20世紀の100冊に選ばれたルイ・ド・ベルニエールの大ベストセラー小説を、ニコラス・ケイジ、ペネロペ・クルスら実力派豪華キャストにより、ギリシア・ケファロニア島の美しい景色の中で描かれた限りない愛と人生の賛歌『コレリ大尉のマンドリン』が、9月22日よりロードショー公開が始まる。
 この詩情溢れる作品を監督したのは、アカデミー賞7部門受賞の『恋に落ちたシェイクスピア』で知られるジョン・マッデン監督。作品のキャンペーンのため初来日を果たし、9月3日に帝国ホテルにて記者会見が開催された。
 会見の席に着いたマッデン監督は会場に向かい、「お昼時でお忙しい中、ありがとうございます」と気配りの挨拶。会場に集まった大勢のマスコミ陣を前にして「ここに座って、初めて俳優さんの気持ちが判りました(笑)」。
 質疑応答が終了したところで、舞台には藤崎奈々子さんが花束のプレゼンターとして登場。映画に感激し「私もコレリ大尉のような人に逢えたらいいなぁ…とそういう映画でした」と話した藤崎さんから花束を渡されたマッデン監督、「女性から花束をいただくのはなんだか不思議な感じだけど、たまにはいいかな(笑)」。






Q.小説の映画化ですが、原作のどおいった部分が気にいって映画化されたのでしょうか?難しかった部分は?また、エンディングを変えたのは何故でしょうか?

「この本は英国でも人気があり大成功をおさめた小説です。それだけに、映画化はとても難しかった。原作には沢山の登場人物が出てきて、また様々な物語が入っています。舞台となる場所も変っているし、戦争という題材も入っていますが、あまり戦争シーンは出てこない稀な作品になっています。惨事もあれば歓びもあると様々なコントラストがあります。映画化には難しい題材だと思いましたが、監督としては難しければ難しいほどやりがいがあります。
エンディングに関しては、公開前ですのであまりふれたくないのですが、原作と映画の方の違いは、時間の経過を短くしたくらいで作品の意味的には変っていないと思います」

Q.素晴らしい演出でした。監督の演出プランを教えてください

「一言では語れない質問ですね(笑)。監督はまず自分の頭の中でその映画をつくり、その世界を皆さんにお見せしなくてはならない。そのために、映画を観ていただく側だけでなく一緒に作っていく側にも、その世界を見るような気持ち・情熱を心のそこから持っていないと皆さんを動かすことはできないと思います。そうした作品に対する気持ちがとても大切なのですが、自分で考える監督・演出の仕方はとても本能的で直感的です。多分、各国の観客の方々が、自分と同じような感情を持っていると自分では思って映画を撮っています。例えば、編集してこの部分は使えないと思った部分は、観る側も同じような気持ちを持つだろうと思いながら切っています。自分が語りたい物語を頭の中で踏まえ、自分のスタイルで築き上げていくのです」







Q.マンドラス役のクリスチャン・ベールは、最初から念頭に置かれていたのでしょうか?

「私自身、最初はクリスチャン・ベールは考えていなかったのですが、この本を読み役を把握した彼自身の方から是非演じてみたいと申し出があり、オーディションをしたところで直ぐに彼に決めました。実際、今回の配役はギリシア人の役はギリシア人の俳優に、イタリア人の役はイタリア人の俳優に、ドイツ人にはイギリス人…不思議に思われる方も多いかと思いますが、これまでもドイツ人の役をイギリス人がやることは多かったので、それもいいかなと…考えていました。だからマンドラスの役も、ギリシア人の俳優をということでオーディションを行ったのですが、言葉の壁があってギリシア人の俳優で流暢な英語を話す者がなかなか少なかったということもあり、今回はクリスチャン・ベールになりました。彼は今までも様々な役を演じてきたし、かげろうのように役に巧くフィットする俳優だと思います。」

Q.この作品はラブ・ストーリーを表現していますが、観る側にどのようなことを表現したいのでしょうか?

