長篇作品としては『夢二』以来10年ぶりとなる新作『ピストルオペラ』が、先頃開催されたベネチア国際映画祭で好評のうちに上映され、また映画祭より“偉大なる巨匠にささげるオマージュ”としての記念盾が贈られた鈴木清順監督。その報告と作品の披露を兼ねた記者会見と凱旋記念試写会が、9月25日に開催された。
当日は、清順監督と監督曰く「女一人でもてこずるのに、三人ですよ。私の心中をおさっしください」と苦笑いさせた、魅惑的な3女優、江角マキコさん、山口小夜子さん、韓英恵さんらが出席、真摯に応える女優陣と“偏屈爺風(笑)”に質問者や司会者を困らせる清順監督の悪戯気が妙にマッチした、ユーモラスなものとなった。









 会見は、鈴木清順監督の報告からスタート、「会場で突然盾をあげるってことになりまして、びっくりして盾を落とした。会場は爆笑の渦につつまれてね。それくらいかな」と冗談か真実か判別のつかぬ飄々とした様子で話す。笑い声の溢れる会見場では、ベネチアで落としたというくだんの盾も披露された。また、10年ぶりの新作ということに関しての質問にも、「10年ぶりといっても、身についた仕事ですから、それ程に気張ったものでもないし、言ってみれば日活のアクション映画を撮ってるつもりで撮りました」と自然体に答える。今作の主人公である黒猫役は、「第1に美しくないといけない、第2に品がないといけない、そして今回はアクションだから身のこなしの軽やかな人」とのポイントから、江角マキコさんを起用したそうだ。
 「光栄です。ファンだったので、準備高の段階から是非やらせていただきたいと思いました」。監督の言葉を受け答えた江角さんは、この日は和服ではないけれど、劇中と同様なしなやかさを感じさせる黒い洋服姿。ベネチア映画祭にも清順監督と一緒に参加してきた。『幻の光』出演時に続き二度目のベネチア行きだったそうだが、映画祭自体は前回よりも華やかになった感想を持ったそうだ。「清順さんのスタイルは、言葉が独特で小説を読んでいるように楽しめるのですが、そのあたりがどれだけ伝わるか不安だったのですが、最後まで沢山の観客に観ていただいて、拍手をいただいた時は感動しました」と当日の様子について報告した。
 ギルドの代理人を演じたのはモデルなど多岐に渡って活躍を続ける山口小夜子さん。「映画を観るのは好きですが、出るということは思っていなかったんです。今回鈴木組みに参加して、スタッフの皆さんが一丸となって監督のイメージを形にしようとする素晴らしい姿勢、温かい現場を共有できて幸せでした」と本格的な役者として参加した現場のムードをふりかえり語った。
 本作の少女・小夜子がデビュー作となる韓英恵さんは、現在11歳。多くのマスコミ陣を前にして、流石に緊張を隠せない様子だったが、撮影現場でも「おじいちゃんのように優しかった」清順監督に助けられながら「楽しかったです」と挨拶した。実の孫とお爺さんのような二人の共犯?関係は、その後の舞台挨拶でも続けて発揮されるのだった。











 一行は会見終了後、TOKYO FMホールで行われていた凱旋記念試写会での舞台挨拶へ。作品を観終わって満足気な多くの観客から、熱狂的に迎えられた。なお、舞台挨拶の殺し屋・無痛の外科医に扮したヤン・B・ワラドストラさんも参加した。
 先に紹介した清順監督の「女一人でもてこずるのに、三人ですよ。私の心中をおさっしください」言葉などゲストの皆さんが一言づつ挨拶をしたのに続き、司会の方からの質疑応答タイム。「監督、この作品でスバリ表現したかったものは?」「そんな大それたことは考えてません。以上です」、「撮影はどうだったでしょうか?」「言ったじゃないですか、女3人に引きずられて大変だったって、ちゃんと話しは聞いといてください」…といった感じで、定番ともいうべき質問をことごとく交わす清順監督に、司会の方もタジタジ。勿論、会場は爆笑の渦だ。それでも、気を取り直して質問タイムは続いていく。
 江角マキコさんには、清順監督との仕事に関してが尋ねられる。「監督は破天荒だったり、アバウトに見えたりするんですが、とても緻密な方です。ですから、言葉を交わすのも野暮なので目を見て、現場で感じながら演じてきたんです。とにかく、自由にやらせてくれるふりをしながら、実はあまり自由ではない。そういうやり方が、とても緊張感があって大変だったんですが、いい経験でした」。舞台中央で、江角さんが真摯に演出術を語るその脇では、なにやら監督と韓さんが二人で何やら必死の様子で向き合っている。実は受け答えはコリゴリとばかりに、マイクをお互いに押し付けあっていたのだった。この微笑ましい騒ぎに腰を折られ、「何の話しでしたっけ?」と苦笑する江角さんだった。
 今回の作品に、衣装などのコーディネートでも参加していた山口小夜子さん、役作りに関しては兎に角何も考えないよう心がけたとか。「朝、現場に行きますと監督が一言何かおっしゃるんです。その一言で、魔法にかかるような感じ」と答えた。これもまた清順監督ならではの、ある種の演出のマジックか?
 なお、やはり最初は緊張気味の様子だったけど、清順監督とのおふざけでちょっと舞台にもなれてきた感じの韓英恵さん「はじめは判らないことがいっぱいあったけど、監督がいっぱい教えてくれたのですごく楽になりました」と初々しく答えたが、映画を観ての感想は小さな声で「わからない」。いやいや、これは無理のないこと。でも、然程遠くない未来には、自分がすごい映画に出ていたことに、気づく日がくるだろう。
 舞台挨拶にだけ登場したヤン・B・ワラドストラさんは、本作では英語指導でも参加している。「ちょっと暗いと感じたけれど、やはり綺麗な映画ね。私綺麗なものが好きだからさ」と語ったヤンさんだが、その本職は、彫刻家であり針灸士なのだそうだ。無痛の外科医という役柄は、気持ちかすってる…のかな?。
 そうこうする内に舞台挨拶の時間も残りわずか。司会の方から締めの言葉をお願いされた清順監督、「3人の女どもから愛想づかしされたんで、何もいうことはありません」と会場の期待?を裏切ることなく、爆笑に包まれて舞台挨拶を終えたのだった。

なお、『ピストルオペラ』は10月27日より、テアトル新宿、渋谷シネパレスにおいてロードショー公開。

執筆者

宮田晴夫

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