北海道の外れの、奇妙な名前のドライブイン「空の穴」。近所の人間か長距離トラックの運転手以外、普段は誰も寄りつかない。平穏な暮らし、昨日も今日も同じ日々。ドライブインの料理人・市夫(寺島進)は、明日に特別な夢も持たず、覇気もなく暮らしていたが、或る日、旅の途中で恋人に捨てられた娘・妙子(菊池百合子)が店にやって来た事から・・・。
スクリーンの中に、何人もの俳優がいる。今は同じ映画の中にいるが、それまでに一人一人が辿って来た道程は、映画の登場人物以上に、様々なのだと思い当たる。その中に一人の見知った顔を見つけた。権藤俊輔・・「日本の役者は殺陣が出来なくては」と、初めて会った時、彼はそう言った。撮影所の裏手で、彼は黙々と竹刀を振るっていた。その頃、彼はスーツアクターとして、ウルトラマンの中で、汗を流していた。「ウルトラマンティガ」から「ウルトラマンガイア」まで、あのスタイリッシュな平成ウルトラマンのシルエットは、彼の節制と努力とが大きな役割を果たしている。しかし、それは彼にとって、役者としての通過点に過ぎなかった。スーツアクターを卒業した彼は、今度は映画という分野で、自分の可能性を探し始めている。





まず、この作品への出演の経緯について、教えて下さい。
ある方面から新作映画の企画の話がありまして、それでイメージにあった役者さんを探している、ストーリーの内容を読んでみてくれと。読んだ上で色々な感想を言ってみて「これは僕じゃないですね」と思ったんですが、逆に監督の方から興味を持っていただいたみたいで、話が進んで。

熊切和嘉監督とはその時まで面識はなかったのですか。
全くなかったです。前作「鬼畜大宴会」の存在は知ってはいましたが、見てはいませんでしたので、監督に会う直前に見ました。

最初、「僕の役じゃない」と思ったという事ですが、どういう所が合わないと思われたのですか。
最終的に形になったものより、役の設定が年齢的にも上だったんです。それから僕のイメージと擦り合わせたというか、監督がそういう風に当て書きしてくれて。

本格的な映画への出演は、これが初めてですか。
「五条霊戦記」はありますが、あとはウルトラ関係ばっかりで。演技者として役を演じるという事になると、これが初めてですね。

北海道の方には4日間行かれていたそうですが、撮影現場はいかがでしたか。
撮影は昨年の8月でした。ひとつの役を与えられた責任感と同時に、寺島進さん始め、他の役者さんの足を引っ張っちゃいけないなという緊張感の方が高かったですね。現場の雰囲気的には場慣れしているので、緊張感はなかったんですけれど。芝居でからむ相手の人に邪魔にならないように気をつけました。



TVドラマの「ウルトラマンガイア」のチーム・シーガルの神山リーダー役で出演されていましたが、TVと比べて違う所は。
時間のかけ方が全然違っていました。またやっぱり作品の性質の違いもあるんですが、わかりやすく明瞭にという子供向けのドラマとは違って、内から内から出て行くような、人間味のある芝居を要求される点が違いました。

スーツアクターと併行して隊員役をされていた時は、切り替えが難しいとおっしゃっていましたね。今回は「山崎」という役に専念出来たわけですが、この役作りについて、特に気をつけた点はありましたでしょうか。
山崎という人間は、家族を大切に思っているし、家族を裏切る行為は絶対しない男だと思って演じていました。あとは、あまり作る事を考えて演じてはいなかったです。割とニュートラルな感じで現場に参加しました。髪の毛も現場で切ったんですよ。監督の指示に委ねて、委ねて・・あんまりがちがちに固めていくと失敗するだろうというのは、わかっていたので。

寺島進さんとは今回初共演ですが、いかがでしたか。
寺島さん自身は、以前から面識はあった方なので、僕がこの作品に参加する事は決まった後、監督も交えて飲みにいった時も、割と気さくな感じで入っていけました。現場でも色々アドバイスをいただいて、非常に助かりましたね。

妙子役の菊地百合子さんとのからみもありますが、彼女はどういう方でしたか。
最初会った時に不思議な雰囲気を持っている方だなと思いました。それが画面で光っていて「ああ、妙子にしか見えない」という感じでした。どうしても台本を読んでいる時は、自分の身の回りとか既存の役者さんとかに当てはめて、読み進めていく作業の中で漠然と描いていた妙子像と「この子が妙子だよ」と言われた時のイメージとは違ったんです。でも撮影が始まったら「監督の考えていた妙子とは、こういう感じなんだ」と納得しましたね。



現場での監督の演技指導などは、どんな感じでしたか?
あの方は「映画を撮るのが楽しくてしょうがない」という感じなんです。それが見てても伝わるんですよ。うれしくて楽しくてしょうがない、だから作品への思い入れもすごい。それを感じるからこそ、この現場では、一生懸命芝居しようという気になりましたね。それはどの現場でも当たり前の事ですが、特に感じました。

