アレハンドロ・アメナバール監督による悪夢と現実の狭間の喪失感を描いたサスペンス、『オープン・ユア・アイズ』が、作品にほれ込んだトム・クルーズの製作・主演作品『ヴァニラ・スカイ』としてリメイクされた。監督を務めたのは、『ザ・エージェント』でトム・クルーズをオスカー候補にしたキャメロン・クロウ。そしてヒロイン・ソフィアにオリジナル版でもソフィアを演じたペネロペ・クロスが、新たなソフィア像を演じて見せる。
 日本公開に先立つ12月13日、キャメロン・クロウ監督、トム・クルーズさん、ペネロペ・クルスさんが来日し、パークハイアット新宿にて記者会見が開催された。話題作に相応しいビッグな顔ぶれの揃った記者会見に、会場は多くのマスコミ関係者により熱気が溢れていた。
 「いつも東京に来たいと思ってました。やっと来れ、人々が優しくしてくださって、絶対にまた戻って来たいです。その時は、遊ぶ時間も作りたいと思います。」(ペネロペさん)、「また戻ってこれて本当にハッピーだと思ってます。」(トムさん)、「日本にはジャーナリストとしてとしてレイナード・スキナードというバンドについて、随分前にきたことがあるのですが、それ以来になります。」(クロウ監督)、それぞれが一言づつ挨拶をしたのに続き、質疑応答が行われたが、ミステリアスな作品らしく、監督らによる作品を読み解くためのヒントなども語られた。





Q.プロデューサーとしてのトム・クルーズさんに質問です。『オープン・ユア・アイズ』を観てこれが新たな映画になると思ったこと、またペネロペさんを抜擢したきっかけと、その成果についてをお話ください。
トム・クルーズさん——『オープン・ユア・アイズ』を最初に見たとき、私の体中をアドレナリンが駆け巡りました。そして、どこかの文化に根ざしていなければならない作品ではない点が素晴らしいと思いました。そしてクロウ監督に作品を見せ、新たな映画を作れるのではないかということをディスカッションをしました。特にクロウ監督は、ポップ・カルチャーに興味を持たれている方なので、それを前面に押し出した作品にしようと。また、クロウ監督は男と女の関係を描くのがとても得意な監督であり、二人ともロマンチストです。そこでそういった男と女の関係を描いた作品にしようと、究極のテーマは愛の永遠性です。ポップ・カルチャーのローラー・コースターにのったような感じで展開し、それが回転していく。そしてその後に、男と女の関係はどういうものかディスカッションをする、作中に出てくるカジュアル・セックスとはどういうものなのか、また人間は人生においてどのような選択をすべきか、そうした選択の結果の責任はどうなのか、そういった色々深いテーマを持っていて、それを娯楽というパッケージの中でプレゼントできる映画であると。そうしたことに基づいて、キャメロン監督がデザインしたのであう。アメナバールの作品からはアメナバールの声が響いてきたと思いますが、この作品からはキャメロン監督の声が響いてくるのです。でも、この二つの作品は、それぞれにディスカッションしている作品であるということを。意識してつくりました。二人の監督が同じテーマを扱いながら、違う結論に達していく作品にしたかったのです。
ペネロペをキャストしたのは監督です。彼女はスペインの大変才能がある女優で、この映画にはパーフェクトなキャスティングだったと思います。私はこの作品を誇りに思ってますし、私が作った作品の中でベストな作品だと思っています。内容がつまっていますので、観客は二度見たくなると思いますし、その時には全く前と違う体験をさせてくれる映画です。ドウモアリガトウ、ワーオ!

Q.トムさんに、今回マンハッタンの街中をたった独りで歩く場面がありましたが、現実には有り得ないシチュエーションをどのように感じられましたか。また、ペネロペ・クルスさんはハリウッド版を演りたいと切望されていたそうですが、どのような気持ちだったのでしょうか。
トム・クルーズさん——あれはCGを一切使わずに、日曜の朝タイムズ・スクエアの40ブロックの交通を遮断して撮ったんです。ポップ・カルチャーが重要な位置付けを占める作品なので、ポップカルチャーのイコンとしてのタイムズ・スクエアがいいねということになったのですが、最初は本当に撮れるとは思ってませんでした。そしてニューヨークのフィルム・コミッションにいき、市長にも掛け合ったところOKがもらえたんです。
ペネロペ・クルスさん——アメリカでリメイクされると聞いた瞬間から出たいと思いました。同じソフィア役でも監督が異なるので、全く違うソフィアなんです。映画と同様、二つのソフィアも会話をしあっていると思います。この二人は友人にはなりうるけれど、同じ人ではないという風に解釈し、全く違うクロウ監督のソフィアという認識でアプローチをし、大変楽しい思いをしました。









