今、最もファンタスティックな映画を生み出しつづけるスペイン映画界においても、そのアナーキーな作風で我道を行くアレックス・デ・ラ・イグレシアの最新作『みんなのしあわせ』が、2002年新春より待望のロードショー公開が決定した。古ぼけたアパートの1室で孤独に死んで行った老人が残したスポーツくじの巨額の賞金を見つけてしまった不動産セールス・ウーマンのフリアおばさん。その大金をネコババしようとするのだが、アパートの住人達は、いつかその賞金を山分けしようと結託して老人を見張っていたものだから、さぁ大変。賞金を巡って、欲の皮をつっぱらせた住人たちとフリアは、最初は精神的に、そしてさらには血で血を洗うような死闘を繰り広げることになる。
 兎に角、ほとんど全ての登場人物が、エゴイスティックな奴ばかりという、悪趣味でブラックな持ち味がイグレシア監督らしい本作。その中でみかけは兎も角、唯一人間的な魅力を持ったキャラクターが“ふとっちょのダース・ベイダー”ことチャーリーで、エドゥアルド・アントゥニョ氏が存在感あふれる演技を見せている。日本では本作が初登場となるが、ユーモラスでありながらも、その実ピュアでクレバーな個性は観客に強い印象を残すだろう。
 ロードショー公開に先立つ12月に、キャンペーンのため初来日を果たしたエドゥアルド氏。インタビューの最中も、常に身振り手振りを交えながら、表情豊かに一つ一つの質問に丁寧に答えてくれた彼の、来日インタビューをお届けしよう

(撮影:中野昭次)

$navy ☆『みんなのしあわせ』は、2002年1月12日(土)よりシブヤ・シネマ・ソサエティ、横浜西口名画座にてロードショー公開!$





Q.映画の方、大変楽しく拝見させていただきました。アパートの住人として多くの役者さんが実にそれぞれ個性的だったと思いますが、エドゥアルドさんのチャーリーは、作品中唯一の清涼剤風キャラクターで、印象深かったです。エドゥアルドさんの作品が日本で公開されるのは、これが最初だと思いますので、まずプロフィールを教えてください。
——1996年に映画の仕事を始めました。サンティアゴ・ロレンゾ監督の『ママはおばかさん』(未)という作品に出演したところ、その作品をアレックス・デ・ラ・イグレシア監督が見て今回の役をオファーしてくれたのです。その後、ホセ・アントニオ・キロス監督の『国王に責任をとってもらえ』(未)、『マリアーノの年』(未)という作品に出て、次がこの『みんなのしあわせ』です。

Q.今回の作品は、非常にブラックなコメディでしたが、これまで出演されてた作品でもコミカルなものが多いのでしょうか。
——そうですね、ユーモアが含まれている作品が多いですが、最初の『ママはおばかさん』はユーモアもありますけど、現実的な描写が多い作品です。

Q.『みんなのしあわせ』では、“スター・ウォーズ”マニアでダース・ベイダーのコスプレをしているチャーリー役ですが、エドゥアルドさんご自身は“スター・ウォーズ”に対しての思い入れはどうでしょうか?
——『スター・ウォーズ』は子供の頃に、楽しむ為の娯楽映画として観ましたよ。好きでした。それで今回のオファーが来てから、あらためて全作観直しました。

Q.ヲタク的で周囲からはバカにされながらも、実は最も人間味溢れ、また頭のよいキャラクターですよね。エドゥアルドさんご自身が、そういうキャラの持ち主というわけではないでしょうが、この役を演じる上で注意された点はなんでしょうか。
——そう、確かに僕はそういう人間ではないですが、この役は“スター・ウォーズ”のフェチで、家に篭っていてという役柄ですから、演じるにあたり出来るだけ真実を探そうとしました。この人物が、この立場で何を感じ、何を考えているのかということを、本当に自分でも感じるようにして、役を作るのではなくその人になりきることに努力しました。何を感じているかを、自分でも感じることです。

Q.私などもフェチかどうかは兎も角、映画好きでヲタク的な部分がありましたので、実際に作品を観ていて強い共感と、ところどころイタサもあるリアルさを感じました。
——僕はこの内気な男とは大分性格が違いますけれど、監督のアレックスが“スター・ウォーズ”の大ファンでそこからこういう役が出てきているんです。この役を演じるにあたり、自分がその気持ちを本当に感じ、また楽しむことができるようにしました。



Q.イグレシア監督は脚本を書かれた段階で、エドゥアルドさんを想定されていたのでしょうか。
——実際のところは、アレックス監督がオファーしてくれた段階で、脚本が書き上げられていたのか、また書いている途中だったのかはわかりません。

Q.監督・脚本(共同)をアレックスさんが兼ねていますが、撮影は脚本に忠実に行われたのでしょうか?それとも、エドゥアルドさんはじめ、演じられる方のアドリブなども盛り込まれているのでしょうか?
——全く脚本どおりですね。ただ一つだけ、撮影中に変更された点がありました。それは最後の場面で、映画ではマドリッドの街中のバーで撮られていますが、当初はちょっと違うシチュエーションでした。ただし、台詞等は変わっておりません。

Q.映画の方はある意味閉じられたアパートの中での場面が中心となり、また登場人物が多く、画面もシネスコサイズです。それをシナリオ通りにきっちり撮影されたということは、かなりリハーサルを重ねられたのでしょうか?
——アパートの階段部分は、4・5階分くらいの高さのある実物大のセットで、そこをカメラがクレーンで上下し撮影されたのですが、スペース的には結構広く色々な角度から撮ることができたのです。俳優たち…9名だったと思いますが…も、動きは特に制限されること無く自由にできましたよ。室内に関しては、歓迎パーティの場面は実物のアパートを使い、老人の死体が見つかる部屋やフリアの部屋はセットと、両方を使い分けていますね。また、撮影に使った実際のアパートにはエレベーターが無かったので、それもセットを組みました。セット部分も、モデルになったアパートを忠実に再現していましたよ。





