鮮烈で美しいセックスシーン…新しい愛情の表現を試みて、韓国で女性の支持を得た秀作『寵愛』。日本公開に先立ち、主演女優イ・ジヒョンさんに、映画への想いをインタビューしてみた。女優業の一方、ソウル芸術大学の女子大生でもある彼女。完璧なボディと端正な顔立ち、その表情に漂う初々しさがまぶしい…!





——「寵愛」に出ることになった経緯を教えてください。
「ある演劇に出ていた時に、ある人から“これから作る映画のシナリオがあるんだが、
読んでみないか”と言われまして。“若干の身体の露出はあるけれど、とりあえず読んでほしい”と手渡されたわけです。そのシナリオを読んでみて、シナリオというより絵本のような感じを受けました。そして“これを映画で撮ったらとても綺麗になるんじゃないかな”と思ったんです」
——あなたの演じるヒロインについて、どうとらえ、どう表現なさいましたか?
「ネコですね。ネコは身勝手。主人が可愛がろうとすると逃げちゃうし、“今、忙しいからあとで”というと反対にまとわりついてきたりする。そういうネコのイメージが彼女にはあります。自分を愛してくれる人にはそっぽを向いて、自分が追いかけたい人だけ追いかける…彷徨う女とネコとは、共通項が多いなあと思いました」
——この映画で、特に気に入ってらっしゃるシーンはどこですか?
「一番思い入れがあるのは、作家の彼と大喧嘩するシーンです。他の男に会いに行った彼女は、顔や身体にアザを作って帰ってくる。その時、作家の彼にとても優しくされて、逆にキレて爆発するわけです。そのシーンを撮るために、私は前日から何も食べませんでした。彼女の切なさやみじめさ…声も元気がないような…そういう感じを出したかったので。台詞も、あのシーンはアドリブが多かったので、自分で思ったままをぶつけてみました。そんな風に私なりに努力をしたので、印象深いシーンですね。
 もうひとつは海に入っていくシーン。撮影が3月か4月だったんですが、その頃の韓国はまだ寒いんです。一度はうまく撮れたんですがカメラの故障のためにNGになってしまい、撮り直したのは夕方7時頃。それで本当に寒くてね、死ぬんじゃないかと思ったくらいです。忘れられません」
——でも、寒そうに見えなかったですね。
「海のシーンだけでなく、全般的に撮影は寒かったんですよ。ふたりが長い時間を過ごす作家の家も寒かった…。私としては残念です、もっと寒そうに見えたほうが良かったんですけれど(笑)。でもなんだか作り手が上手くて、暖かみのある作品にできあがっていますよね」




——この作品で描いている“肉体を通した愛”について、どう思いますか?
「ヒロインの職業自体がヌードモデルで、もともと体を使うお仕事ですよね。それに、たぶん彼女は何度も男に恋をして捨てられて…というのを繰り返してきたと思う。そのたび、言葉で“愛している”と言われるより“直接肌で感じてこそ初めて愛だ”と思ってきた女性だと思うんです。基本的に言葉を信じない女。この映画はまさに言葉ではない“肉体を通した愛”を表現していると思います。
 映画を見て、彼女のことを“男好きのただのやりたい女”みたいに見る方もいらっしゃるかもしれません。でも彼女は、皮膚と皮膚
との触れ合いを通じて初めて“この人を愛しているんだ”と感じ取る女なんだと思います。彼女にとって一番大事なのは“体温”。触れ合う体温ですね」
——セクシャルなシーンがたくさん出てきますね。舞踊家のアン・ウンミさんが演技指導をしたそうですが、どんな指示を受けて、それをどう表現なさいましたか?
「監督はもともと言葉の少ない方だし、むずかしい言葉でその時の男女の関係を表わすんです。だから、演じる俳優のほうはなかなか監督の思いを汲み取れない。その間に入って、アン・ウンミさんが“こういう感じじゃない?”と…。彼女は舞踊家です。舞踊家はもともと、ひとつの言葉からイメージを膨らませて身体で表現するのが上手な方たちですからね。“こういう感じかな”と指先のひとつひとつの動きまで意味づけをして、丁寧に指導してくださいました」
——この映画を作りながら、演技ではあるけれど、あなたも“体温”や“肌を通しての愛情”を感じましたか?
「じつは演じていた時はそうもいかなくて…。撮影がオープン撮影だったんです。すごく大勢のスタッフの中で、ふたりが絡むシーンなどを撮っていたんですね。だからそういった余裕はなく、ただ必死に演じていたという感じです。相手役のオ・ジホさんはステキな方なんですけれど、顔を見ていても顔もわからなかったほど(笑)。それほど緊張していました」
——この作品が出来上がった時、改めてご覧になってみてのご感想を聞かせてください。
「そうですね。撮影の途中、打ち合せのためにフィルムを見たりした時は“こんなに露出がある。ただエロを追求した映画になってしまうんじゃないかしら”と…一瞬そんな心配をしたこともあります。でも出来上がった映画を見た時、露出やベッドシーンは確かに多いけれど、“本当にいい映画だな”と私自身、感じることができました。友人や家族も“とても綺麗な美しい映画だね”と言ってくれましたし。この映画を撮ったことに、今はとても満足しています」
   取材・構成/かきあげこ(書上久美)

執筆者

かきあげこ(書上久美)

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