Q.キャメロン・クロウ監督に、音楽の選曲が実に素晴らしかったですが、選曲についてお聞かせください。また、トムさんに姿も心も傷つく主人公を演じての感想をお聞かせください。
キャメロン・クロウ監督——兎に角この映画には、素晴らしく音楽好きの人間が集まりました。『ザ・エージェント』でも、トムが演じてこちらが演出するとそこには必ず音楽がありました。俳優によっては気が散るからやめてくれと言う者もいるけれど、トムはもっと音楽のボリュームをあげてというんです。ペネロペもそんな感じで、画面から流れる音楽は、現場でも実際に流しながらの撮影であることが多かったです。レディオ・ヘッド、シガローズ、勿論ポール・マッカートニーの『夢の実現』みな使っています。『バニラ・スカイ』というタイトルは、ビートルズっぽいと思っていたんですが、ポールが歌ってくれたので完璧になりました(笑)。
トム・クルーズさん——顔の崩れたメイクに関してはリサーチを重ね、リアリルに見えるメイクを、テストを繰り返し考案したのです。役作りに関しては、内側から外のものを作っていくというプロセスをとります。リサーチを重ね、納得のいく内面を組み上げそこから外面を作っていく。刑務所のデヴィッド、満たされた生活をしているデヴィッド、そういうものを内面からの気分で作っていくのです。現実には、私はセット入りが早く、クロウ監督とその日の撮影についてディスカッションします。監督とのディスカッションはとても重要で、一時『アザーズ』という作品のプロデュースでスペインに行っていた間も、長時間にわたる電話でキャメロン監督とディスカッションを重ねました。そう映画とは、愛撫するように慈しみながら作っていくものなんです。クロウ監督は、俳優のことをよく考えてくれる人ですから、キャスト全員が幸せな時間を過ごしました。

Q.クロウ監督に、デヴィッドはカジュアル・セックスの申し子のようなキャラクターですが、セックス・フレンドのジュリーと交わしたセックスが潜在意識に甦ってきます。これは、カジュアル・セックスを楽しむ若者への警告と捕らえていいでしょうか。
キャメロン・クロウ監督——この映画には様々な切り口がありますので、皆さんとこうしてお話できてとても嬉しく思います。私はライターでもあるわけですが、これはモラルの説教をする映画ではありません。そうした結論を押し付ける気はありませんが、観客のみなさんに考えて欲しいきっかけとして、一つの問いかけはしたかったんです。つまり、カジュアル・セックスのカジュアルとは、どの程度がカジュアルなのかということです。カジュアルと聞くが、実際には装ってるだけということが多い。キャメロン・ディアスはカジュアルっぽい顔をしていますが、あれは演じているのです。この映画は見終わった後、周囲の人たちとそういったことを話す素材として楽しんでいただきたい、それが『バニラ・スカイ』を作った理由でもあるのです。アメナバールの作品は素晴らしい作品ですが、その上にこうした要素を加えていき、アメナバールの問いかけにも少し答えてみようかなとそういう部分もあります。
トムさん——この映画は、二度目に観た時にいかに巧妙に手がかりが残されていたかが判るかと思います。私が入っている刑務所で見ているテレビ、あれもヒントです。また、音楽の選曲にも全て意味があります。Tシャツにも意味があります。カート・ラッセルがデヴィッドに言う台詞の中にも、多くのヒントが含まれています。頭のいい監督がジグソー・パズルのように巧妙に作った作品で、見た後に色々話せる作品で私も好きなタイプです。




Q.クロウ監督に、俳優さんからベストの演技を引き出すコツのようなものはなんですか。また、新しい女優さんを上手に使われますが、その当たりもお願いします。
キャメロン・クロウ監督——ペネロペを発見したということはできませんね。彼女はスペインで成功した俳優ですから。色々な俳優さんと仕事をしてきて、気のあった方と仕事をするのは楽しいです。私は、キャラクターづくりに主眼を置く俳優さんが好きです。つまり、自分じゃない別の自分を作り出す方です。でも、それらは俳優さんの中にあるものであり、私は使う俳優さんのファンであり、そうした中で別の何かを引き出せたらとそういう気持ちで使っているのです。そういう姿勢で、俳優さんと仕事をしています。

