前作以上の大ヒットを記録した『ラッシュアワー2』が、現在公開中。ジェッキー・チェン扮する香港警察リー捜査官と、クリス・カーター扮するロサンゼルス警察のカーター捜査官が、香港、ロサンゼルス、ラスベガスを舞台に繰り広げるアクション・コメディである。2人の主人公がカルチャー・ギャップに苦しむ姿に笑い、ジャッキーのアクロバティックなアクションに目を見張る、爽快な娯楽作といえようか(賛否両論あるだろうが)。
 立て続けにヒット作を放つブレット・ラトナー監督に、本作のことや次回作のことについて、アレコレ尋ねてみた……。
(撮影:中野昭次)




Q.映画監督になる前は、ミュージック・ビデオの監督をしていたようですが、どんな理由からですか。
「自分は子供の頃から映画監督になることが夢でした。8歳の頃、僕はマイアミ・ビーチに住んでいたんです。ある時、ムービー・カメラをもらったことで、学校をズル休みして、友人に色々な役を演じてもらって、映画を作ったりしていました。友人には、麻薬の売人だとか、警察だとか、娼婦とかね(笑)演じてもらってね。それでカンフー&ブラック・プロイテーション的な刑事映画を撮ったんですよ。それから12歳の頃、ブライアン・デ・パルマ監督の、『スカーフェイス』の撮影にエキストラで参加してたんですよ。そこでデ・パルマ監督がパチーノに演出している姿を見て、僕は将来、あの人のようになりたいって思ったんです。とにかくストーリーを語る監督になりたかった。だから本来、長編映画を撮りたかったわけですが、ミュージック・ビデオの仕事がたまたま続いてしまったわけですが、ミュージック・ビデオはあくまで映画監督になるための手段でした」

Q.とにかく夢だったメジャーの映画監督になれて、おめでとうございます。でも、まだお若いですよね。おいくつなんですか。
「今、31歳です。8歳からずっと映画監督になりたいと思い続けてきたわけで、一夜にして映画監督になったわけではないですよ(笑)。常に信念を保ち続けてきたことの成果だと思うんです」

Q.大ヒット作の続編『ラッシュアワー2』を作るにあたり、注意した点はありますか。
「注意した点は、派手なアクションにすることと、ユーモアを強調して、よりコメディ映画らしくすることでした。ジャッキーとクリスを登場させるのはもちろんですが、新鮮な顔としてチャン・ツィイー(代表作は『グリーン・ディスティニー』)に出てもらい、ロケに関しても香港だけでなく、ラスベガスを盛り込み、よりエキサイティングな作りにしました。でも、全てがキャラクターから生じる状況での笑いやアクションなんです。ただ、あくまでストーリーを重視してますから、チャン・ツィイーが出ているからといって、急にワイヤーアクションを見せるようなことはしないようにしましたね(笑)」




Q.1作目があれだけ大ヒットしたので、それ以上の娯楽作を求められていたと思いますが、プレッシャーはありませんでしたか。
「もの凄いプレッシャーがかかってしまいましたよ。撮影前は、もっと太っていましたが、プレッシャーで痩せちゃって、御覧のように、シャツがダボついちゃってるんだ(笑)。とにかく、あれだけ大ヒットしたんで、ジャッキーやクリスのセリフ……例えば、“僕の口から出ている言葉が分かるかい?”とか、“黒人のラジオに絶対に触れちゃあいけないよ”とか、子供たちが真似して使ってるんだよ。今回も、皆が覚えて使えるようなセリフを入れようと思案しました。とにかく毎日がチャレンジの連続でしたね」

Q.『ラッシュアワー』には、アメリカで当たる3要素……刑事アクション、コメディ、バディ(2人組)物が盛り込まれていたと思いますが、いかがでしょうか。
「私が思うに、バディ映画は、昔から当たるジャンルだと思うんです。『明日に向って撃て!』(69)のブッチとサンダンスが典型だと思います。2人の俳優のウマが合うと、非常に楽しく面白い映画ができるし、そこにアクションとコメディを融合させたわけです。しかも『ラッシュアワー』の2人のキャラが、“水から出された魚”の要素があるから、面白いんです。英語で、よく“水から出された魚”という表現を使うんですが、いきなり、言葉や文化も分からない、場違いなところに連れていかれて、迷子のような状況になってしまうことを言うんです。そういう状況って、大変コメディを作りやすいんですね」

Q.『ラッシュアワー2』は、1作目の逆パターンですね。1作目ではジャッキーがロサンゼルスへ行きましたが、今回はクリスが香港にやってくるという展開ですからね。香港の街はどんな印象でしたか。
「子供の頃から、『燃えよドラゴン』(73)の大ファンなんです。今回のオープニングなんて、『燃えよドラゴン』を真似てるんですよ。音楽も同じ、ラロ・シフリンですからね。また『燃えよドラゴン』の中で、ママさんが商売女たちを並べて、その中からジム・ケリーが女性を選ぶシーンがありますが、そのシーンをクリスに真似させてるんです(笑)。とにかく『燃えよドラゴン』は、今まで百回ぐらい見たと思いますよ(笑)。今回、香港に行った時にも、現地の人に、『燃えよドラゴン』のこのシーンは何処にあるの? 何処で撮影したの?って聞き回って、案内してもらい、写真を撮りまくりましたね」