役者としてもやりがいがある。
そうですね。自分でも気づかなかった、ちょっとした癖とか表情とか「それ、いいね」と肯定的に使ってくれる。監督も色々ですけれど。また呼んでもらえるなら、ぜひご一緒したいですね。

どういうところを「それ、いいね」と監督はおっしゃたのですか。
口元の動きとか、マイペースさとか。セリフとセリフの間の独特の間とか。だから最初に面接した時、40分位雑談していたんですが、その時に色々と感じてもらったのかなと。

映画の中で権藤さんが、生き生きとされているのは、監督や現場の雰囲気もあったのでしょうね。
作品の質の違いもあると思うんですよ。「ガイア」の時は群集劇でしたから、その中でどのポジションに自分の役があるか、考えていました。

「ガイア」の時は、硬い雰囲気の役でしたね。
あの時は、レスキューだった方からもお手紙をいただいたんですよ。すごく誉めていただいて、吃驚しましたよ。「レスキューに従事していたんですが、現実の辛さや理想とは違う現実に出会って退いたんだけれども、貴方の演じてくれた役は自分の過去を誇りに持てる内容だった、ありがとう」と。そういうのは嬉しいですね。

撮影を終えられた時はいかがでしたか。
今回は現場がとても楽しかったですね。雰囲気は良かったですし。あのドライブインで皆スタッフは寝泊りしていて。僕等は近くの民宿に泊まっていましたが、スタッフは合宿生活で。僕もそっちを体験したかったですね。結果として良い思い出になっていますね。




権藤さんは佐賀県のご出身で、高校卒業後にジャパン・アクション・クラブ(JAC)へ入られたそうですが。
僕は高校を卒業したのは、19の時なんですよ。中学を出てから1年遊んで、やっぱり高校へ行こうと思って入学して。将来やりたい事を考えた時、その頃、映画に魅了されていた時期で、僕は作品を撮る側になりたかったんです。でも目立ちたがりだったのと、飛んだり跳ねたり出来るのは若いうちだけだし、それが出来るのは今しかないなと思いました。

それでJACへ入門されたのですね。
僕は千葉真一さんの柳生十兵衛が好きだったので、ああいう技術や技を勉強したいなと思ったのでJACへ入ったんです。2年間の訓練生活が終った時、登別の忍者村へ行く事になって。僕は泥臭い立ち回りが好きなんですよ、上品な立ち回りより。忍者村ならそういうのが出来るのと、九州出身なので北の方へいってみたかったし。最初は「日光江戸村へ行ってくれ」と言われたんですが「北海道の方に行きたい」と。「どうして」と聞かれて「カニが食いたいんです」と。それがウケて、行く事になって。その後2年位して「このままでいいのかな」と思い、JACをやめて東京に帰って来て、ぶらぶらして、そのうちVシネとか出て・・。そのうち「ウルトラマンティガ」のオーデションの話が来て。

ウルトラマンの体型を維持していくのが大変だったそうですね。
暑い時期には痩せていくのに勝てなかったんですが、当時は常に努力していましたね。今でもあると思うんですが・・(手帳を開いて示して。そこに理想のウルトラマンの体型について、彼の言葉で書いてある)これをいつも見て、戒めていましたね。もう少し大胸筋を鍛えなきゃとか。

スーツアクターの時代を振り返ってみて、いかがですか。
がむしゃらにやってましたね。撮影は大変な事ばっかりでしたが、これは時間が経てば、楽しい思い出しか残らないなと思いましたね。

今後についてお聞きしたいのですが、どういう方面を目指していきたいですか。
人間臭いドラマが好きなので、そういうのをやりたいですね。

以前、時代劇もやりたいとおっしゃっていましたが。
殺陣は得意な分野ので、やりたいですね。逆に嫌いなのはワイヤーアクション。日本の伝統的な、ああいう立ち回りがやりたいですね。

最後に、映画をご覧になる方に一言お願いします。
北海道の田舎で、恋愛に恵まれなかった主人公と突然の旅行者との織り成す小さいドラマなんですが、そこには人間味あふれる色々な情景が描かれていて、笑えるし、泣けるし、素敵な作品ですから、ぜひ見て下さい。

ありがとうございました。
「空の穴」は渋谷ユーロスペースにて9月29日よりロードショー。11:15/13:45/16:15/18:45
順次、大阪、名古屋他、全国各地にて公開予定。
*初回は、熊切和嘉(監督)、寺島進、菊地百合子、澤田俊輔、権藤俊輔、外波山文明による舞台あいさつを予定。1回目上映前(11:00)、2回目上映前(13:30)に挨拶があります。

執筆者

鈴木奈美子

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