この夏全米で封切られると前作は勿論、強豪作品ががひしめく夏興行の中でも他の作品を次々と抜き去る大ヒットとなった『ラッシュアワー2』が、日本でも9月22日より拡大ロードショー公開される。前作に引き続きジャッキー・チェンとクリス・タッカーが扮する、全くタイプの異なる香港・アメリカの捜査官、リーとクリスの二人が織り成す絶妙なコンビネーションにはさらに磨きがかかり、香港の工事中のビルでの戦いを始めとするアクションや香港・ラスヴェガスと大洋を越えての舞台など、前作をはるかにスケール・アップした続編になっている。
 この作品の公開に先立ち、前作に引き続き監督したブレット・ラトナーさんが来日し、9月4日にパークハイアット東京にて記者会見を行なった。本作が監督4作目となるラトナー監督は、『ラッシュアワー』、『天使がくれた時間』に続き今回が3度目の来日。現在まだ31歳という若さで、時にはファイティング・ポーズを構えてみせるサービスぶり。実際ご本人は空手の有段者で、その腕はジャッキーにも認められたほど。人なつっこい視線を周囲に投げかけながらも、どことなくハリウッドでナンバー1獲得に裏打ちされた貫禄のようなものも感じられる。「相撲が、日本食が、日本人がそして日本が大好きです。ジャッキーもクリスも日本の大ファンで、『ラッシュアワー』の成功を喜んでいます」と挨拶したラトナー監督は、続いてあの『ハンニバル』『羊たちの沈黙』の前日譚ともいうべき大作『レッドドラゴン』の監督が決まったことを報告し、「来年も、是非日本に舞い戻ってきたい」と会場を沸かせた後、記者からの質問に一つ一つ丁寧に答えた。
 また、質疑応答終了後は、叶姉妹がプレゼンターとして登場、会場に華を添えた。31歳独身のラトナー監督は「最も美しい姉妹に囲まれ、日本で一番幸せな男になりました」と、華やかなゲストに満面の笑みを浮かべていた。








Q.前作を越える大ヒットとなった勝因はどこにあったと思いますか?また、前作を作っている時に『2』の構想はあったのでしょうか?

「『2』がヒットした一番の理由は、やはりジャッキー・チェンとクリス・タッカーのコンビネーションだと思うよ。前作の時も素晴らしかったが、今度はさらによくなっている。そして前作が成功したことを受け、製作費が前作の3200万ドルから今回は1億ドルと約3倍と大幅に増やすことができたんだ。これによって、大規模なセット、様々なロケ地での撮影、そして撮影に充分な日数をかけることができたんだ。アクション場面にしろコメディ場面にしろ、全てがパワー・アップしているんだ。
続編に関しては、前作の撮影中から1作目が撮れたらいいなぁという気持でした。1作目のラストで、二人は香港へと向かっていったよね。だから、1作目が成功したら、二人は無事に香港に着いて物語が始まる、失敗作だったら飛行機が墜落して亡くなってしまったことにしようと言っていたくらいだね。それで、今回も二人がニューヨークに向かう設定なので、成功すれば『3』に繋がると思います。」

Q.香港、ラスヴェガス、ロサンゼルスを舞台に選んだ理由はなんでしょう。また、香港での撮影中のエピソードなどがあれば、お願いします。

「香港を選んだのは、前作のラストを受けてというのが勿論あるんだけれど、前作のプレミアで香港に言った時に、一緒に行ったクリスが背が高く黒人であることから周囲から非常に注目されて目立っていたんだ。そのシチュエーションの面白さというのがありました。また、クリスと一緒にカラオケ・バーに行った時に、彼がマイケル・ジャクソンの歌をふざけて歌ったところ、真面目にカラオケをする香港のお客さんたちが腹を立てて店を出てしまったんだよ。そういうハプニングを、是非撮影してみたいと思ったんです。
撮影のエピソードで言えば、劇中クリスとジャッキーが裸で高速道路を走るシーンがあるんだけれど、ここは許可が取れず遠くからカメラを回しこっそりと撮ったんだ。ところが、二人が車から裸で降りる最初のテイクを撮っていたら、通りがかりの車から「ジャッキー、サインして!」と声がかかってNGに。彼は服を着てても目立つのに裸だったからね。ジャッキーは、もう二度とこのシーンは演りたくないと言い出したんだけど、僕が涙を流して頼み込んで(笑)もう一度お願いしたんだよ」









Q.作品中に中国の俳優さんが出てきますが、コミニュケーションはどのようにされたのですか?

