愛は時空を超える!?「イルマーレ」 イ・ヒョンスン監督独占インタビュー
「自分の生き方に正直であれば、素敵な愛はきっとやってきます」。こう語るのは「イルマーレ」のイ・ヒョンスン監督。日に焼けた人なつこい笑顔でこう言われると“そうか、そういうことなのか”と納得してしまうし、恋に破れて新しい恋を掴まえたヒロインを観ても“そうか、そういうことなのか”と頷きたくなってしまう。本作品は“時を隔てて”同じ海辺の家に住んでいた男女が、“時を隔てて”文通し、次第に心を通わせていくラブストーリー。期を同一にして韓国映画「リメンバー・ミー」でも似通った題材を扱っているが、「イルマーレ」では他人(脇役)には頼らず、自分たち(主人公)の想いだけで物語を発展させていく。(彼からしてみて)未来に住む彼女と(彼女からしてみて)過去に住む彼。果たして邂逅できるのか!?現在ラブラブ真っ最中の人も、失恋しちゃった人も、愛より仕事という人も決してお見逃しなく!!観賞前には本サイト独占監督インタビューも決してお見逃しなく!!
(撮影:中野昭次)
※本篇は2001年9月より渋谷シネパレスにてロードショー公開
——監督にとって5年ぶりの映画になりますが。
大衆的なシナリオじゃないと受け入れないっていう市場があるじゃないですか。でも、僕としては撮りたいものを撮れないくらいなら、撮ろうとは思わない。その間、ビデオやCMの仕事でしのぎを削っていたんですけど。
撮らなくてはと感じたのは、僕が尊敬していた撮影監督が亡くなった時。「八月のクリスマス」でも撮影をやっていたカメラマンなんですが、生前の彼と“映画っていうのは感情を揺さぶることだ”ってよく議論していたんですよ。純粋にね、驚いたり、哀しかったり、それが映画じゃないかって。お葬式でその会話を思い出し、映画の持てるべく本質的な力をもう一度引き出してみたいと思ったんです。
——脚本は「イルマーレ」が先だったそうですが、先に公開した「リメンバー・ミー」も同じような時空を超えたラブストーリーですね。印象を変えるために苦労した点は。
会えない2人のラブストーリーは今までにもたくさん作られてきました。「リメンバー・ミー」を含め、主役の当人同士は会ったことがなくても脇役に共通する人物を置くことが常。「イルマーレ」では逆に脇役を余り出さず、主人公2人だけで話を進めていくようにしました。
——イルマーレはイタリア語で“海”の意。タイトルロールの海辺の家が重要なファクターになっていますね。
私たちが住む都市は往々にして垂直なラインで、緊張だとか不安を醸し出させる。逆に本質的な孤独を表現するためには水平なラインが必要でした。シナリオの段階では田舎の田園風景を思い描いていたんですが、実際にロケハンをしてみて、ちょっと違う気がした。それで、海を探したんだけれど、ぴったりくる場所を探すのがまた大変だった。韓国の東側にある海は透明すぎて何かが違う。映画に出てくるのは西側の海で、不透明で灰色がかった水がこの映画に合っていると思ったんです。
——主演の青年イ・ジョンジェは韓国で人気急上昇中の若手です。
彼はこれまで監督と話し合って映画を作っていくということがどうも苦手だったみたいだけど、今回は色々とアイディアを出してくれました。ジョンジェはこの映画で成長したといっていいと思う。父親が亡くなって海辺を走るシーンは彼が提案したものだよ。
——時を隔てて2人がデートする街路樹、パスタ料理や年代物のワイン、洒落たディティールが多いですが、これは監督の実体験からなるものですか?
……(笑)。個人的にディティールが好きなんです。外国に行くと蝋燭とかね、レターセットとかね、大きなものよりちょっと雰囲気のある小物の方が欲しくなる。
——ということは…?実体験が多いってことなんですか(笑)?
……(笑)。半分は経験で、半分は考えたものだよ(笑)。
——現在構想中の作品も含め、女性に焦点を当てた映画が多いようですが。
男性の視点から撮ろうとは思わないんですね。愛する女性、たとえば母や姉、恋人が幸せそうにしている時に幸せを感じる。“こうしたら彼女に愛されるだろう”、なんてことは考えない。どうしたら彼女が、彼女らしく、ありのままで幸せを感じるかってことが重要なんです。
女性は現在でさえも、社会的なしがらみから完全に開放されていない。愛か仕事かを選ばなくちゃいけないこともある。「イルマーレ」のヒロインは愛よりも声優の仕事を選んだけれど、結果的に別の愛を手に入れた。臆せずして自分の生き方を貫いた人には新しい愛が待ってるってことを伝えたかったんです。
執筆者
寺島まりこ