カンヌ・パルムドール(最優秀作品賞)を受賞した「息子の部屋」をひっさげて、ナンニ・モレッティ監督が初来日を果たした。息子の死をきっかけにバラバラになっていく家族のもろさ、はかなさ、再生する強さ、透明なたくましさを、淡々と描いた同作。社会的な問題を捉えてきたこれまでと比べ、作風は180度変わっている。とはいえ、監督自身は路線を変えるという意識はなく、「皆さん、いろいろといいますが。僕自身は変わったのか、変わらないのか、客観的には観れないんですよ。長い時間をかけ、余りにも入れこんだから客観的にはもう観れない」という。12月6日、銀座西洋ホテルで行われた記者会見を一部中継する。

※「息子の部屋」は正月第二弾ロードショー!!





——まずはパルムドール受賞の感想を。
  カンヌのパルムドールは映画界で最もプレステージ性の高い賞ですよね。そういう認識があったので、非常に嬉しかったですよ。実を言いますと、映画祭で「息子の部屋」を上映した後、私はローマに戻っていました。電話が掛かってきて、カンヌに戻ってくれないかと。カンヌ映画祭は秘密事項が多くてですね(笑)、戻ったはいいものの、どの賞を受賞したのかは全くわからなかった。サスペンスでしたね。どきどきして待った時間が長いものですから、最後から2番目の名前が呼ばれた時、ああ、じゃあ僕はパルムドールかと・・・。待たされただけに感動も大きかったですね。

——「息子の部屋」はこれまでの作風とは違っていますね。
 イタリアのマスコミでも非常に変わったという人もいますし、いやいや一貫性がある、という人もいます。自分自身でいうと、余りに入れこんで、長い期間、ひたっていたので客観的には観れないんですよ。

——前作までは私的か、公的かというと、公的の部分の密度が濃い印象でした。今回はより私的になっている気がしますが。
 控えめな言い方をされていますが、その質問は”政治的なメッセージは何処に行ったか?”という解釈でよろしいですか(笑)。
 確かに私の映画では公的な部分が非常に重要な意味を持っています。
ただ、「息子の部屋」に限って言いますと、特定の時代性を与えたくはなかったんです。たいていの場合、テレビ番組や掛かっている映画、政治集会などでどの時代の物語なのか見せるようにしてきました。今回は家族の物型ですから、敢えて入れなかったというよりも、特に入れる必要性を感じなかったんですね。






——そもそも、何故、”家族の愛”というテーマを選んだのでしょう。
 最初に浮かんだのは私自身が精神科医の役をやりたかったということ。その後、家族の愛というテーマが思い浮かんだんです。

——監督にとっての、家族像とは何ですか。
 現在、家族のあり方は多様化してきています。映画の中で取り上げたファミリーは仲が良く、いつも一緒にいるという、今となってはほとんど珍しいタイプの家族です。もちろん、統計を取ったわけではないですけど、この数%いるかいないかの理想的な家族にすら、秘密があった。隠していることはあったと。それを描きたかったのです。

——息子の死がドラマのターニングポイントになりますが、娘の死というケースは考えなかったのですか。父と娘、あるいは母と息子ではなく、父と息子の関係を描きたかったのでしょうか。
 なぜ、息子の死でなければならなかったのかは、自分では説明がつかないんです。
父と母、娘がいてその下に息子がいる、その息子が亡くなってしまうというのが、頭に浮かんできたアイディアだったんです。緻密に演出したわけではありません。ひょっとするとあと数年も経てば、どういう理由で自分がこれを選んだのか、理解できる日が来るかもしれませんが。

——ハリウッドからはオファーが来てますか。日本での配給はワーナーですけど。
また、ハリウッド映画をどう思いますか。

 オファーは来ていませんね(笑)。ワーナーブラザーズさんは単に配給元ってだけなんじゃないでしょうか(笑)。
 ハリウッドは監督にとっては、従来のやり方を変えていかなくてはならなんいだろうなと認識しています。私はイタリアでしか映画を取ったことがなく、しかもそれに慣れていますね。ただ、作品としてはハリウッド映画もよく観ますし、なかにはいいなと思うものもありますね。

執筆者

寺島まりこ

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