Q.チャーリーがフリアの部屋を覗く場面などは、ロマン・ポランスキー監督の『テナント/恐怖を借りた男』を思わせますし、オープニングをはじめアルフレッド・ヒッチコック監督作品を思わせるところがありますが
——フリアを窓越しに覗く場面は、実物ではなくセット撮影でした。以前アレックスが記者会見で話していたのですが、この映画は映画界全体へのオマージュという形で、様々な作品から少しづつそれらの作品を連想させる場面を持ってきているんです。映画の後半で、パキータがビルをジャンプする場面はご存知の通り『マトリックス』です。これまで偉業を修めてきた沢山の作品から色々寄せ集めまして、映画界全体の業績を称えるというニュアンスがあり、結果的にも素晴らしいものになったと思います。

Q.ところで、チャーリーが惹かれるフリアですが、勿論結末では他の住人たちと違った部分が描かれるわけですが、彼の前に現れたときはある意味、他のアパートの住人同様決してほめられた人間としては描かれてはいないと思います。そんなジュリアに思いを寄せていく気持ちは、どのようなものだったのでしょうか?
——フリアはチャーリーにとって新鮮な風だったんです。チャーリーはいつもアパートの中に篭っていて、唯一の逃げ場というのが“スター・ウォーズ”とかそういうものだけだったんです。そんな彼が、初めて彼女を見て新鮮な空気を感じたんです。チャーリーとフリアの関係ですが、それはソフトな友好関係とでもいうのでしょうか。フリアは彼を見て、彼が他の住人とは違い善人であることを感じます。この二人の間には肉体関係もありませんし、あるのは新鮮な関係なんです。

Q.そうですね。最後に二人が連絡を取るところも、直接ではなくああいった方法だったのが、とても粋でしたね。
——それはアレックス監督が、チャーリーはただのバカな男ではないということを、強調したかったのではないかと思います。

Q.ところで、チャーリーを演じられている場面は、大部分がダース・ベイダーのコスプレ姿でしたね。その格好で、アパートの屋上へと登ったりとアクションもされていたわけですが、そうした肉体的な面に限らずご苦労された点はいかがでしょうか?
——あの衣装はオーダー・メイドではなくて、コレクターから借りたものだったんです。だから実際に着るようには出来てませんので、空気が通らず物凄く汗をかきました。本当に辛かったです。サイズ的にも物凄くきつくて、股の間の部分とか撮影中に壊れましたしね(笑)。小さいので屈むこともできなかったり、体が攣ってしまったりその変は大変でした。それでも、屋上の場面は最後の方の撮影でしたので、かなり慣れてきてましたがね。撮影開始直後は、本当に(笑)。




Q.エドゥアルドさんは、映画の世界に入られて5年目くらいとのことでしたが、この映画ではフリア役のカルメン・マウラさん、エミリオ役のエミリオ・グチエレス・カバさんなど、ベテランの方々と共演をされたわけですが、いかがでしたか?
——すごく著名な方々と共演できて、自分の責任をしっかり果たさなければならないと最初は強く感じました。僕の演じた役は大切な役で、自分の演技がこの映画の出来を左右するようなポジションにもありましたから、とても緊張しましたが、頑張ってとてもいい演技をしようという強い動機に繋がりました。

Q.今回の作品はブラックなコメディで、それまでの作品もユーモラスなものが多いということでしたが、今後演じてみたい役はどのようなものでしょうか。また、次回作の予定などありましたら教えてください。
——これからは役柄を変えて、もう少し違う分野でも演じていきたいと思っています。まだ確定はしていないのですが、次に取り組むかもしれない作品は、新人監督による心理サスペンス風の作品になるかもしれません。そういったジャンルにも力を入れていきたいと思っています。

Q.これはエドゥアルドさん個人に対してではなくスペイン映画界に関しての質問です。今、心理的なスリラーという話しをされましたが、最近日本で公開された、またこれから公開される予定のスペイン映画は、アレックス監督をはじめ若手監督によるファンタスティックで新鮮な作品が多いようです。これはスペイン本国でも、実際にそうしたジャンルの作品が増えている傾向があるのでしょうか。
——映画を観る観客も若者層が中心ですので、このようなSFやホラー系の作品はとても増えているようです。アレハンドル・アメナーバル監督、ギレルモ・デル・トロ監督などは大成功を収めてますし、他の監督も同様です。プロデューサーも若い人が増えて若者向けの作品を製作しているという背景もあるかとは思いますが、やはり若手の監督及び脚本画が頑張っているということでしょう。スリラー映画の映画祭(カタルーニャ国際映画祭)も行われていますし、そこでは最低でも2本以上のスペイン映画が上映されています。

Q.本当に興味深いスペイン映画が公開されておりますので、またそうした作品でエドゥアルドさんの姿を観れることを、楽しみにしたいと思います。最後に、これから作品を観る日本のファンにメッセージをお願いします。
——ソファーにしっかり座ってくださいね。さもないと、お尻がソファーから落っこちてしまうと思いますよ(笑)。きっと、楽しんでいただけると思います。

本日は、どうもありがとうございました。
(2001年12月、渋谷の某ホテルにて)

執筆者

宮田晴夫

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