現代日本SF界の旗手神林長平氏の代表作ともいうべき本格SF小説『戦闘妖精・雪風』、その待望の映像化が現在着々と進行中である。1984年に発表され第16回日本SF大会長編部門星雲賞を受賞した『戦闘妖精・雪風』と、99年に発表されたその続編『グッドラック 戦闘妖精・雪風』のニ作品を原作に、全5巻のオリジナル・ヴィデオ作品として再構成されるもの。バンダイビジュアル(株)の製作で、そのアニメーションの制作には内外から高い注目を集めるクリエーター集団“GONZO”が参加、ハードで洗練されたSF設定と骨太なドラマの本格的なSFアニメーションを目指し製作が進められている。
 8月18・19日の二日間、幕張メッセにて開催されたSFファンの祭典「第40回日本SF大会」の会場において、18日に原作者の神林氏をはじめスタッフが多数出席しての製作発表記者会見が開催され作品に関してのコメントを行い、また3DCGで描かれたなど作品の映像も一部披露され、作品完成への強い期待を感じさせてくれた。








 会見は製作母体であるバンダイビジュアル(株)の杉山潔プロデューサーの挨拶からスターとし、2年近く前から準備を進めて来たこの作品の4分ほどのプロモーション映像が紹介された。リアルで迫力ある空中戦、そして思い入れたっぷりに描かれた“雪風”の登場場面など、短いながらも実にその完成を期待させる映像だ。続いて、関係者一同がステージに登場し、今回の作品に関しての思いを語った。
 「自分の頭の中で考えたものが動くというのに、やはり感動しました」と語った原作者の神林長平氏だが、これまで様々な映像化の話しがあった中で、今回製作にゴー・サインを出したのは、杉山プロデューサーの熱意と飛行機に対する愛情からだという。そして映像化に当たり、これだけは外して欲しくない点として要望したのは、リン・ジャクスンという登場人物による客観的な目で世界、戦闘を描く視点にたつことと、戦闘シーンや飛行機の飛び方に拘っていくためにも、スタッフに実機の圧倒的な量感に触れてもらいたいとのことだった。これを受けて、本作のメイン・スタッフは、航空自衛隊の全面協力の下で、実機によるタクシングも経験したという。「本当に作者冥利につきます。いいスタッフに恵まれ、いい作品になることを、僕自身も原作の1ファンとして楽しみにしています」。
 本作で監督を務める大倉雅彦氏は、様々な作品にアニメーターとして参加してきたが、『戦闘妖精・雪風』が監督デビュー作となる。「原作は15・6年前に読んでいて、その頃から是非アニメ化したいと思っていたので、この機会を光栄に思っています。とはいえ、小説とアニメでは表現形態が異なりますので、コアでメンタルな部分は外しませんが、相談に快諾してくれた神林先生に甘えさせていただいて、表現としてはまた違うアプローチを考えています。」と原作とは別メディアである映像化に臨む姿勢を語った。航空自衛隊の協力による実機ロケに関しては、「実際に戦闘機に乗ったりとかもありましたが、Gスーツを装着した時の窮屈さや、パイロットや整備の方々と話しから知ることが出来た彼らの考え方が勉強になりました」と振返る。飛行場面以外も、かなりリアルな作品に仕上がりそうだ。また、キャラクター・デザインとして、漫画家の多田由美さんを起用している。「神林さんの文体の透明感、ソリッド感を絵に表現できないものかと思い、多田さんにお願いしました。非常にいいキャラクターを生み出してくれたので、いかに作画スタッフにそのバトンを渡していくか、頑張っています」と語った。







 メカニック・デザインを担当した山下いくと氏は、この日は都合により会見には出席できなかったが、実機に近いフォルムを持ちながら未来的なデザインの苦心点などとともに、「アニメのメカ設定は演出のために存在します。そうした部分が演出でどう生きてくるのか、お手並みを拝見しましょう」とコメントを寄せた。そんな山下氏のデザインを、映像化していくのが3D特技監督の竹内敦志氏だ。「この作品に関しては、それぞれの中にそれぞれの“雪風”が存在していると思いますが、その中から監督の持っているもの、私のやりたいもの、それぞれを引き出していってモデリングに反映し、ポリゴンとの戦いがあり、重くし過ぎてスタッフから嫌がられておりますが、風を受けたときにどういう形で飛ぶのかを追求していきたいと思い参加しています」と語った竹内氏、3DCG化に当たっても実機を観て、そのラインの複雑さを目の当たりにした時の魅力的な思いを反映することを意識したそうだ。
 本作は、音響にも力が入っており5.1chで絶大な臨場感で迫ってくる作品を目指している。音響監督を担当した鶴岡陽太氏は、「サウンド・ハンティングを行うことはままありますが、実際に体験してみることに重きを置いて滑走路の直ぐ脇で取材を行いました。流石にその音をマイクで収録できるものではなかったが、その体験の記憶をいかに人工的な媒体に盛りこんでいくかを、今回の一番の狙いとしてやっていきたいと思います」とコメントした。
 音楽は三柴理氏と塩野道玄氏のユニット“ザ蟹”が担当している。「原作を読破し、あの間に浮かんできたメロディを書きとめつつ、それを音楽にしていった」と語った三柴氏だが、今回の作品ではその曲の長さに関しても監督から、あまり時間に捕らわれず創っていいということだったので、1曲1曲が曲としても楽しめ“雪風”の世界が浮かんでくる作品に仕上げていっているということだ。
 なお、作品のエンディング・テーマは、ヘヴィーなトーンの作品の終わりに抜けるような効果をという大倉監督のたっての希望で、ムッシュかまやつ氏が歌っている。かまやつ氏はこの日の会見には不参加だったが、ビデオ・メッセージにて「元々飛行機が大好き。歌っているうちに、自分が操縦しているような気分になった。観ていただく方たちにもそうした気分になっていただければ大成功だと思います」とコメンとした。






 現『SFマガジン』編集長の塩澤快浩氏は、編集者として『グッドラック 戦闘妖精・雪風』の単行本化を担当している。「“雪風”はSFファンにとって、最も映像化を望んでいた作品であると同時に、最も観たくなかった作品でもあると思います。ファンの方々それぞれの“雪風”像がある中で、私も1ファンとして仕上がりを楽しみにしています。今回の作品は、原作では15年かかった2作を、一挙に観れる非常に贅沢な作品。また、原作は戦闘機が中心なのは勿論のこと、敵側のジャムという難しい存在をどう描いてくれるかを楽しみにしています」とコメントした。
 本作のアニメーションを制作しているのは、これまでも『青の6号』『VANDRED』など最先端を行く映像作品を制作してきている(株)GONZO。代表取締役である村濱章司氏は、その制作過程において大倉監督何度も「新しいものをつくるんだろ?」と問い返されたそうだ。「制作の過程でそれなりに実績もある製作者として、新人である大倉監督に「こうやった方がいいんじゃないか?」とか、言ったわけですが、「新しいことをやるからGONZOなんだろう」と逆に言われ、何度も勉強させられた作品です。これから頑張って素晴らしいものを創っていこうと思います。来年の星雲賞映像部門は、いただきたいと思いますので宜しくお願いします」と、自信に満ちた発言をする村濱氏。実際、スタッフそれぞれの思いのこもったコメントからは、それもあながち夢ではないかもしれない、ハイ・クォリティーなシリーズの完成を今から心待ちにしたいと思わせる記者発表であった。

 なお、『戦闘妖精・雪風』は2002年の春より、全5巻、各30分のオリジナルビデオアニメ・シリーズとしてリリースがスタートする予定だ。

執筆者

宮田晴夫

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