コメディ「サルサ!」ではキューバ人の振りするおバカな美少年、公開中のホラー映画「赤ずきんの森」ではイジワルそうな美少年、そして、実話が元になった新作「父よ」では世にも美しき死刑囚をと、美貌は変わらずともジャンルは見事にばらばらの、仏・新進俳優ヴァンサン・ルクール。去る2001年11月27日に東京・日仏学院で「父よ」のスペシャルプレビューが行われ、試写終了後には舞台挨拶に駆けつけた。言葉数は決して多くないが、謙虚で真摯な姿勢に好感が持てるヴァンサン。「これは監督の作品です。3ヶ月以上一緒にいましたから、監督に対する質問でも僕が代わりに答えられると思います」と言う。本作の監督はフレンチ・フィルムノワールの巨匠であり、脱獄映画の金字塔「穴」の脚本兼原作者であり、同作品の実体験者であり、つまりはかつて死刑囚だったジョゼ・ジョバンニ。「父よ」も監督の死刑囚時代とその後の話がベースになったもので、彼の分身をヴァンサンが演じている。

※「父よ」は2002年6月上旬より日比谷シャンテシネにてロードショー!!








——ジョバンニ監督から何かアドバイスはありましたか?
ヴァンサン・ルクール アドバイス以上でしょうね。撮影に入る前、かなり長い間、話を聞かされましたから。それを聞くうちにどうやって演技したらいいのか、掴めるようになりました。このやり方はジャン・ルノワールに始まり、ジャック・ベッケルに伝わり、そしてジョバンニに受け継がれたものです。

——例えばどんな話を聞きましたか。
若い日の思い出、囚人時代の話…。意識しないで聞いていた数々が、最終的に演技の助けになりました。ジョバンニに最初は畏敬の念を持ち、そして今では、その気持ちは深い友情に変わっています。

——演技で参考にした映画はありますか?
ショーン・ペンの「デッドマン・ウォーキング」は観ました。でも、何かを参考にするというより、本能的に演技したという部分が強いでしょうね。

——撮影の殆どの時間、手足を鎖でつながれていたんですよね。どんな気分でしたか?
 演技の助けにはなりましたね(笑)。ただ、実際は足の大部分はひもで結んでいたんです。歩くたび、音がすると録音上の問題が生じますので。

——終盤のナレーションがすごく良かったんですが、あれは誰がやっているんですか。
 監督本人です。

——ジョバンニ監督っていつも「ラコステ」を着てますよね。くだらない質問で申し訳ないんですが、何か知っていますか?
……(笑)。そうですね、いつも着てましたね(笑)。契約しているらしいですよ。

——さまざまな役に挑戦されてますが、出演のポイントって何でしょう?また、役柄によってテンションは変わりますか。
 ストーリーですね。何かを語ろうとしているか、どうかが、大切です。「赤ずきんの森」にストーリーがあったのかと聞かれるかもしれませんが、あの映画もシナリオの段階では物語があったんです。できあがったものとは全然違いましたね。
テンションですが、撮影に入る前は言ってみれば、コップの水を空にするような感じですね。何からも自由で、何を入れることもできる。そんな状態に自ら持っていきます。

——基本的な質問ですが、何故、俳優という職業を選んだのですか。
 自由な表現をしたかった。俳優というのはその最短距離だと思ったからです。

執筆者

寺島まりこ

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