Q.ブルース・リーを陰とすれば、ジャッキー・チェンには、陽のイメージがあります。監督から見た、ジャッキーの印象を教えて下さい。
「ジャッキーを表現するとしたら、最も世界で偉大なエンタティナーと言いたいですね。彼は肉体的なコメディを駆使したスタイルがありますが、それは無声映画時代のバスター・キートンやチャールズ・チャップリン、ハロルド・ロイドといった俳優から、インスピレーションを受けてるんです。その笑いは、普遍性のものだと思うんです。彼は、アジアだけでなく、世界中の誰にでも分かりやすい表現をしています。また、彼ほど、何でもできる人はいませんね。唄えるし、武術もスタントマンもできるし、俳優としても、ものすごい幅を持っている人だと思います」

Q.現在、ジャッキーは、アメリカでどの程度の認知度があるのでしょうか。
「『ラッシュアワー』公開以前のジャッキーには、ごく一部の熱狂的なおたく映画ファンがいましたが、その公開後には、トム・クルーズやトム・ハンクスと肩を並べるほどのトップ・スターになりました。特にティーンエイジャーの間では、大変な人気ですよ」

Q.クリス・タッカーの印象はどうですか。
「私が10歳の頃のエディ・マーフィーのような存在ですね。面白いだけでなく、幅広い役柄をこなせると思います。常にまくし立ててるイメージがあって、ドラマチックなモーメントはありませんが、大変落ち着いた演技ができる俳優だと思いますね」

Q.『ラッシュアワー1&2』は、コメディ要素が強いですが、ジャッキーを使って、ハード・アクションを監督したいと思いませんか。
「自分としては、できるだけ多くの観客に見てもらいたいので、アクション映画を作ってしまうと、まず女性客が減ってしまう。だからアクションとコメディの両要素があった方がベストだと思いますね」




Q.『ラッシュアワー』は、今後シリーズ化する予定はあるんですか。もしあれば、どんなアイデアがありますか。
「そうですね、自分が出資しているわけではないので明確には言えませんが、たぶんね(笑)。とにかくニューヨークからスタートします。『ラッシュアワー2』のラストが、ニューヨーク行きの旅客飛行機の便に乗るところで終わっていましたから。それは映画としたらほんとに短い時間で、そしてマジソン・スクエア・ガーデン、プラザ・ホテルへ行って……やがて、今回は2人共、“水から出された魚”になるような設定になると思いますよ。頭の中に少し具体的になっていますが、それ以上は言えません」

Q.ラトナー監督にとって、コメディはお好きなジャンルなんですか。
「最近の監督って、ひとつのジャンルに固執する方が多いですが、昔の監督って、西部劇を撮ったり、コメディを撮ったり、そうかと思えばミュージカルもやったりしてましたよね……僕も、そんな監督を目指しています。だから、ロマンティックなラブ・ストーリー『天使のくれた時間』(00)を監督したんです。できるだけ、やってみたことがない作品に怖がらずに挑戦してみたいですね」

Q.これは見ていて気になったことですが、『ラッシュアワー2』の劇中、ラスベガスに“レッド・ドラゴン・ホテル”が登場しますよね。これって、噂のハンニバルの次回作『レッド・ドラゴン』を監督したいってことの意志表示なんでしょうか。
「ノー(笑)。自分の思いつきで“レッド・ドラゴン・ホテル”と命名したわけで、実は『ラッシュアワー2』の撮影終了後に、『レッド・ドラゴン』のオファーがあったんですよ(笑)。これって、運命的なものかもしれませんね。撮影は2001年の11月から始まり、ハンニバル役には当然アンソニー・ホプキンスが演じて、刑事グラハム役がエドワード・ノートン。その他にエミリー・ワトソンの出演が決まっています。脚本は『羊たちの沈黙』のテッド・タリーで、原作に割と忠実になると思いますよ」




Q.コメディから一転、シリアス物に挑戦するわけですね。
「コメディでなくても、脚本が良ければ、いい映画はできると思っています」

Q.現在、映画監督という夢をかなえてしまったわけですが、次なる夢はなんですか。
「結婚して、良き家庭を築くことです(笑)」

Q.最後に、『ラッシュアワー2』を御覧になる日本の観客に対して、何かメツセージを御願いします。
「1作目を気に入った方、或いはジャッキー・チェンの大ファンの方は必見だと思います。前作よりパワーアップしてますし、コメディ部分も笑えますよ。しかも今回は新鮮なキャスティングができたと思いますよ。ちなみに続編の映画って、主役に頼りきっている作品が多いけれど、この映画は、主演の2人が出ていないシーンでも魅力的な共演者が多いんです。サウンドトラックも素晴らしい。今回は、宇多田ヒカルさんの曲を使っているけど、ソウルを持っている日本女性だと思いましたね。彼女の曲を聞いた時、印象がマライア・キャリーに似ていると感じたんです。とにかく今回の映画は、全てにおいて、“イースト・ミーツ・ウエスト”の要素を含んでるんですよ。是非、劇場で楽しんで下さいね」
(2001年9月、新宿の某ホテルにて)

 ブレット・ラトナー監督の次回作が、トマス・ハリス原作の『レッド・ドラゴン』に決定したことに大変驚いた。『ラッシュアワー』とは異なるジャンルだが、いかなる手腕を披露してくれるのか、大いに楽しみである。その前に、『ラッシュアワー2』で彼の力量を見てみるのもいいかもしれない。

執筆者

映画文筆家/鷲巣義明

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