「今回の作品は1941年くらいの戦争中を舞台にしていますが、ラブ・ストーリーと言ってもただ単に男女の愛を描くだけのロマンチックな作品ではなく、コレリ大尉とペラギアのみならず、ペラギアとその父の感情をも表現している作品だと言っても過言ではないでしょう。他にも元々あまり好意的には思っていなかったイタリア・ギリシャという二つの文化が、時間が経つにつれお互いを認識して好意的になっていくというのも、ひとつの愛の形だと思います。そして実際に戦争や地震によってせっかく育んできた愛が壊れてしまう悲劇も盛りこんでいます。ペラギアと父は医師を志す者と現役の医師ですが、医師はただ単に傷を癒すだけではなく、心に出来た傷を癒すという意味も、今回の映画の中では描いているのです。どうしてそんな傷ができてしまったのかということよりも、愛というものを持って生きていかなければならないという気持ちを持って生きていくということは、どんなことがあっても生き抜いていかなければならないのだと。そういう意味も込められています。ロマンチックな面もありますが、様々な経験を経ていく人間関係というものを愛情を含めて描いている作品です」









Q.マンドラスは何故コレリ大尉を助けたのかと尋ねられた時、「愛を取り戻すためだ」と言うわけですが、イタリア兵が皆殺された現場を前にして人道的な理由が先に来るのではないでしょうか?また愛の物語を語りながら、むしろバックグラウンドになっている戦争場面がすごく重要に感じました。監督は戦争映画は初めてだったと思いますが、戦争に対しての比重・気持ちを教えてください。

「おっしゃる通り、マンドラスは実際にイタリア兵たちが撃たれた場所に行って、他のギリシア人の人達と一緒に生存者を探しコレリの生存を知ったわけで、道徳的には正しいことをしていたんだと思います。
私は確かに戦争映画を撮ったことはありません。以前戦争直後の物語をケニアで撮った事はありますが、これだけスケール感のある戦争シーンは初めてでした。作品の中ではケファロニア島が舞台で、映画の前半は戦争中でありながらそれは海の向こうで起きていること、自分たちには実際関わりがないと思っています。それが島でも突然戦争が勃発してしまうわけです。確かに戦争は人の心を混乱させてしまうものだと思いますし、実際未だこの世の中でも戦争というものが起こっているわけですが、過去にあった戦争、例えば2次大戦を振返って、私達が何を学んだのか、どういうことを学んでいかなければならないのか考えていかなければならないと思います」

Q.ケファロニア島は観光化が進んでいるとのことですが、それでも現地ロケに拘った理由はなんでしょうか?また、監督はマンドリンが弾けますか?

「今回来日して、よくマンドリンが弾けるか訊かれたんですが、全然弾けなくて申し訳なく思っています(笑)。ロケに関して、元々この物語がケファロニア島からインスピレーションを受けた作品です。映画でも度のシーンをとってもケファロニア島以外で撮ったシーンはありません。ただ、1951年の地震で当時の建物は殆ど倒壊してしまったので、舞台となる村落などの建物は映画用に全て造り直さなければなりませんでした。あえてこの島で撮ったのは、島が持つ雰囲気、フィーリングそして日常の独特の音をぜひ作品に取り入れたいと思ったからです。また、島の人々は実際にそこで戦争や地震を経験した人が出演したり、アドバイスをしてくれたりして真に迫ったものになりました。費用はかかったと思いますが、予算内でクォリティの高い作品に仕上げることができました。
リゾート開発については詳しくは知りませんが、確かにあの島はもう少し経済的に余裕があってもいいのかなと思います。それでも、今回映画の中で使った二つのビーチにはホテルやレストランなどの商業的なものは一切ありませんでしたし、手付かずの場所も沢山残っています」



Q.監督の前作『恋に落ちたシェイクスピア』でもグイネス・パルトロウが進歩的なヒロインを演じていましたが、今回のペネローペ・クルスも自立したヒロイン像ですね。この役を演じる女優、そして役自体に関して、監督は童言う部分を一番大事にしたのでしょうか?

「私の作品のヒロインが時代の先を行っているというのは、質問されて初めて気付きましたが、確かに女性が中心となって心の旅を描いています。今回はペネロペ・クルスという素晴らしい存在の女優に逢えて、とても喜ばしい気持ちでいっぱいです。彼女は女優としてのスキルだけではなく、有名人として捉えられていることもあると思いますが、本当に女優として素晴らしい。彼女はカメラの前に立つと、演技をするというのではなく、とても透明な部分を持っていてカメラが彼女の心の中に入ってきて、彼女の魂を写し撮るそういう作業をしていたような感じでした。人工的ではなくとても自然に、演技するというのではなく自分が感じたままをカメラに捉えてもらう感じの女優で、その表情から彼女の心、魂が見えるような女優です。美しいのは勿論のこと、フレームによっても雰囲気が違うことも偉大でした。最初に撮影した場面を撮了後に最終的に編集したところ、少女から大人の女へと変化していく演技からは、色々な心の痛みを経験してきた女性の姿をカメラに収められたと思います」

 なお、『コレリ大尉のマンドリン』は、9月22日(土)より丸の内ピカデリー1他、全国松竹・東急系にてロードショー公開!

執筆者

宮田晴夫

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