですよ。私は今回の映画は“偶然と必然に関する物語”だと自分では思っているんです。物語において、偶然と必然はとても重要なモチーフになりうると思っています。でも、なんだか自分でもわからないうちにあの言葉が浮かんできたんですよ。
 私の周りには“クァク・ジェヨン監督は、偶然あの台詞を思いついたんじゃなく、今まで苦労したから生まれてきたんだ”と言ってくださる人もいましたが」
−−では、夕張映画祭にいらしてみてのご感想は?
「韓国で“今度、夕張に行きますよ”と言ったら、周りの人が“夕張はいいよ”っていうんですね。その時はどうしてかわからなかったけれど、実際に来てみたら、言葉で言えないほど楽しくていいところ。今ではもう家に帰りたくないとまで思っています(笑)」
−−これからこの映画を見る方々にメッセージを!
「この作品に出てくる、ある男女の愛の物語を楽しんでください。そして家に帰ったら、みなさん自身が持っている“愛”を育てていってほしいと思います」

取材・構成/かきあげこ(書上久美)

執筆者

かきあげこ(書上久美)

関連記事&リンク

作品紹介