「言葉に関していえば、ジャッキーもクリスも英語を話してくれますので、直接説明ができました。チャン・ツィイーだけは通訳を介しての演技指導でしたが、やはり数ヶ月かけて撮影しているうちに彼女は言葉が通じなくとも勘で判るようになったようだ。また、時々ジャッキーは中国語で話し掛けてくることもあったりしましたが、身振りや表情から意外と理解できるものなんだ。
ジャッキーのコメディのスタイルは、サイレント時代のロイドやチャップリン、キートンらに影響を受けているので、肉体を使ったフィジカルなユーモアがある。これは世界中のどこにでも通じるし、言葉は不用だ。それは、『ラッシュアワー』シリーズのヒットの要因であると思う。誰にでも通じるユーモアなんだ。
それと、ジャッキーとクリスはお互いが何を言っていたのか、本当には理解していなかったと思うけど、それでも仲がいいんだ。二人はあまりに違っているから、撮っているだけでも面白さがあるんだよ」

Q.監督として『レッド・ドラゴン』や『天使のくれた時間』のようなドラマを演出するのと、今回のようなコメディを演出する上での違いは?

「僕は様々なジャンルの映画を監督したいと思っているけど、兎に角一番難しいのがコメディだと思います。むしろ人を驚かせ、怖がらせ、泣かせるのは比較的楽だけど、笑わせることは大変難しい。特にアクション・コメディの場合、コメディの要素が多すぎると大味で馬鹿げた感じになる恐れがあり、アクションが多すぎると女性客を失う可能性があると、バランスを保つのが難しいんだ。そのために、バランスを保つことが一つと、これは“ジェームス・ボンド”シリーズの教えに則っているんだけれど、信じられる悪役を出すことが重要だ。そうすれば、コメディ・アクターでも反応が楽だ。だから本作は、ジョン・ローンやチャン・ツィイーという素晴らしい悪役で成功したと思います。特にチャンは素晴らしく、チャンとクリスで面白い関係が描けたと思うよ」

Q.新たに撮られる予定の『レッド・ドラゴン』には、アンソニー・ホプキンスは出演されますか?また、その他のキャラクターはいかがでしょうか?

「アンソニー・ホプキンスはレクター博士役での出演が決定している。その他、グレアム捜査官にエドワード・ノートン、盲目の女性レバにエミリー・ワトソンが現時点で決まっています。決まっていないのが殺人鬼ダラハイド役で、多くの有名俳優が名乗りをあげてくれているが、僕としては無名の新人を起用するつもりだ。犯人が誰だか判らない役者の方が、怖いと思うからね」








Q.『ラッシュアワー3』の方の予定はどうでしょうか?

「今回の『2』の終わりで二人はニューヨークに行くという設定だったので、オープニングはニューヨークからになると思うけど、二人ともすぐに馴染みの無い文化の国に行くことになると思うね。シリーズが世界的にヒットしているので何処の国に行ってもいいのだけれど、一つの候補として日本というのも考えられると思っている。もし、日本で撮影することになったら、この間実際に逢って凄く気にいったコメディアン、ナインティナインの岡村さんに『リーサル・ウェポン2』の中のジョー・ペシのような役をやってもらいたいと思っています。彼はとても面白いし、肉体的な動きも素晴らしい。他にも多くの日本人俳優さんに出演してもらいたいね。
それと、昨日相撲の稽古場を見に行ったのも、日本でやるなら是非相撲も入れたいと思ったからさ。クリスとジャッキーがヤクザの捜査の中で国技館に行って、いつものようにいいあいが始まって、喧嘩になって土俵に上がりこんでハチャメチャになる。アメリカ人には、相撲とクリスとジャッキーという組合せは、絶対に大受けだと思うんだ。そんな風に、日本にきて色々なアイデアが湧いてきているよ。
また、『2』の中でチャン・ツィイーさん以外で是非起用したいと思っていた日本の女優、工藤夕貴さんは大ファンで是非出てもらいたいと思っています」

Q.今回のチャン・ツィイー、今お話があった岡村さんなど他の国の俳優と仕事をされることが多いようですが、仕事の上で戸惑いなどを感じることはありませんか?

「僕はこのシリーズに関して白人の俳優は主役級に据えないことを、1作目から決めていた。1作目は中国人、黒人、スペイン系の女性が中心でしたし、今回も同じようなパターンでやっていますが、やはり1作目がヒットしたおかげで、マイノリティの子供たちが自分たちも映画スターになれるという大きな希望を持つようになった。トム・クルーズやトム・ハンクスのようなオール・アメリカンではなくてもスターになれるかもしれないというドアを開いたと思う。これから先も、黒人、アジア人、ヒスパニック系の人達を起用していくつもりです。『ラッシュアワー』シリーズでは、白人は主役級のいい役としては使われない。現場では白人は僕だけ、それを続けていきたいと思います」

なお、『ラッシュアワー2』は9月22日(土)より、丸の内ルーブル他全国松竹・東急洋画系にて拡大ロードショー。また、9月15日(土)には、先行レイトショー、先行オールナイト上映が開催される。

執筆者

宮田晴夫

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