Q.クロウ監督とトムさんに、今回のデヴィッドはオリジナルに比べて感情移入がしやすいキャラクターに思えたのですが、その辺の解釈についてお聞かせください。
キャメロン・クロウ監督——トムの演じたデヴィッドの方が、愛を必要としている男だという、その切実さが出ているからではないでしょうか。
トム・クルーズさん——そうだと思います。クロウ監督のデヴィッドは、人生の空しい部分に気づかずに暮らしています。そのデヴィッドがソフィアにあって、本当の愛を知るわけです。この映画が提示していることは、我々は毎日何かの選択をして生きています。その今日した決断が、ずっと長く尾をひいて影響を与えていくことに気づくべきであると。映画の中に、「もしやり直そうと思えば、人生はいつでもやり直せる」という台詞がとても好きです。あれは、ロマンチックな台詞ではなくリアリスティクで人生に根付いた美しい台詞だと思います。








Q.クロウ監督とペネロペさんに、監督は起用されるときにその俳優さんのファンなんだという表現がありましたが、監督にとって女優としてのペネロペさんの魅力と、俳優としてのトムさんの魅力をお話しください。またペネロペさんから見た、クロウ監督の監督としての魅力、トムさんの俳優としてプロデューサーとしての魅力をお聞かせください。
キャメロン・クロウ監督——二人とも素晴らしいですよ。二人ともハートがあるところが素晴らしい。私はライターでもありますので、長い台詞を書きリハーサルに入るんです。ところが、カメラの前に立たせますと、台詞などいらないんです。見詰め合う場面で、言葉以上のものを感じさせることがよくあるのです。葬儀の場面で、元々はペネロペは色々話す設定だったんですが、ペネロペの表情だけで全てを語ってくれて台詞はいらなくなりました。
トムは『ザ・エージェント』でも仕事をしているわけですけど、私が書く台詞を読むトムのリズム感の素晴らしさでシナリオを引き立ててくれます。『マグノリア』のポール・アンダースン監督も同じことを言っていました。
ペネロペ・クルスさん——監督は私にとって特別な方です。人生観が素晴らしく、小さなものの美しさを見てそれを画面にのせる点が素晴らしいです。また、ライターとしても天才だと思います。素晴らしい映画になり、体験をしました。私はこの映画のプロセスをいかに学んだか、いかに監督の言葉を聞き、監督から出される宿題をやることによりいかに成長できたか、そのインスピレーションの素晴らしさを一生忘れません。
私はトムの作品を全部見ているくらいのファンで、その才能やスターであることに敬意を払っていました。現実に逢って見て、彼は長い経歴に裏打ちされた豊富な知識をもっていて、それでいて謙虚であることに驚きました。ファンの眼から見ても、今回の作品は最高の映画だと思いますし、共演者としても寛大であり、プロデューサーとしてエネルギーと時間を費やすすごさには、敬服しました。

Q.皆さんに、今回はスタッフ・キャストとも理想のメンバーだと評判ですが、今回のチームについてお聞かせください。
トム・クルーズさん——今回プロデューサーも務めたわけですが、監督のビジョンを実現するためには、どんな助力も惜しまない、そんな気持ちで臨んだのです。その一環で、スタッフを集めることがあるのです。スタッフ集めはクロウ監督と、注意深くスタッフを集めました。現場の雰囲気はワークショップのようでした。皆が何かを分担しているという充実感です。そういう経験が、私が映画をやっていて一番好きな部分です。監督は素晴らしい指揮官であり、ペネロペも素晴らしい女優で、楽しい仕事をさせてもらいました。
ペネロペ・クルスさん——素晴らしい雰囲気で、監督・プロデューサーとも仕事のしやすい環境作りをしてくれて、ハードな現場でしたけど雰囲気のよい仕事ができました。
キャメロン・クロウ監督——皆さん素晴らしい経験がある中で、フレッシュな感じで現場に臨んでくれ素晴らしい雰囲気がつくれました。観客の皆さんには、兎に角映画について語って欲しいです。現場でも、スタッフでさえこの場面は夢か現実かとディスカッションしたわけです。ハートから出たリアル・ストーリーであり、楽しいゲームのような映画ですので、ディスカッションして欲しいです。デヴィッドがビルから飛び降り、イメージが飛び交う場面も全て手がかりですから見逃さないでください。

なお、『ヴァニラ・スカイ』は日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にてロードショー公開中!

執筆者

宮田晴夫

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