この夏、ちょっと気になる映画が公開される。
「ボディドロップアスファルト」。仕事もなく恋人もいない真中エリ。そんな日常の中で架空の自分”リエ”を主人公にして書いたロマンチックな小説がベストセラーになり、エリは一躍人気小説家に。でもやっぱり現実のエリはうまくいかない事ばかり。理想と現実、日常とフィクションの世界が境がやがて曖昧になり、そして・・。
カラフルでポップな映像、モノローグが続くシナリオ、ラテン系の音楽。
かなりクセモノの映画である。その映画の監督は、どんな女性か・・・。
(撮影:中野昭次)



カラフルでポップな映像、モノローグが続くシナリオ、ラテン系の音楽。
かなりクセモノの映画である。その映画の監督として、どんな女性か・・・。
現れたのが、夏らしいあっさりとしたワンピース姿の女性だった。
威圧的でもエキセントリックでもなく、ごく普通に礼儀正しく話してくれ、しかし言葉を大切にする人だった。映画の中では、主人公エリの独白がBGMと溶け合って不思議な音楽になっている。エリは主題歌を歌いもするが、歌わなくてもセリフそのものが耳に心地良いのだ。エリを演じる小山田サユリの細い外見と儚い声がそれに良く似合っている。和田監督と話しているうちに、その事がしきりに思い出された。

「22歳の私を27歳の私から見て描いてみたかったんです。」
服飾関係の会社に勤めながら、和田淳子監督は映画の道を歩んでいる。自分から言わなければ、彼女がこんな面白い映画を作ってしまうなんて気がつかないだろう。ただ彼女は自分の好きな物、目指す方向をしっかりと理解している。

自分の生き方にも未来にも、どこかあやふやなままもがいていた22歳の自分。そんな自分を27歳の今だから振り返ってみたい。今だから余裕を持ってみつめられる。自主制作の短編映画の世界では、すでに高い評価を受けている和田淳子監督は、長編の初監督作品のテーマに「あの頃の自分」を持ってきた。もちろん、そのままではない。なんとなく生きている女の子エリ。彼女がいきなり人気小説家になり、そこで生ずる様々な出来事のコラージュの中に、和田監督の“真実”が散りばめられている。




大島弓子さんの漫画を実写にしたらこんな感じかなという印象を受けたのですが?

「良く言われます(笑)映画らしさとか、映画作りのルールみたいなものをいい意味で無視しているせいかもしれません。じゃあ、映画のルールって何なんだ、っていうのがテーマなんですけれど。話が急展開する部分なんかが、漫画に例えられることが多いですね。」

擬音やモノローグの多さに、そんな感じがしました。

「モノローグは、書く時に、韻をふむというか、声に出して読んでみながら進めていくんです。同じセリフでも声に出してみると、歌を歌うように書けてリズム感が出てきますよね。」

冒頭に足が沢山出てくるシーンがありますね。タイツや靴でそれぞれの性格が出ていて面白いシーンでしたが、あのアイディアはどこから得たのでしょうか?

「ルイ・ヴィトンの広告写真に感激したんです。女の人の足だけがズラリと10人くらい並んでいる、“靴”の写真。モデルさんの中から似たスタイルの足の人を選んだと思うのですが、つい、動き出したところを想像してしまって、すごくドキドキしたんですね。突然、このモデルさんたちが動き出したら、ダンスだ、ミュージカルだ、スゴイきれいだろうな、っていう。」

映画そのものはお好きなのですか?

「いえ、映画ファンではないですね。演劇を録画したようなストーリーを追う物は苦痛なんです。逆に言うと、120分という時間を感じさせない映画、というのは、私にとっては大感激で、何度も繰り返して見たりします。リズム感のあったり、衣装が楽しかったり、小道具が面白かったり、ストーリーだけでなく楽しめるものが映画だと思うんですよ。ミュージカル映画が一番好きですね。展開の読みにくさだと思うんですけど、次はどんな曲?次はどんな衣装?次はどんなタイミングで踊り出す?みたいな感覚です。」

監督の映画がシーンの展開も早いし、カットが沢山入るのもそれで頷けます。映画を作り始めたきっかけを教えてください。

「せっかく思いついた、とっておきの話を忘れないようにしたかったからですね。でも、映画のカメラの使い方を勉強したわけではなかったので、きっかけの全てはビデオカメラです。」





キャスティングですが、個性的な役者さんを選んでいますよね。

「今回は愛知芸術文化センターから資金が出たということで、今までしたくてできなかったことをしたい、という気持ちが強くありました。記念という意味でも、思い入れの強い方だとか、個人的にファンだったりする人にお願いしたい、というのはキャストだけでなくスタッフに関しても同じですね。音楽をお願いしたコモエスタ八重樫さんにしても、キャストで言うと、田中要次さん、岸野雄一さんもそうです。」

撮影現場ではいかがでしたか?

「初めてで解らないことだらけでした。他のスタッフは商業作品の経験がある人ばかりだったので、教えられることが多かったです。今まではほとんど自分ひとりでやってきたので、スタッフに任せるのが不安でしたね。でもミーティングを重ねながら、人によって解釈が違う、ということをプラスに考えるようになってから、私自身も楽しめるようになりました。多いときは、3台のカメラを廻していたのですが、後で見て、こんな撮り方もあるんだ、という発見があることに感動しましたね。」

タイトルも面白いですね。これはラスト近くのシーンからだと思うのですが。

「そうです。それと語感と、書いた時の字面が良かったので決めました。この作品は主人公のエリと同世代の女の子に見て欲しいんです。奇麗事じゃないリアルな22歳の女の子が描けていると思っているんです。」

確かにエリは、ずるい所も、白馬の王子様を夢見る甘えた所もありますね。

「そういう事も踏まえて、観た人がどう感じてくれるかが楽しみです。」

執筆者

鈴木奈美子

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